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63. 余命2日③

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 唯一存在している栄養がある豆が家畜用。
 普通の貴族なら、これを食すことはプライドが許さない。

 だが、状況が状況なだけに、侯爵はなんでも活用しようとしていた。
 家畜用とは言え、食料は食料なのだ。

 問題は味だが……。

「旦那様、試作してみましたがいかがでしょうか?」

 侯爵家お抱えの料理人が持ってきた豆料理を口に含む侯爵。

「これなら問題ない。可能なら、もう少し種類を増やして欲しい。
 毎日これだと飽きるからな」
「承知しました」

 とりあえず、侯爵邸は危険な状態ではなかった。
 しかし……

「レティシアは無事だろうか……」

 ……侯爵の不安はまだ無くなりそうになかった。


   ◇  ◇  ◇


「もうお昼ですわね」

 ふと、そんな声が聞こえた。

「ええ。お昼はどうしますの?」
「材料を頂いたので、みんなで作ろうと思いますわ」

 えっ……?
 私、料理なんて出来ないのだけど……。

「私、料理をしたことが無いのですけど、大丈夫でしょうか?」

 不安を感じて、恐る恐る手を上げる。
 きっと私以外にも、私と同じように料理をしたことが無い方がいると思って、見回してみたのだけど……。

「それでも大丈夫ですわ! この際、レティシアさんも料理出来るようになりましょう!」

 そう口にするメリアさんと、頷く他の方々。
 料理が出来ないのが私だけという現実に、涙目になりかけていた。

 普通、貴族の令嬢は料理をしないものだから、料理が出来ないのは当たり前なのだけど、ここでは違うみたいね……。

「まずは包丁の使い方から教えますわ」

 そんな言葉と共に、私の前にまな板と包丁が置かれる。

 そして……

「包丁はこんな風に持ちますの。食材はこの形の手で抑えないと、指を切ってしまいますわ」

「急がなくて大丈夫ですわ。落ち着いてください」

 ……などなど、たっぷり1時間近くかけて、食材の切り方から味付け、さらには温める方法まで教えてもらえた。

 私の方が圧倒的に切るのは遅かったのだけど、誰も文句ひとつ言わずに待っていてくれたし、必要なところでは手を貸してくれたりもした。
 だから、疲れたけど楽しめていた。

「時間も予定通りですわね」
「ええ」

 美味しそうな香りが漂う中、手分けして準備を進める私達。
 それからすぐに昼食会を始めることができて、明るい話題を楽しむことになった。



 昼食を終えても誰かが訪ねてくることはなくて、後片付けを終えてから雑談をしている間にすっかり夜になっていた。

「そろそろ解散にしましょう。お疲れ様でした」
「「お疲れ様でした」」

 挨拶を交わして、食堂に向かう。
 その途中、ジグルド殿下が誰かと話しているのが目に入って、思わず足を止めてしまった。

 殿下と話をしているのは、鎧に身を包んだ女性。
 多分、騎士団の方なのだけど……少し気になってしまった。

「レティシア嬢、何かあったかい?」
「いえ、何もありませんわ」

 私が見ていたからか、話を終えて声をかけてくる殿下。

「そうか。良かったら、今夜も一緒に夕食をとらないか?」
「ええ、分かりましたわ」

 そう返事をすると、殿下は「ありがとう」と言って、私の手を引きながら歩き始めた。
 少しだけ小走りになって、横に並ぶ私。

 どうしてか分からないけど、この位置が一番安心出来ていた。

 でも……。

 突然、身体中から血の気が引いていってしまって、意識が遠のいてしまった。

「レティシアっ!」

 そんな声が聞こえたと思ったら、私の視界は真っ暗になってしまった。


 ……。
 …………。


 衝撃は来なかった。でも、何も見えない。
 今のは一体何?

「汝よ、伝えることがあります。
 たった今、この瞬間。運命の時までちょうど1日になりました」

 最初の天啓と同じ神様の声。でも、何かを口にしようと思っても、声にはならなかった。

「貴女が後悔しているのかは分かりません。運命が変わったかどうかも分かりません。
 今、貴女の未来は定まっていません。良い方向に向かうよう、努力しなさい」

 どういうことなの……?

 やっぱり、声は出ない。

「汝に祝福あれ」

 ……。
 …………。


「……シアっ! レティシア!」

 目を開けると、焦った様子の殿下のお顔が目の前にあった。
 驚いて、慌てて後ろに下がろうとする私。

 直後、ゴツンという音が響いた。
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