半月後に死ぬと告げられたので、今まで苦しんだ分残りの人生は幸せになります!

八代奏多

文字の大きさ
上 下
43 / 74

43. 余命6日①

しおりを挟む
「信じられないかもしれないが、聞いてほしい」

 そんな風に前置きする殿下。
 続けて出てきた言葉は、前置き通り信じ難い内容のものだった。


   ◇  ◇  ◇


 最初の人生では、ジグルド王太子はレティシアと婚約を結んでいた。
 お互いに愛など感じていない状態ですらなく、ほとんど話したこともない状態での婚約だった。

 貴族の婚姻では愛する人と結ばれる方が稀な上に、恋心を抱く前に婚約が決まることの方が普通になっている。
 だから、王太子もレティシアも受け入れ、幸せな将来を送れるように仲を深めようと努力していた。
 学院に入る頃にはお互いに好意を感じていて、永遠すら誓っていた。

 しかし、運命は残酷なものだった。
 レティシアが王宮に来た時、運悪く何者かによって爆発が起こされてしまった。
 多くの者が無事だったが、爆発の中心近くにいたレティシアは命を落としてしまった。

「俺が招待しなければ……ッ!」

 ジグルドはひどく後悔したが、運命は変えられない。
 自死すれば逆行出来るという典型もあったが、王太子であるが故に死ぬことは許されない。

 だから、自分だけでも生き続けようと覚悟を決めたのだが……レティシアの死から5日目、どういうわけか婚約する前に逆行していた。



 そうして始まった2度目の人生。
 今度はレティシアを亡くさないためにと、全力で婚約を回避した。

 だが、彼女を愛する気持ちに変わりはなく、無理な接触を試みてしまい……避けられるようになってしまった。
 当然と言えば当然の結果だったが、レティシアが生きていればそれでいいと思っていた。

 しかし……レティシアは何者かに刺殺されてしまう。

 今度は犯人を見つけてから逆行しようとするジグルドだったが、何故かレティシア死から5日目に目を覚ますと逆行していた。


 そうして今度は3度目の人生を送ることになる。

 今回は側にいて守ることに決め、当然のように護衛を付けた。
 レティシアとの仲を深めることも出来、このまま守り切れれば幸せになれる。

 そう信じて疑わなかった。

 だが、運命はやっぱり残酷で、武装集団の襲撃から守り切ったと思えば、目の前で毒矢に射られて命を落としてしまう。
 崩れ落ちるレティシアに「私のことは置いて逃げて」と言われたが、当然そんなことなど出来なかった。

 必死で救おうと出来る限りのことをした。
 しかし解毒薬が分からない以上、レティシアの身体を蝕む毒を止めることは出来ず、この人生で2度と会えなくなってしまった。

 そして今回も犯人を突き止めようとして……今までと同じタイミングで逆行してしまった。
 しかし、犯人の糸口を掴むことは出来ていた。


 そして迎えた4回目の人生。
 今度は誰とも婚約せずに、レティシアを殺めた犯人を突き止めるために行動することを決意する。

 幸いにも前回の人生で掴んだ糸を辿ることが出来、サザンバーグ家が黒幕だと突き止めることが出来た。
 ……が、レティシアはその黒幕サザンバーグ家のアドルフと婚約していた。

 凶行を止めようと権力を使い、断罪しようと試みるが、結果は国王に止められ失敗。
 結局レティシアはアドルフに暴行され命を落としてしまう。


 再び同じタイミングで逆行し、5度目の人生を迎える。

 今回も誰とも婚約せずに、レティシアを運命から救うことを第一に行動した。
 幸いにもアドルフが浮気していることには前回で気付けていたので、それを口実にレティシアから引き離した。

 しかしそれだけでは不十分だと感じていたため、逆行していることを打ち明けて国王である父に協力依頼し、王家全体が動くことになる。
 当然のようにこのことは隠し通され、知っているのは王族と王族1人1人に加護を与えている精霊のみとなっている。

 その結果、新たに明らかになったことがある。

 レティシアが火の精霊の加護持ちで、アドルフは水の精霊の加護持ちであること。
 火の精霊が王家に加われば1人ぼっちにってしまう水の精霊が、レティシアを殺めようとアドルフを唆していること。

