半月後に死ぬと告げられたので、今まで苦しんだ分残りの人生は幸せになります!

八代奏多

文字の大きさ
上 下
40 / 74

40. 余命7日⑥

しおりを挟む
「話したいこと、ですか?」
「ああ。ここだと話せないから、場所を移したい」
「分かりましたわ」

 話したいことって、何なのかしら?

 不安と興味。その2つを抱えながら、殿下の後を追う私。
 人気のあまり無い中庭にたどり着くと、殿下は私に向き直ってこんなことを口にした。

「実は貴女のことが前から好きだったんだ。だから配慮もするし、守りたいとも思っている。だから、側にいて欲しいのだ」

 突然の告白。

 殿下のことをそういう目で見ていなかったから、私は返事に困った。

 そもそも殿下のことをよく知っているわけではないし、1週間後に死んでしまうかもしれない。それでは殿下に迷惑をかけてしまう。
 なにより、私は殿下のことを好いてはいない。嫌っているわけでもないけれど。

 そんな理由があるから、首を縦には降らなかった。

「申し訳ないですけど、それをお受けすることは出来ませんわ。私はまだ殿下のことをよく知りませんもの」
「そう……だったな……」

 貴族の婚姻なんて、お互いを全く知らない状態で結ばれることも珍しくないのに、殿下は申し訳なさそうな様子だった。

 こんな風に断ってしまったとはいえ、このまま相手が見つからなかったら……私を待っているのは落ちぶれた令息との婚姻。
 だから、殿下との関係を切るわけにはいかない。

「でも、貴方のことをもっと知りたいとは思っていますの。だから、あと1週間は待って欲しいですわ」

 殿下との関係を保ちたい思惑はあるけれど、この言葉は紛れもない本心。
 殿下がこの歳になっても婚約者を作っていなかった理由も、仲のいい令嬢がいない理由も知りたかった。

 噂されている男色疑惑については晴れたけれど、うっかり私のことを「レティシア」と呼び捨てにしていたことも気になる。
 だから、最初は友人という関係から……

「分かった。そういうことなら、まずは友人ということにしよう。
 これなら良いだろうか?」

 ……と言おうと思ったのに、先に言われてしまった。

「ええ、これから宜しくお願いしますわ」

 私が頷くと、殿下は頬を緩ませた。

 でも、その表情が険しいものになるまで時間はかからなかった。

「もう1つ話しておきたいことがある。君の父のルードリッヒ侯爵についてだ。
 俺が君に好意を寄せていることは父上も母上も知っている。だが、侯爵のしていることは王家の信頼を裏切る行為だ。だから断罪は免れない。
 説得は難しくなるかもしれないが、絶対にレティシアが酷い目に遭わないようにするから信じて欲しい」

 そう言って私を見つめる殿下。
 でも、こんな贔屓でお父様の罪が軽くなるなんて……私があの子達と同じ立場なら絶対に許せないわよね……。

「いえ、それは結構ですわ。例え侯爵家が取り潰しになっても、私は受け入れますわ」
「ああ、説得ってそういう意味じゃない。怒り狂った侯爵の矛先が君に向いても大丈夫なように、精鋭の護衛を付けるようにお願いするんだ。
 君が罰せられないように話すのは当然だが」
「それも結構ですわ」

 護衛なんて付けられたら自由にフレアとお話し出来なくなるじゃない!
 そもそもフレアの加護があるから、大丈夫よ。多分。

(いいじゃない、付けてもらおう?)
(どうして……?)
(断ったところで付くからよ。レティシアに分からない形でね)

 それは困るわ……!

「そうか……。だが、君の安全を考えるとあった方がいいんだ……」
「では、護衛が付くことになったら私に紹介してください。これだけは絶対にお願いしますわ」
「分かった、そうしよう。では、俺はそろそろ行く。
 部屋まで送ろう」
「ありがとうございます」

 今度ば断らずに頷く私。
 歩幅を合わせてくれているからなのか、歩き方が少しおかしい殿下と並んで部屋に戻った。

「送ってくださりありがとうございました」
「こちらこそ、色々話せて楽しかった。ありがとう」

 そんな言葉を交わしてから、部屋に入る。
 鍵を閉め、部屋着に着替えようとした時だった。

「あの王子、やっぱり気になるわ……。この違和感、何なのかしら」

 フレアが頭を抱えながら、そんなことを呟いた。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

私を冷遇してきた婚約者が、婚約破棄寸前で溺愛してきたんですけど。

十条沙良
恋愛
春のパーティで、私の婚約者は言った。

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

婚約破棄?ならば妹に譲ります~新しいスローライフの始め方編~

tartan321
恋愛
「私は君との婚約を破棄したいと思う……」 第一王子に婚約破棄を告げられた公爵令嬢のアマネは、それを承諾し、妹のイザベルを新しい婚約者に推薦する。イザベルは自分よりも成績優秀で、そして、品行方正であるから、適任だと思った。 そして、アマネは新しいスローライフを始めることにした。それは、魔法と科学の融合する世界の話。 第一編です。

【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。

秋月一花
恋愛
「イザベラ。君との婚約破棄を、ここに宣言する!」 「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」 「……え?」  あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。 「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」 「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」  そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下を見て、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

婚約破棄?ありがとうございます!では、お会計金貨五千万枚になります!

ばぅ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ!」 「毎度あり! お会計六千万金貨になります!」 王太子エドワードは、侯爵令嬢クラリスに堂々と婚約破棄を宣言する。 しかし、それは「契約終了」の合図だった。 実は、クラリスは王太子の婚約者を“演じる”契約を結んでいただけ。 彼がサボった公務、放棄した社交、すべてを一人でこなしてきた彼女は、 「では、報酬六千万金貨をお支払いください」と請求書を差し出す。 王太子は蒼白になり、貴族たちは騒然。 さらに、「クラリスにいじめられた」と泣く男爵令嬢に対し、 「当て馬役として追加千金貨ですね?」と冷静に追い打ちをかける。 「婚約破棄? かしこまりました! では、契約終了ですね?」 痛快すぎる契約婚約劇、開幕!

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

処理中です...