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40. 余命7日⑥
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「話したいこと、ですか?」
「ああ。ここだと話せないから、場所を移したい」
「分かりましたわ」
話したいことって、何なのかしら?
不安と興味。その2つを抱えながら、殿下の後を追う私。
人気のあまり無い中庭にたどり着くと、殿下は私に向き直ってこんなことを口にした。
「実は貴女のことが前から好きだったんだ。だから配慮もするし、守りたいとも思っている。だから、側にいて欲しいのだ」
突然の告白。
殿下のことをそういう目で見ていなかったから、私は返事に困った。
そもそも殿下のことをよく知っているわけではないし、1週間後に死んでしまうかもしれない。それでは殿下に迷惑をかけてしまう。
なにより、私は殿下のことを好いてはいない。嫌っているわけでもないけれど。
そんな理由があるから、首を縦には降らなかった。
「申し訳ないですけど、それをお受けすることは出来ませんわ。私はまだ殿下のことをよく知りませんもの」
「そう……だったな……」
貴族の婚姻なんて、お互いを全く知らない状態で結ばれることも珍しくないのに、殿下は申し訳なさそうな様子だった。
こんな風に断ってしまったとはいえ、このまま相手が見つからなかったら……私を待っているのは落ちぶれた令息との婚姻。
だから、殿下との関係を切るわけにはいかない。
「でも、貴方のことをもっと知りたいとは思っていますの。だから、あと1週間は待って欲しいですわ」
殿下との関係を保ちたい思惑はあるけれど、この言葉は紛れもない本心。
殿下がこの歳になっても婚約者を作っていなかった理由も、仲のいい令嬢がいない理由も知りたかった。
噂されている男色疑惑については晴れたけれど、うっかり私のことを「レティシア」と呼び捨てにしていたことも気になる。
だから、最初は友人という関係から……
「分かった。そういうことなら、まずは友人ということにしよう。
これなら良いだろうか?」
……と言おうと思ったのに、先に言われてしまった。
「ええ、これから宜しくお願いしますわ」
私が頷くと、殿下は頬を緩ませた。
でも、その表情が険しいものになるまで時間はかからなかった。
「もう1つ話しておきたいことがある。君の父のルードリッヒ侯爵についてだ。
俺が君に好意を寄せていることは父上も母上も知っている。だが、侯爵のしていることは王家の信頼を裏切る行為だ。だから断罪は免れない。
説得は難しくなるかもしれないが、絶対にレティシアが酷い目に遭わないようにするから信じて欲しい」
そう言って私を見つめる殿下。
でも、こんな贔屓でお父様の罪が軽くなるなんて……私があの子達と同じ立場なら絶対に許せないわよね……。
「いえ、それは結構ですわ。例え侯爵家が取り潰しになっても、私は受け入れますわ」
「ああ、説得ってそういう意味じゃない。怒り狂った侯爵の矛先が君に向いても大丈夫なように、精鋭の護衛を付けるようにお願いするんだ。
君が罰せられないように話すのは当然だが」
「それも結構ですわ」
護衛なんて付けられたら自由にフレアとお話し出来なくなるじゃない!
そもそもフレアの加護があるから、大丈夫よ。多分。
(いいじゃない、付けてもらおう?)
(どうして……?)
(断ったところで付くからよ。レティシアに分からない形でね)
それは困るわ……!
「そうか……。だが、君の安全を考えるとあった方がいいんだ……」
「では、護衛が付くことになったら私に紹介してください。これだけは絶対にお願いしますわ」
「分かった、そうしよう。では、俺はそろそろ行く。
部屋まで送ろう」
「ありがとうございます」
今度ば断らずに頷く私。
歩幅を合わせてくれているからなのか、歩き方が少しおかしい殿下と並んで部屋に戻った。
「送ってくださりありがとうございました」
「こちらこそ、色々話せて楽しかった。ありがとう」
そんな言葉を交わしてから、部屋に入る。
鍵を閉め、部屋着に着替えようとした時だった。
「あの王子、やっぱり気になるわ……。この違和感、何なのかしら」
フレアが頭を抱えながら、そんなことを呟いた。
「ああ。ここだと話せないから、場所を移したい」
「分かりましたわ」
話したいことって、何なのかしら?
