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50. ジークside 社交界前夜

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「ジーク様、王都を案内していただけませんか?」


 パーティーの前日の朝、俺は心の中で大喜びした。
 フィーナからデートに誘われて喜ばないはずがない。

 移動中にフィーナとの距離も縮まって、そろそろ口付けくらいはしたいところだが……嫌われたく無いので我慢している。そんな状態でのこの誘い。
 俺の理性を試しているのだろうか?


「それはデートの誘いか?」

「で、デート……⁉︎ わわ、私はそんなつもりじゃ……」


 顔を赤らめるフィーナ。慌てる姿も可愛い。


「デートの方が俺としては嬉しかったんだけど、フィーナがそう言うなら我慢しよう」


 俺が素直に気持ちを言うと、彼女は申し訳なさそうに俯いた。
 そんな仕草をされたら許す以外の選択肢が無くなるのは仕方ないだろう。


「どんなところに行きたい?」

「何があるのか分からないので、おすすめのところでお願いしますわ。
 空から見た塔の近くも見てみたいです」


 塔は王宮の真ん中に建っているから、王宮パーティーに参加する明日、間近で見ることになる。
 だから、俺はフィーナの塔を見たいというお願いを断った。

 もちろん、他のところは行かないから


「塔は王宮にあるから、明日嫌でも見ることになる。だから、他のところに行こう。

「そういうことなら、今日は行かなくて大丈夫です」

「助かるよ。塔に行ってたら時間が足りなくなるからね。準備はどれくらいかかる?」

「10分あれば大丈夫ですわ」

「分かった。10分後にエントランスで待ってる」


 それから8分後にエントランスに来たフィーナは一言で言えばとても可愛いかった。
 好きな女の子のが可愛く見えるのは当たり前だが、それを差し引いても可愛い。

 おそらく、今日の髪型が普段と違うのが原因だろう。


「お待たせしました!」

 そう言って駆け寄ってくる彼女を抱きしめたい衝動を抑えてこう口にした。


「馬車の準備は出来てるから、出発しよう」


 せめて手を繋ぎたくて手を差し出せば、フィーナは手を重ねてきてくれた。


「デートは楽しみか?」

「デートじゃないです……」


 手を繋いでいてもデートでは無いらしい。
 周りから見れば確実にデートに見える筈だが、手を離されたく無いので黙ることにした。


 そうして馬車に乗り込み、最初の目的地の貴族向け商店街に向かった。

 移動中はフィーナの隣に座っていたお陰で、彼女の温もりを感じられたのだが……抱きしめたい衝動に駆られるので少し距離を取ることにした。
 獣のように欲だけで襲いたくはないからな。

 距離はとっても、手は握り続けていると、こんなことを言われた。


「なんで馬車の中でも手を繋ぐのですか?」

「なんとなく」

「じゃあ、離してもいいですか?」


 どうやらやりすぎてしまったらしい。

 やってしまったと思いながら、俺は手を離すのだった。
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