半月後に死ぬと告げられたので、今まで苦しんだ分残りの人生は幸せになります!

八代奏多

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64. 余命24時間

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「痛っ……」

 ぶつけてしまった後頭部を抑える私。
 一方の殿下は、焦りが滲んでる声でこんな事を問いかけてきた。

「急に意識を失ってたけど、大丈夫か?」
「ええ、身体には何ともありませんわ」

 今ぶつけてしまった頭は痛むけど……。

「本当に大丈夫か? 突然、気を失うなんて余程の事にしか思えないが……」
「本当に大丈夫ですわ」

 立ち上がって、少し動いてみせる。
 そこでようやく納得してくれたのか殿下も立ち上がって、こう口にした。

「それなら良いが……。大丈夫なら、夕食に向かおう」
「ええ」

 頷いて、殿下に続けて部屋を出る私。
 それから数分後、私達は王族用の食堂に辿り着いて、昨日と同じように夕食を始めた。

 食事自体は美味しくて、殿下が出してくれる話題も気になるようなものが多い。
 それなのに、あまり受け答えすることが出来なくて……申し訳なくなってしまっていた。

 でも、殿下も同じ気持ちだったみたいで、時間が経つにつれて口数が少なくなっていって……

「あと1日か……」

 ……ふと、そんなことを呟いた。

「ええ、そうですわね……」
「お互い、後悔しないように行動しよう」
「はい」

 頷きながら、フォークで料理を取ろうとする。
 でも、乾いた音が響いてしまった。

「ごちそうさまでした。1人で考えたいので、お開きにしてもいいですか?」
「ああ、構わないよ」
「ありがとうございます。では、失礼しますわ」

 気まずくなってしまったから、足早に食堂を離れる私。
 殿下は私を送ろうとしてくれたけど、お断りした。


   ◇  ◇  ◇


 同じ頃──ルードリッヒ侯爵邸では、とあるものが作られていた。

「空気は漏れてないな?」
「問題ありません!」

 数名の男達が囲っている黒い物体。一見、馬車のような作りをしているそれは、明らかに異様な雰囲気を放っていた。

 後部に筒が4本、下部には6本。そして、無駄に丸みを帯びた本体に2対の板。車輪は申し訳程度にしか付いておらず、馬車ではないのは明らかだった。
 一体これが何をするものなのか、この場にいる男達は全員知っていた。

「よし、テストしてみよう」

 その掛け声と共に、鉄の塊に乗り込む侯爵と5人の男達。
 その内部では、こんなことが行われていた。

「魔法陣起動完了」
「魔導回路、接続」
「旦那様。起動準備完了しました」

 内部の側面では緑色の魔法陣が光を放っており、中央にある球体が振動を始める。

「よし、少し浮かせろ」

 そして、風切り音と共に馬車2台分はある大きさの鉄の塊が浮き上がった。

「前進と旋回はいけるか?」
「やってみます」

 ゆっくりと進み出し、結界の中をぐるりと周る鉄の塊。

「よし、成功だな。地面に戻れ」
「畏まりました」

 風切り音立てながら、地面に降りる鉄の塊。
 誰かが見ていれば腰を抜かしそうだが、瘴気に包まれた今の状況では、目にする者はいなかった。

「よし、今夜中にもう1台作るぞ」
「「はっ」」

 そして、この鉄の塊は数を増やそうとしていた。


   ◇  ◇  ◇


「なんだか物凄い魔力を感じたわ」

 ベッドに入る直前、不意にフレアがそんなことを口にした。
 
「どういうこと?」
「レティに似た魔力なのだけど、物凄い量なのよ」
「お父様かお姉様の魔力かしら?」

 お母様の魔力は大したことないのだけど、お父様とお姉様の魔力に関しては桁違いなのよね……。

「魔力自体はそうだと思うわ。でも、この量の魔力を魔術なんかで人間が出せるはずないのよ」
「うーん、だったら余計に分からないわ」

 うちの歴史は長いから、隠している魔導技術があってもおかしくない。でも、その技術が何なのかは私にも分からなかった。

「とりあえず、危なくないなら寝るわね……」

 今日はもう疲れてしまったから。

「分かったわ。おやすみなさい」
「うん、おやすみ」

 目を閉じると、あっという間に意識が遠のいていった。


 ……。
 …………。


「レティ、起きて」

 ペシペシと誰かに叩かれて、目を開ける私。

「……何かあったの?」
「瘴気が急に動き出したのよ」

 時計を見てみる。うん、いつも起きる時間より10分早いだけね。

「どういうこと?」
「さっきまで止まってた瘴気の塊が少しずつ動いてるのよ。こっちに向かって」

 あの真っ黒な塊が来るってこと……?

 想像してみて、軽く絶望した。

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