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68. お屋敷での過ごし方②

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「お願いってなんですか……?」


 大量の服を前に、ジーク様の意図が分からない私は思わずそう口にした。


「ここにある服を片っ端から着てもらえないかなって」

「それはいいですけど、全部着てたら時間無くなりませんか?」

「今日全部とは言わないよ。駄目か?」

「分かりましたわ」


 暇つぶしには良さそうだから、着せ替え人形になることを了承した。


「これからお願い」

「ここで着替えるのですか……⁉︎」

「これはワンピースの上から着るものだから問題ないだろ?」

「普通のドレスだと思ってましたわ……」


 少し恥ずかしくて顔を赤らめてしまう私。
 ジーク様にそれを見られたくなくて、彼の反対側を向いて上着のドレスを着た。


「これは少し微妙だね……」

「ソウデスネ」


 姿見に映る自分を見てそう答える私。
 一番残念なのが、部屋着にしているワンピースの裾が見えてしまってることだと思う。


「じゃあ、次はこれ着て。向こう向いてるから」

「分かりましたわ」


 ジーク様が壁の方を向いたのを確認して、着替えようとした時にあることに気付いた。

 ジーク様が向いてる方に姿見があるじゃない……!


「あっちを向いていてください」

「え、なんで?」

「姿見で私のこと見ようとしてましたよね?」

「ここからだと見えないよ」

「見えなくても、見られてそうで嫌なのであっち向いててください」

「分かった」


 それから私はジーク様の言われるままに、フリルが沢山あるドレスや少し胸元が心許ないドレスだったり絶対に着ないだろう派手なドレスだったりを着た。
 ジーク様の目的はよく分からなかったけど、派手なドレスを着た時は「これは絶対ないな」と口にしていたから、何か目的があるのだと思う。


「次はこれ……はいいや」

「なんですかそれ?」


 かなり丈の短いドレスが見えたのだけど……。


「これ? よく分からないけど、父上がふざけて買ったものだと思う」

「短くないですか? それに、胸元も心許ないですし……」

「これを着たらいかがわしい感じになると思うけど、着てみる?」

「そんなもの着れませんよ!」


 下着と言われても不思議にならない作りのドレスって、何かの洒落かしら?

 ジーク様……期待した目で見ても着ませんからね!


 いかがわしいドレスを着せるのを諦めたジーク様は、今度はさっきまでとは違う場所からドレスを取り出した。


「次はこれ着てみて」

「はい」


 飾り気の控えめな普通のドレスを差し出されて頷く私。

 早速、ジーク様を部屋の隅に追い払……行ってもらってから着替えてみると、ある点に気付いた。


「これ、サイズちょうどいい気がするのですけど……」

「フィーナの身体に合わせて作らせたものだからね」

「えっ⁉︎ いつ作ったのですか?」


 作ったものとは思っていなかったから、驚いて声まで上げてしまった。


「それは秘密だよ。やっぱりフィーナのために作ったドレスが一番だね」

「次の社交界用のドレスはこれで決まりですね」


 生地は社交界用のドレスに使うものとは少し違うみたいだけど、デザインは社交界用のドレスにしてもおかしくないくらい良いのよね。


「それ、一応部屋着用だよ。良い素材を使ってるわけではないからね」

「そうなんですね……」

「ちなみに、いくらかかりましたか?」

「えっとね……ユリウスに聞いてくるから少し待ってて」


 え、把握してないの⁉︎

 驚く私を他所に、ジーク様は部屋を飛び出していった。


 それからすぐに戻ってきたジーク様が口にした金額は安い社交界用のドレスのと同じくらいだった。


「そんなに高いものを部屋着にして良いのですか?」

「俺たちからしたら安いんだ。だから問題無い」

「そうですか。ありがとうございます」


 私は侯爵令嬢でお金には余裕しかなかったから金銭感覚は狂ってると思っていたけど、ジーク様の金銭感覚は完全に狂ってるみたいね……。
 こんなに高い部屋着なんて持ってなかったもの。

 このドレスは動きやすくて着心地もとても良かったから、普通に着ようと思っている。


「明日から着て過ごしてみますね」

「気に入ってくれたのか?」

「はい、とっても」


 そう返事をした時には、すでに空が赤く染まっていた。



 その夜、ティアナさんと話している時に魔力の塊が飛んでくるのを感じた私は慌てて声を上げた。


「こっちに来て!」

「は、はい」


 急いでティアナさんと私を守るように防御の魔法を使う私。

 その直後、何かが窓を砕いて部屋に飛び込んできた。
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