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140. 敗北の知らせ

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 お父様が陛下を脅してから2日、私達一家は王都を出てアストリア領にある屋敷へと向かっていた。
 今回の移動は竜を使っているのだけど、アトランタ家の協力のおかげで使用人さんたちも一緒に来れている。

 今回の移動は王都からの避難の意味があるから竜を使っているのだけど……飛び立ってから10分も経たないのにアストリア領に入っていた。


「アストリア領の外側は本当に何もないから分かりやすくて助かるよ」

「王都から逃げる時は隠れる場所がなくて困ったわ」

「流石に味方が逃げるのは想定していなかったんだね」

「想定してる方がおかしいわよ」


 アストリア領の外側は戦争に備えて何もない更地になっている。
 お陰で、魔法の効果もあって夜中だろうと街道以外から入ることは出来ない。

 だから、王都から逃げる時は街道を通るしか無かったのよね。
 怪しい動きをすると簡単に攻撃されてしまうから。

 領地から出る時は山の中で魔法による監視だから問題無かったけどね。


「味方が逃げ込めないのは問題だな……。帰ったら隠し通路を作るように指示しよう」


 ふと、そんなことを口にするお父様。
 まさか私とジーク様の会話がこんなことになるなんて。


「僕がいるのにそんなことを言って大丈夫なんですか?」

「もし敵に利用されたら破壊して生き埋めにすればいいだけだから問題ない」

「容赦ないですね」


 本気で相手を殺すことを考えるお父様は少し怖いけど、これくらいしても攻め込まれる不安はあるのよね……。
 だから、こんなことでお父様を避けたりはしない。


「少しでも容赦したら殺されるのはこちらだからな」

「それもそうですね」


 それからは他愛無い会話を交わし、気がついた時には屋敷まですぐになっていた。



 竜から降りて玄関に入ると、ここの屋敷で暮らしているお祖父様とお祖母様、それに使用人さん総出で出迎えに来てくれていた。


「「おかえりなさいませ!」」


 達が揃って頭を下げるここの使用人さん達。
 王都にいた使用人さん達は出迎えられるのに慣れていないせいか、困惑している様子だった。

 つられて頭を下げていた人もいたけど、みなかったことにしようかしら?


「ただいま戻りました」


 今度は、そう口にして頭を下げるお父様に続けて私達が頭を下げる。お客様のジーク様は当然頭は下げていない。


「おかえり。皆無事でなによりだ。
 ソーラスは話があるから一緒に来てくれ。あとの皆は自由にしてもらって構わない」

「おかえりなさい。とりあえず今はゆっくり休むのよ?」


 お祖父様とお祖母様がそう口にし、それぞれが返事をして割り当てられた部屋に向かおうとした時だった。


「報告します! イストリア戦線、第一防衛線が突破されました!」


 ローザニア敗北の知らせが届いた。
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