38 / 74
38. 余命7日④
しおりを挟む
「到着いたしました」
そんな言葉に続けて馬車が止まる。
ここはルードリッヒ侯爵領にある最大の都市グレール。私達はそこにある教会に来ている。
「殿下、お待ちしておりました」
早速数人に出迎えられ、教会には入らず隣にある建物へと向かう私達。
その中に入ると、子供が遊んでいる声が聞こえてきた。
それと同時に……
「何故壁に穴が開いている」
……殿下がそんなことを口にした。
「先月空いてしまったのですが、直すための予算がなくて……」
「侯爵家からの援助は無いのか?」
「ありますが、今年から減らされていて……建物の修理をする余裕はないのです」
領地を持つ貴族は、領内にある孤児院や診療所に支援することが義務付けられている。
だから私の家も例に漏れず支援しているのだけど、お父様が私欲を肥やすために金額を減らしてしまっていた。
「お嬢様方が直接いらっしゃられた時は満足いく支援を得られたのですが、今年からはそれも途絶えてしまって」
「そうか。生活の方は大丈夫なのか?」
「いえ、孤児が増えたのもあってかなり厳しい状態です」
そんな話をしながら足を進める殿下。
それを聞いている私は生きた心地がしなかった。
「レティシア、どういうことか知っているか?」
「去年まではお父様から領地の管理の一部を任されていましたの。もちろん私達は充分な支援をしていました。
しかし今年になって予算の使い過ぎと言われてしまって、お父様が全て管理することになりましたの」
「要するに、侯爵が馬鹿なことをしているんだな」
殿下はそう口にすると、何かを考えるような仕草を見せた。
そして次の瞬間、こんな言葉が飛び出してきた。
「視察は中止だ。一旦王都に戻って支援のための予算を組み直す」
「ありがとうございます」
嬉しそうに頭を下げる孤児院の方。
私は「畏まりました」とだけ口にして、無言で殿下の後を追った。
「あ、レティシア様だ! こんにちは。こっちのおにーさんは誰ー?」
「こんにちは。彼はジグルド王太子殿下よ」
男の子に話しかけられて、目線が合うようにしゃがんでから笑顔で返す私。
「王太子様!? えっと、王太子様ってことは……」
「将来の王様だよ! ノアはそんなことも知らないのね!」
「アリスが物知りなだけだよ」
楽しそうに会話する子供達は去年来た時よりも痩せていて、申し訳ない気持ちになった。
こんな状況になるまで支援を削ったお父様に怒りを覚えた。
でも、表情に出すわけにはいかない。
「ノア君とアリスちゃんか。ここでの暮らしは楽しい?」
「「うん!」」
「だってみんな優しいから!」
「ご飯は減っちゃったけど、シスターさんは優しくて、みんな仲良しだもの」
「そうか、それは良かった」
しゃがんで子供達と会話をする殿下。
すると、ノアと呼ばれてた男の子がこんなことを口にした。
「レティシア様とセシル様が来てくれたらもっと楽しいのに……。侯爵様はウザいし来なくていいけど」
「何言ってるの? レティシア様もセシル様も忙しいのよ」
「中々来れなくてごめんね」
「じゃあお詫びとして魔術見せて!」
私が謝ると、近くの部屋からこっそり覗いていた男の子にそんなことを言われた。
「殿下、少しお時間頂いてもよろしいですか?」
「ああ、構わない」
「ありがとうございます」
小声で殿下に許可を取り、子供達へと向き直る私。
「ここだと狭いから、食堂に行きましょう」
「「やったー!」」
「カイト、ナイス!」
一斉に上がる子供達の歓声。
正直私の魔術のどこがいいのか分からないけど、何故か人気なのよね……。
そんなわけで孤児院で一番広い部屋、食堂へと移動して、早速呪文を唱えた。
「……あれ、光らないよ?」
「少しずつ明るくなるわ」
私がそう口にすると、テーブルの上に浮かび上がった魔法陣が光を放ち始めた。
その上には黄緑色の淡い光が浮かんでいて、幻想的な光景を生み出している。
「すごい、綺麗……」
「なんかつまんない。火の魔術が見たい」
見入る子もいれば、こんな反応をする子もいた。
だから、リクエスト通り火の魔術を見せたりもした。
すると予想通り男の子中心に盛り上がって、たくさんの笑顔を見ることが出来た。
でも、魔術でお腹いっぱいにさせてあげることは出来ないから、少し申し訳ない気持ちになってしまった。
「そろそろ戻ろう。みんな、俺達はそろそろ戻らないといけない。
また近いうちに来るから、楽しみにしてくれ」
「えー、もう帰っちゃうのー」
「仕方ないよ。殿下、レティシア様、さようならー!」
「また来てねー!」
そんな言葉と共に見送ってくれる子供達。
「ああ。では、また会おう」
「ええ、さようなら」
私はあと1週間で死んでしまうかもしれないから、「またね」を言うことは出来なかった。
そんな言葉に続けて馬車が止まる。
ここはルードリッヒ侯爵領にある最大の都市グレール。私達はそこにある教会に来ている。
「殿下、お待ちしておりました」
早速数人に出迎えられ、教会には入らず隣にある建物へと向かう私達。
その中に入ると、子供が遊んでいる声が聞こえてきた。
それと同時に……
「何故壁に穴が開いている」
……殿下がそんなことを口にした。
「先月空いてしまったのですが、直すための予算がなくて……」
「侯爵家からの援助は無いのか?」
「ありますが、今年から減らされていて……建物の修理をする余裕はないのです」
領地を持つ貴族は、領内にある孤児院や診療所に支援することが義務付けられている。
だから私の家も例に漏れず支援しているのだけど、お父様が私欲を肥やすために金額を減らしてしまっていた。
「お嬢様方が直接いらっしゃられた時は満足いく支援を得られたのですが、今年からはそれも途絶えてしまって」
「そうか。生活の方は大丈夫なのか?」
「いえ、孤児が増えたのもあってかなり厳しい状態です」
そんな話をしながら足を進める殿下。
それを聞いている私は生きた心地がしなかった。
「レティシア、どういうことか知っているか?」
「去年まではお父様から領地の管理の一部を任されていましたの。もちろん私達は充分な支援をしていました。
しかし今年になって予算の使い過ぎと言われてしまって、お父様が全て管理することになりましたの」
「要するに、侯爵が馬鹿なことをしているんだな」
殿下はそう口にすると、何かを考えるような仕草を見せた。
そして次の瞬間、こんな言葉が飛び出してきた。
「視察は中止だ。一旦王都に戻って支援のための予算を組み直す」
「ありがとうございます」