 現在、アドルフの行方が分かっておらず、レティシアを殺めようと動いていること。

 ちなみに、ジグルドは王家全員が精霊の加護持ちだと数日前に知ったばかりである。


 だが、これだけ明らかになっていても本人の協力無しに守り切ることは不可能。
 そう考えた国王に助言され、ジグルドはレティシアに分かっていることを全て告げる決断をしたのだった。


   ◇  ◇  ◇


「……ということがあったから、俺はなんとしてでもレティシアを守りたいと考えている。精霊達の協力の約束も得ている。
 君のためにもなることだ。どうか協力してくれないだろうか?」

 たっぷり1時間以上かけて、あったことを語ってくれた殿下はそう締めくくった。

 今ので察しがついたけど、天啓にあった馬車の事故。あれは意図的に起こされるものなのね……。

「私のためにそこまでしてくださるのですね……。運命を変えるために、手を貸して頂けませんか?」

 殿下は私に協力を求めてきたけど、それは私の台詞なのよね。
 だから、問いかけに問いかけで返してみた。

「ああ、もちろんだ」

 すると殿下はしっかりと頷いてくれて、そのまま私を抱きしめようとしてきた。
 でも、それは手で制した。

「今の私は殿下に好意を抱いてはいないので、そこは勘違いしないでください」
「す、済まない……」

 そう口にする殿下は、少し悲しそうな表情を浮かべていた。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?ならば妹に譲ります~新しいスローライフの始め方編~

tartan321
恋愛
「私は君との婚約を破棄したいと思う……」 第一王子に婚約破棄を告げられた公爵令嬢のアマネは、それを承諾し、妹のイザベルを新しい婚約者に推薦する。イザベルは自分よりも成績優秀で、そして、品行方正であるから、適任だと思った。 そして、アマネは新しいスローライフを始めることにした。それは、魔法と科学の融合する世界の話。 第一編です。

【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。

秋月一花
恋愛
「イザベラ。君との婚約破棄を、ここに宣言する!」 「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」 「……え?」  あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。 「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」 「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」  そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下を見て、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

婚約破棄?ありがとうございます!では、お会計金貨五千万枚になります!

ばぅ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ!」 「毎度あり! お会計六千万金貨になります!」 王太子エドワードは、侯爵令嬢クラリスに堂々と婚約破棄を宣言する。 しかし、それは「契約終了」の合図だった。 実は、クラリスは王太子の婚約者を“演じる”契約を結んでいただけ。 彼がサボった公務、放棄した社交、すべてを一人でこなしてきた彼女は、 「では、報酬六千万金貨をお支払いください」と請求書を差し出す。 王太子は蒼白になり、貴族たちは騒然。 さらに、「クラリスにいじめられた」と泣く男爵令嬢に対し、 「当て馬役として追加千金貨ですね?」と冷静に追い打ちをかける。 「婚約破棄? かしこまりました! では、契約終了ですね?」 痛快すぎる契約婚約劇、開幕!

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

シナリオ通りにはさせませんわ!!

ばぅ
恋愛
エリーゼ・シュルツ公爵令嬢は、この国の第一王子の婚約者として、将来の王妃になるべく厳しい教育に励んでいた。しかし、学園での生活は不穏な空気に包まれ始める。噂では、王子が転校生の愛らしい男爵令嬢ミリアリアと親密な関係になっているという。 ある日、学園の裏庭で王子とミリアリアが親しげに話す場面を目撃し、動揺したエリーゼは、帰宅後に倒れ、怪我を負ってしまう。その後、目覚めた彼女の脳裏に過去の記憶と、驚くべき「真実」が浮かび上がる。実はこの世界は、彼女の前世で読んでいた「悪役令嬢モノ」の物語そのものだったのだ。そして彼女自身がその物語の悪役令嬢に転生していることに気づく。 …と同時に、重大なことにも気づいてしまう… ん?この王子、クズじゃね?! そして、このまま物語の通り進行したら、待ってるのは「ハッピーエンドの後のバッドエンド」?! 自分が悪役令嬢モノの主人公だと自覚しつつも、ゆるふわ物語に騙されず、現実を切り開く令嬢の物語。

処理中です...