不安と興味。その2つを抱えながら、殿下の後を追う私。
人気のあまり無い中庭にたどり着くと、殿下は私に向き直ってこんなことを口にした。
「実は貴女のことが前から好きだったんだ。だから配慮もするし、守りたいとも思っている。だから、側にいて欲しいのだ」
突然の告白。
殿下のことをそういう目で見ていなかったから、私は返事に困った。
そもそも殿下のことをよく知っているわけではないし、1週間後に死んでしまうかもしれない。それでは殿下に迷惑をかけてしまう。
なにより、私は殿下のことを好いてはいない。嫌っているわけでもないけれど。
そんな理由があるから、首を縦には降らなかった。
「申し訳ないですけど、それをお受けすることは出来ませんわ。私はまだ殿下のことをよく知りませんもの」
「そう……だったな……」
貴族の婚姻なんて、お互いを全く知らない状態で結ばれることも珍しくないのに、殿下は申し訳なさそうな様子だった。
こんな風に断ってしまったとはいえ、このまま相手が見つからなかったら……私を待っているのは落ちぶれた令息との婚姻。
だから、殿下との関係を切るわけにはいかない。
「でも、貴方のことをもっと知りたいとは思っていますの。だから、あと1週間は待って欲しいですわ」
殿下との関係を保ちたい思惑はあるけれど、この言葉は紛れもない本心。
殿下がこの歳になっても婚約者を作っていなかった理由も、仲のいい令嬢がいない理由も知りたかった。
噂されている男色疑惑については晴れたけれど、うっかり私のことを「レティシア」と呼び捨てにしていたことも気になる。
だから、最初は友人という関係から……
「分かった。そういうことなら、まずは友人ということにしよう。
これなら良いだろうか?」
……と言おうと思ったのに、先に言われてしまった。
「ええ、これから宜しくお願いしますわ」
私が頷くと、殿下は頬を緩ませた。
でも、その表情が険しいものになるまで時間はかからなかった。
「もう1つ話しておきたいことがある。君の父のルードリッヒ侯爵についてだ。
俺が君に好意を寄せていることは父上も母上も知っている。だが、侯爵のしていることは王家の信頼を裏切る行為だ。だから断罪は免れない。
説得は難しくなるかもしれないが、絶対にレティシアが酷い目に遭わないようにするから信じて欲しい」
そう言って私を見つめる殿下。
でも、こんな贔屓でお父様の罪が軽くなるなんて……私があの子達と同じ立場なら絶対に許せないわよね……。
「いえ、それは結構ですわ。例え侯爵家が取り潰しになっても、私は受け入れますわ」
「ああ、説得ってそういう意味じゃない。怒り狂った侯爵の矛先が君に向いても大丈夫なように、精鋭の護衛を付けるようにお願いするんだ。
君が罰せられないように話すのは当然だが」
「それも結構ですわ」
護衛なんて付けられたら自由にフレアとお話し出来なくなるじゃない!
そもそもフレアの加護があるから、大丈夫よ。多分。
(いいじゃない、付けてもらおう?)
(どうして……?)
(断ったところで付くからよ。レティシアに分からない形でね)
それは困るわ……!
「そうか……。だが、君の安全を考えるとあった方がいいんだ……」
「では、護衛が付くことになったら私に紹介してください。これだけは絶対にお願いしますわ」
「分かった、そうしよう。では、俺はそろそろ行く。
部屋まで送ろう」
「ありがとうございます」
今度ば断らずに頷く私。
歩幅を合わせてくれているからなのか、歩き方が少しおかしい殿下と並んで部屋に戻った。
「送ってくださりありがとうございました」
「こちらこそ、色々話せて楽しかった。ありがとう」
そんな言葉を交わしてから、部屋に入る。
鍵を閉め、部屋着に着替えようとした時だった。
「あの王子、やっぱり気になるわ……。この違和感、何なのかしら」
フレアが頭を抱えながら、そんなことを呟いた。
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