嬉しそうに頭を下げる孤児院の方。
私は「畏まりました」とだけ口にして、無言で殿下の後を追った。
「あ、レティシア様だ! こんにちは。こっちのおにーさんは誰ー?」
「こんにちは。彼はジグルド王太子殿下よ」
男の子に話しかけられて、目線が合うようにしゃがんでから笑顔で返す私。
「王太子様!? えっと、王太子様ってことは……」
「将来の王様だよ! ノアはそんなことも知らないのね!」
「アリスが物知りなだけだよ」
楽しそうに会話する子供達は去年来た時よりも痩せていて、申し訳ない気持ちになった。
こんな状況になるまで支援を削ったお父様に怒りを覚えた。
でも、表情に出すわけにはいかない。
「ノア君とアリスちゃんか。ここでの暮らしは楽しい?」
「「うん!」」
「だってみんな優しいから!」
「ご飯は減っちゃったけど、シスターさんは優しくて、みんな仲良しだもの」
「そうか、それは良かった」
しゃがんで子供達と会話をする殿下。
すると、ノアと呼ばれてた男の子がこんなことを口にした。
「レティシア様とセシル様が来てくれたらもっと楽しいのに……。侯爵様はウザいし来なくていいけど」
「何言ってるの? レティシア様もセシル様も忙しいのよ」
「中々来れなくてごめんね」
「じゃあお詫びとして魔術見せて!」
私が謝ると、近くの部屋からこっそり覗いていた男の子にそんなことを言われた。
「殿下、少しお時間頂いてもよろしいですか?」
「ああ、構わない」
「ありがとうございます」
小声で殿下に許可を取り、子供達へと向き直る私。
「ここだと狭いから、食堂に行きましょう」
「「やったー!」」
「カイト、ナイス!」
一斉に上がる子供達の歓声。
正直私の魔術のどこがいいのか分からないけど、何故か人気なのよね……。
そんなわけで孤児院で一番広い部屋、食堂へと移動して、早速呪文を唱えた。
「……あれ、光らないよ?」
「少しずつ明るくなるわ」
私がそう口にすると、テーブルの上に浮かび上がった魔法陣が光を放ち始めた。
その上には黄緑色の淡い光が浮かんでいて、幻想的な光景を生み出している。
「すごい、綺麗……」
「なんかつまんない。火の魔術が見たい」
見入る子もいれば、こんな反応をする子もいた。
だから、リクエスト通り火の魔術を見せたりもした。
すると予想通り男の子中心に盛り上がって、たくさんの笑顔を見ることが出来た。
でも、魔術でお腹いっぱいにさせてあげることは出来ないから、少し申し訳ない気持ちになってしまった。
「そろそろ戻ろう。みんな、俺達はそろそろ戻らないといけない。
また近いうちに来るから、楽しみにしてくれ」
「えー、もう帰っちゃうのー」
「仕方ないよ。殿下、レティシア様、さようならー!」
「また来てねー!」
そんな言葉と共に見送ってくれる子供達。
「ああ。では、また会おう」
「ええ、さようなら」
私はあと1週間で死んでしまうかもしれないから、「またね」を言うことは出来なかった。
24
お気に入りに追加
1,569
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?
gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。
みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。
黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。
十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。
家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。
奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄?ならば妹に譲ります~新しいスローライフの始め方編~
tartan321
恋愛
「私は君との婚約を破棄したいと思う……」
第一王子に婚約破棄を告げられた公爵令嬢のアマネは、それを承諾し、妹のイザベルを新しい婚約者に推薦する。イザベルは自分よりも成績優秀で、そして、品行方正であるから、適任だと思った。
そして、アマネは新しいスローライフを始めることにした。それは、魔法と科学の融合する世界の話。
第一編です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。
秋月一花
恋愛
「イザベラ。君との婚約破棄を、ここに宣言する!」
「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」
「……え?」
あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。
「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」
「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」
そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下を見て、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄?ありがとうございます!では、お会計金貨五千万枚になります!
ばぅ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ!」
「毎度あり! お会計六千万金貨になります!」
王太子エドワードは、侯爵令嬢クラリスに堂々と婚約破棄を宣言する。
しかし、それは「契約終了」の合図だった。
実は、クラリスは王太子の婚約者を“演じる”契約を結んでいただけ。
彼がサボった公務、放棄した社交、すべてを一人でこなしてきた彼女は、
「では、報酬六千万金貨をお支払いください」と請求書を差し出す。
王太子は蒼白になり、貴族たちは騒然。
さらに、「クラリスにいじめられた」と泣く男爵令嬢に対し、
「当て馬役として追加千金貨ですね?」と冷静に追い打ちをかける。
「婚約破棄? かしこまりました! では、契約終了ですね?」
痛快すぎる契約婚約劇、開幕!
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる