半月後に死ぬと告げられたので、今まで苦しんだ分残りの人生は幸せになります!

八代奏多

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68. 余命2時間

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「頼む、出してくれ! 漏れそうなんだ!」

 ガタガタと音を立てる机の中から、曇った声が聞こえた。

 これは……アドルフの声ね。
 漏らされるのは嫌なのだけど、出したら絶対に襲われるわよね……。

 ちなみにだけど、机の中には光の魔力を流し込み続けていて、内側には防御の魔術も張っている。だから、簡単には抜け出せないと確信している。

「安心してください。事が済んだら新品に変えますから」
「分かりましたわ、ありがとうございます」

 うん、このまま放置でいいわね。

「しばらくそこで反省してなさい」
「はあ? ふざけるな! 本当に漏れそうなんだよ!」
「知りませんわ」

 机の中に向かって言い捨てる。

 殿下と騎士団がやって来たのはその時だった。

「待たせてしまって済まない。罪人はどちらに?」
「ここですわ」
「机の中か。まさか拘束まで済んでいるとは思わなかった。机ごと連行しても構わないか?」
「ええ、大丈夫ですわ」

 私が返事をすると、殿下が光を放つ石を机の上に置いて、すかさず騎士さん達が机を持ち上げた。
 この机、鉄製で人も入ってるのに……よく2人で持ち上がるわね……。

「では失礼する」

 一礼してから廊下に出ていく殿下と騎士さん達。
 あっという間の出来事に、少しだけ沈黙が続いてしまった。


   ◇  ◇  ◇  


 場所を移して、王宮内の中庭。
 中庭自体は6ヶ所あるのだが、この中庭は石畳が敷いてあるだけの場所になっている。

 使用目的は、処刑。
 そして今、この場にはまきが運び込まれていた。

「早くしろ!」
「「はっ」」

 よく燃えるように計算されて積みあがる薪は、何も知らない者からすれば壮観だろう。
 だが、これは処刑台。そんな感想を持つ者はほとんどいなかった。

「罪人が来たぞ! 開けろ!」

 そんな声がかかったと思うと、大勢の騎士に囲われた机が運び込まれてくる。
 机の中に紙類は入っておらず、縄で縛られた引き出しの中に罪人が入っている。

「これより、瘴気を生み出した罪人の処刑を行う」

 国王の声がかけられ、場の空気が一気に変わる。
 この場にいるのは、今まで自分達を苦しめてきた者の最後を見届けようと集まった野次馬、そして厳戒態勢を敷くための騎士団。この場に似つかわしくない令嬢と国王と王太子だ。

 野次馬はともかく、国王達には役目がある。
 国王は罪人の魔力を抑え込み、王太子は罪人が生み出す瘴気を広がらないように光の魔術で包み込み、令嬢は光の魔力で罪人の瘴気を封じ込める。

 役者は全て揃っていた。

「開けろ」
「はっ」

 騎士団長の指示によって、縄が解かれる。そして、引き出しが開けられた。

「立て」

 そんな言葉と共に、下半身を濡らした男が引っ張り出される。
 汚物アドルフが汚物まみれになっている姿に、騎士団員はあからさまに鼻を抑えた。

 アドルフも馬鹿ではない。この隙にと大暴れを始めるが、多勢に無勢。
 あっさり手を縛られ、高さがあまりない十字架に磔にされてしまった。
 
 そして……。


   ◇  ◇  ◇


「瘴気により、王都の数多くの民を殺めた罪は、死で償う他ない。よって、罪人アドルフを火刑に処す」

 陛下が罪状を読み上げる。それでも、アドルフの表情が変わることは無かった。
 さっきは怒りをにじませていたけど、今は無表情のまま。

 きっと諦めたのね。そんな風に思えた。

 ちなみにだけど、私が処刑に立ち会っているのは、彼の最後を見たかったからではない。
 彼の瘴気を確実に抑えられるのが、私しかいなかったから。

 私に酷い扱いをしていた彼の最後を見てみたいという気持ちが全く無かったと言えば嘘になるけれど。

「罪人よ、何か言いたいことはあるか?」
「許さない……。特にレティシア、お前だけはな! お前さえいなければこうはならなかった!」

 瘴気の量が増えた。でも、余裕で抑えられる。

「全く反省していないようだな。地獄で反省しろ」

 騎士団長の言葉に合わせて、薪に火がつけられた。

「そうだそうだ! 地獄で反省しろ!」
「絶対に許さないからな! 父さんを奪いやがって!」

 次々にかけられる罵声。
 その度に、瘴気の力が増している感じがした。

(耐えられそう?)
(あと1週間くらいは大丈夫そうよ)
(さっきの10倍くらいね? もしかして、魔力増えた?)
(そうかもしれないわ……)

 フレアとそんなことをしている間に、炎はどんどん大きくなっていって、アドルフは完全に炎に包まれていた。
 でも、明らかに生きていた。

 服は焼け落ち始めているけど、肌は爛れてすらいない。

「レティシア、これ以上は見ないほうがいい」
「そうみたいですね……」

 異常な状態に殿下は焦ったみたいで、私の前に立ちふさがってくれた。
 うん、このままだと絶対にあの男の下半身を見る羽目になっていたわよね……。

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