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133. ルシアside 恐怖の時間②

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「さっきから何してるんだい?」


 しばらく魔力を飛ばしていた時だった。
 王子に首筋を撫でられ声をかけられたのは。


「やめて……ください……!」


 気持ち悪い……!

 必死になって身体を捩って王子の手から逃れようとしても、拘束されているせいで叶わなかった。


「なに逃げようとしてるのかな? もしかして、もっと酷い目に遭いたいのかな?」

「どうしたらそんな考えになるんですか? 私がそんなこと望む訳がないじゃないですか」

「そうやってまた反抗するんだ?」


 ここまで来て、ようやく悟った。
 この人には何を言っても無駄なのだと。


「……」

「無視? なら自由にしてもいいってことだね」


 諦めた私が王子の言葉を無視すると、彼はそんなことを言いながら私の脚に手を這わせてきた。
 そして、その手は少しずつ上半身の方へと向かい始めた。

 嫌な男に素肌を触られて悪寒を感じ、冷や汗まで出てきてしまった。
 単純な暴力ならお父様のお陰で耐えられるけど、こんなのは耐えられない……!

 もう……こんなの嫌……。

 汚されてしまったら、嫁ぐことは出来なくなってしまう。
 そう考えたら涙が溢れてきてーー


「ルシアから離れて!」


 ーー乾いた破裂音の直後、お姉様の声が聞こえた。


「やっと来たんだね? 約束通り、1人だよね?」

「ええ、ここには私しか来ていないわ。だから約束通りルシアを解放して」


 普段よりも低い声を出すお姉様。
 表情を見なくても、いつになく怒っているのを肌で感じることができるほどの威圧感があった。


「分かった、解放するよ。フィーナが純潔を僕に捧げてくれたらね!」


 そんな状態のお姉様を逆撫でする言葉を平然と言ってのけるこの王子は頭があるのか疑問になるわ。


「……それ、本気で言ってるの? どうやら貴方には身の程を分からせないといけないみたいね」

「身の程を知るべきなのはフィーナだよ! この部屋はね、魔法が使えないようになっているんだ。
 魔法無しに僕に勝てると思ってるのかな?」

「そんなに言うならいいわ。私の本気、見せてあげる」


 そう言いながら王子の方へゆっくりと足を進めるお姉様。
 素手のお姉様に対して王子は剣を構えていて、何も知らない人が見ればお姉様が敗れると思える状況が出来上がった。

 そしてーー


「もしも君が起き上がれなくなったら、責任はしっかりとるから安心してね」


 ーー緊張感のない言葉と共に王子が斬撃を繰り出した。


「恐怖で動けないのかな?」

「斬らないの?」


 お姉様の肩口に触れた状態で剣を止めた王子と全く動く気配の無いお姉様。


「まさか君がそんなに怖がりだったなんてね。愛でるのが楽しみだよ。
 でも、その前にお仕置きしないとね?」


 相変わらず気持ち悪いことを口にする王子はお姉様の胸に手を伸ばしてーー


「触らないでっ! 気持ち悪い」

「ぐぎゃっ⁉︎」


 ーーお姉様の蹴り上げを受けて後ろに飛ばされた。
 何かが潰れるような音と共に。
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