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112. 王都から王都へ①

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 無事に婚約発表を終えてから1週間、私とジーク様はローザニアに向けて移動している。
 というのも、一年のうちで一番大事な行事になっている建国記念祭がもうすぐ行われるから。

 今回はグレイブの王都からの移動だから、ローザニアの王都に着くのまでに5日かかるみたい。
 今日で4日目だから、あと少しのところまで来たことになる。

 ちなみに、さっきから周りは全く見えていない。


「すごい霧だな……」

「そうね……。護衛とはぐれていないか心配だわ」

「それは大丈夫だ。竜は視覚以外で仲間の位置を把握できるからな」

「そうなのね、良かった……」


 安心して息を吐く私。でも、大変なのはここからだった。


『ワイバーンの襲撃が来るよ!』

「えっ、この中で戦うの⁉︎」

「大丈夫だ。ブレスで薙ぎ払うだけだから」

『耳、塞いで!』


 そんな声が聞こえて慌てて耳を塞いだ次の瞬間、アルディアさんが私の方に顔を向けて口を開いていた。


「っ……!」


 口の奥に青い炎のようなものが見えて息を呑む私。
 次の瞬間、私の頭の上を青白くて細い炎の筋が通り過ぎていった。破裂音を響かせながら。


『驚かせてごめん……』

「気にしなくていいわよ」


 それからアルディアさんは何回かブレスを放った。


『倒し終わったからもう安心していいよ』


 結局、ワイバーンの姿を見ることはなく戦闘が終わっていた。
 まだ直接見たことないから見てみたいなんて思ったけど……これは口に出さない方が賢明ね。


「フィーナ、怖かった?」

「アルディアさんのブレスが私に来そうで怖かったわ」

「それ以外は?」

「なんとも思わなかったわ」


 私が思った通りのことを伝えると、ジーク様は頭を抑えてからこう口にした。


「一応ワイバーンの強さについて教えておくけど、生身の人間が爪で引っかかれただけで骨が砕けて内臓が飛び出すくらいには強いからな。ここではアルディアが守ってくれるから怯えなくてもいいが、見かけても不用意に近付くなよ?」

「そんなに強いのね……。気をつけるね」

「ああ、そうしてくれ。あと、竜は一撃で肉塊になるから喧嘩中は無理に止めなくていいからな」

「わ、分かったわ……」


 突然恐ろしいことを告げられたから冷や汗をかいてしまったわ……。
 アルディアさんって、そんなに強かったのね!


『僕がフィーナを傷つけることはしないから安心してね?』

「うん」


 頭の中に響いた声に頷くと、アルディアさんが顔をお腹のあたりに擦り寄せてきた。
 飛びながらなのに、器用すぎない⁉︎

 思わぬところで驚かされてしまったわ。


 それから1時間ほどで霧を抜けることが出来て、その30分後には予定通り夕方にお屋敷に到着した。


「「お帰りなさいませ!」」

「ただいま」

「ただいま~! わざわざみんなで出迎えてくれてありがとう」


 ジーク様に続けて挨拶とお礼を口にする私。
 この後はいつもの部屋で着替えてからすぐに夕食になった。
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