婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜

八代奏多

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86. 公爵家でお茶会②

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「フィーナ様、到着いたしました」


 公爵邸の玄関前で馬車が止まり、御者台からそう声をかけられた。


「ありがとう、行ってくるわ」

「行ってらっしゃいませ」


 護衛さんの手を借りて転ばないように気をつけながら馬車から降りた私はエントランスに向かった。


「いらっしゃいませ。本当はお嬢様がお出迎えする予定だったのですが、つい先ほどテレーゼ様がいらしたばかりでして……」

「そうでしたのね。でしたら、ローズ様が戻ってくるまで待っていますわ」

「ありがとうございます」


 私が待つと言うと、出迎えの侍女さんはそう言って頭を下げた。

 少しして、廊下の向こうにローズ様の姿が見え、同時にエントランスの扉が開いた。


「フィーナ様⁉︎ ごきげんよう。まさかエントランスでお会いするとは思っていませんでしたわ」

「ごきげんよう。私も驚きましたわ」


 私達が挨拶を交わしていると、ローズ様が辿り着いてこう口にした。


「ごきげんよう。今日は招待に応じてくれてありがとうございます。それと、待たせてしまってごめんなさい」

「「ごきげんよう」」


 挨拶を返したらテレーゼ様と声が重なってしまった。
 慌てて続けて口にしようとしていた事を留めてテレーゼ様の方を見ると、目線で「先に言って」と伝えてきた。


「今日は招待してくださってありがとうございます」

「こちらこそ、招待に応じてくれてありがとう」


 私が頭を下げると、ローズ様もそう言って頭を下げていた。
 ちなみに、グレイヴの社交界では親しい間柄なら初めの挨拶以外は基本的に打ち解けて話す。ローズ様が口調を変えたのは「ここからは楽しくお話ししましょう」と言いたいからだと思う。


「アエリア様を待たせてしまっているから、そろそろ上がって」

「「お邪魔します」」


 案内されたのは、4人でお茶会をするには広すぎるお部屋だった。

 2階くらいの高さがある天井から9つの煌びやかなシャンデリアが下がっていて、その天井も煌めく石ーー宝石で模様が描かれていた。
 テレーゼ様は慣れているのか全く動じていないけど、私は驚きすぎて固まってしまっている。


「驚いたでしょ?」

「えぇ、まさかこんなに豪華なところに案内されるとは思わなかったわ」

「本当はもっと小さい部屋がいいけど、一昨日から改装中で使えないのよ。よくこうなるから、テレーゼ様とアエリア様は慣れてるわ」

「そうなのね……」


 うちにもパーティーを開くときに使う大きな部屋はあるけど、天井いっぱいに宝石なんて詰まってないから驚くのも無理ないよね……?

 私が曖昧な表情で返すと、窓際のテーブルの方から歩いてきていたアエリア様に声をかけられた。


「テレーゼ様、フィーナ様、ごきげんよう」

「ごきげんよう、アエリア様」

「ごきげんよう」


 テレーゼ様に少し遅れて挨拶を返す私。
 その様子を見ていたアエリア様は何故か突然笑い始めた。


「何かおかしかったかしら?」

「ごめんなさい、フィーナ様の驚いてる様子が面白くて」

「あら、アエリア様の方が面白かったわよ? 突然座り込んだと思ったら、腰を抜かしてしまいましたの……って言うものだから心配よりも先に笑いが込み上げてきてしまって……ふふっ……」


 なんだかよくわからないけど、アエリア様が驚き方で一番すごいらしいというのは分かった。
 テレーゼ様まで笑い出すものだから私も釣られて笑ってしまった。
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