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65. 余命12時間
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「夕方までは明るいから大丈夫だと思うけど、日が落ちたら分からないわ。
一応、逃げる準備をしておいて」
「分かったわ。一応、殿下に伝えるわね」
アレと戦うのは、流石の殿下でも厳しいと思う。それに、逃げるとしたら馬車になってしまうから……。
ううん、加護があるから大丈夫。気にしたらダメよね。
「とりあえず、着替えてくるわね」
逃げる事は一旦忘れて、着替えに向かおうとする私。
部屋の扉がノックされたのは、その時だった。
「ジグルドだ。知らせたいことがあるから、開けてほしい」
「分かりましたわ。少しお待ちください」
夜着のまま人前に出るわけにはいかないから、慌てて上着を取り向かった。
とりあえず、これを羽織っていれば夜着というのは分からないわね……。
「お待たせしました」
「おはよう。瘴気が動いた事については知っているか?」
「ええ、知っていますわ」
殿下も知っていたのね。
精霊の加護があるのだから、当たり前かもしれないけれど……。
「それについてだが、王宮を守るために元凶を潰しに行く事になった」
「流石にそれは無謀だと思いますわ」
「だが、王宮の人々を守るためには仕方ない。もちろん、レティシアの手を借りるつもりもない」
そう口にする殿下の表情は、思っていたよりも穏やかなものだった。
きっと覚悟を決めているから、こんな顔ができるのね……。
でも、あの瘴気の塊に突っ込むのは、払う力しかない殿下には無謀すぎる。
そう思えて仕方なかった。
「安心してくれ。元凶は王宮の中にいるようだ」
だから、こんな言葉を聞いた時には耳を疑った。
「王宮の中、ですの?」
「ああ。今朝、また瘴気が玉座の間に入っているのが見つかったんだ」
詳しく聞いてみると、玉座の間の周りは常に監視されていて、瘴気が入れない状態だったらしい。
それなのに、中が無人になる夜の間に瘴気が入り込んでいた。
だから、王宮の中にいる何者かが元凶だと判断したらしい。
「そういうことでしたのね……。でも、元凶というのはどこにいるのか分かっていますの?」
「1人だけ怪しい人物が目撃されているから、その人物を追う」
「分かりましたわ。ご無事をお祈りします」
「ありがとう。では、失礼する」
そう言って、廊下の向こうに歩いていく殿下。
私はその姿が見えなくなるまで見送った。
そして扉を閉めてから時計を見ると、少し急がないと間に合わない時間になっていた。
「レティ、この辺はやっておいたわ」
「ありがとう」
うん、これなら大丈夫そうね。
そう判断して、いつも通りのペースで準備を進める私。
数分後には最低限の装飾品なんかも身につけ終えていて、朝食のためにレストランに向かった。
今日も行列になっていて、諦めたけれど。
数分後、仕事場に辿り着いた私を待っていたのは、昨日と同じパンの山だった。
「今日も作ってくださいましたのね」
「ええ。昨日と味を変えてあるので、好きなだけ食べてくださいまし」
「それなら……ありがたく頂きますわ」
そう伝えて、早速ひとつ口に運ぶ。
すると、ほのかに甘い感じがして、少し驚いた。
これは……イチゴの味ね。
もう1つは、オレンジの風味がする。
「すごくおいしいですわ」
「初めて人に出したから不安でしたの。満足していただけて良かったですわ」
そんなことを話していると、残りの4人が同時に部屋に入ってきて、パンパーティーのようなものが始まった。
仕事がないからって、お菓子を並べてお茶を淹れて……。
こんなことしても大丈夫なのかしら?
ただ1人、すごく不安になる私だった。
一応、逃げる準備をしておいて」
「分かったわ。一応、殿下に伝えるわね」
アレと戦うのは、流石の殿下でも厳しいと思う。それに、逃げるとしたら馬車になってしまうから……。
ううん、加護があるから大丈夫。気にしたらダメよね。
「とりあえず、着替えてくるわね」
逃げる事は一旦忘れて、着替えに向かおうとする私。
部屋の扉がノックされたのは、その時だった。
「ジグルドだ。知らせたいことがあるから、開けてほしい」
「分かりましたわ。少しお待ちください」
夜着のまま人前に出るわけにはいかないから、慌てて上着を取り向かった。
とりあえず、これを羽織っていれば夜着というのは分からないわね……。
「お待たせしました」
「おはよう。瘴気が動いた事については知っているか?」
「ええ、知っていますわ」
殿下も知っていたのね。
精霊の加護があるのだから、当たり前かもしれないけれど……。
「それについてだが、王宮を守るために元凶を潰しに行く事になった」
「流石にそれは無謀だと思いますわ」
「だが、王宮の人々を守るためには仕方ない。もちろん、レティシアの手を借りるつもりもない」
そう口にする殿下の表情は、思っていたよりも穏やかなものだった。
きっと覚悟を決めているから、こんな顔ができるのね……。
でも、あの瘴気の塊に突っ込むのは、払う力しかない殿下には無謀すぎる。
そう思えて仕方なかった。
「安心してくれ。元凶は王宮の中にいるようだ」
だから、こんな言葉を聞いた時には耳を疑った。
「王宮の中、ですの?」
「ああ。今朝、また瘴気が玉座の間に入っているのが見つかったんだ」
詳しく聞いてみると、玉座の間の周りは常に監視されていて、瘴気が入れない状態だったらしい。
それなのに、中が無人になる夜の間に瘴気が入り込んでいた。
だから、王宮の中にいる何者かが元凶だと判断したらしい。
「そういうことでしたのね……。でも、元凶というのはどこにいるのか分かっていますの?」
「1人だけ怪しい人物が目撃されているから、その人物を追う」
「分かりましたわ。ご無事をお祈りします」
「ありがとう。では、失礼する」
そう言って、廊下の向こうに歩いていく殿下。
私はその姿が見えなくなるまで見送った。
そして扉を閉めてから時計を見ると、少し急がないと間に合わない時間になっていた。
「レティ、この辺はやっておいたわ」
「ありがとう」
うん、これなら大丈夫そうね。
そう判断して、いつも通りのペースで準備を進める私。
数分後には最低限の装飾品なんかも身につけ終えていて、朝食のためにレストランに向かった。
今日も行列になっていて、諦めたけれど。
数分後、仕事場に辿り着いた私を待っていたのは、昨日と同じパンの山だった。
「今日も作ってくださいましたのね」
「ええ。昨日と味を変えてあるので、好きなだけ食べてくださいまし」
「それなら……ありがたく頂きますわ」
そう伝えて、早速ひとつ口に運ぶ。
すると、ほのかに甘い感じがして、少し驚いた。
これは……イチゴの味ね。
もう1つは、オレンジの風味がする。
「すごくおいしいですわ」
「初めて人に出したから不安でしたの。満足していただけて良かったですわ」
そんなことを話していると、残りの4人が同時に部屋に入ってきて、パンパーティーのようなものが始まった。
仕事がないからって、お菓子を並べてお茶を淹れて……。
こんなことしても大丈夫なのかしら?
ただ1人、すごく不安になる私だった。
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