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36. 余命7日②
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楽しい夕食の時間はあっという間に過ぎていき、部屋に戻った私達は交代で湯浴みをしてからベッドに入った。
今日はそれほど疲れてはいなかったけれど、眠気はあっという間に襲ってきて……。
……。
次に目を開けると、眩しい光が視界を覆った。
思わず視線を逸らしたけれど、目が覚めるにつれて眩しさに慣れてきて、窓の外にほのかに赤い朝日を見ることができた。
「レティシアおはよう」
「おはよう」
そんな言葉を交わして、私は着替えのために衣装部屋にしている小部屋に入った。
「今日は王子に会うんだっけ?」
「うん。だからいつも以上に気をつけないと……」
そう呟きながら昨日のうちに決めておいたドレスを着ていく。
これだけならそれほど時間はかからないのだけど、問題はここから。
慣れないメイクをしないといけないし、装飾品だって着けないといけない。
だから30分は見込んでいるのだけど……
「レティシアって不器用なのね。私がやってみてもいいかしら?」
「出来るの?」
「マリーよりは上手な自信があるわ」
「そこまで言うなら、お願いするわ」
……そう言った次の瞬間、フレアは慣れた手つきでメイクだったりを始めてくれて。
1分後には別人にしか見えない……は言い過ぎだけれど、雰囲気がいつもと違う私がいた。
「ここまで変わるのね」
「元が良いから大したことはしてないわよ?」
「そうは思えないのだけど……」
鏡に映る私はいつもよりも明るい雰囲気になっていて、少し落ち着かない。
「ついでに髪飾りもお願い出来る?」
「いいわよ」
もう全部フレアに任せてしまいそうな勢いなのに、快く受け入れてくれた。
でも次の瞬間、私は冷や汗を浮かべることになってしまった。
「痛っ……」
パチンという音に続けて、そんな声が聞こえたから。
「大丈夫!?」
「どうなってるのよこれ……」
髪を挟む部分に指を挟んでしまったらしく、痛そうにしているフレア。
慌てて髪飾りを外したのだけど、指が青くなってしまっていた。
「ごめん、髪飾りはやめておくわ……」
そう言いながら指に反対側の手をかざすフレア。
次の瞬間、淡い光が指を包んだと思ったら、青くなっていた指は元の白い指に戻っていた。
「それ、治癒魔術? ……じゃないわよね、もっと時間かかるもの。
それも魔法なの?」
「そうだけど……これも祈るだけだから簡単よ?」
「いざという時のために練習しておきたいわ……。でも、どうやって練習すればいいのかしら?」
髪飾りを留め終えたから、次は耳飾りね。
「こっちの指がまだ残ってるから、これで練習するといいわ」
「わ、分かったわ……」
ちょっと待って、どうして血が出ているの?
驚いて耳飾りを落としてしまった。
でも、それは気にしないでフレアの指を治すことを優先することにした。
「これでいいのかな?」
「うん。初めてなのに上手いわね」
光が晴れると元通り傷ひとつない綺麗な指になっていて、胸を撫で下ろす私だった。
この後は特に問題が起こることなく準備を進めることが出来て、いつも通りの時間にレストランに向かうことが出来た。
(私はそろそろ消えるわね)
(分かったわ)
そう返してから部屋を出る私。
後ろを振り返っても誰もいなくて、少し寂しかった。
でも、王宮暮らしはこれが普通。
なんとも言えない不思議な気持ちを押し込めて、レストランに向けて足を進めた。
(私なら隣にいるのにどうして寂しがるのよ?)
(見えないからよ)
(それなら幻覚でも見せた方がいいかしら?)
その提案はありがたいのだけど、声に出して話しかけてしまったらただの頭がおかしい人になってしまうわよね……。
(うっかり話しかけそうだから遠慮しておくわ)
(変人にはなりたくないってことね)
(当たり前よ!)
(ちなみにだけど、昨日一緒にいた私は幻覚よ)
(えっ……?)
衝撃の発言に思わず足を止めてしまった。
今日はそれほど疲れてはいなかったけれど、眠気はあっという間に襲ってきて……。
……。
次に目を開けると、眩しい光が視界を覆った。
思わず視線を逸らしたけれど、目が覚めるにつれて眩しさに慣れてきて、窓の外にほのかに赤い朝日を見ることができた。
「レティシアおはよう」
「おはよう」
そんな言葉を交わして、私は着替えのために衣装部屋にしている小部屋に入った。
「今日は王子に会うんだっけ?」
「うん。だからいつも以上に気をつけないと……」
そう呟きながら昨日のうちに決めておいたドレスを着ていく。
これだけならそれほど時間はかからないのだけど、問題はここから。
慣れないメイクをしないといけないし、装飾品だって着けないといけない。
だから30分は見込んでいるのだけど……
「レティシアって不器用なのね。私がやってみてもいいかしら?」
「出来るの?」
「マリーよりは上手な自信があるわ」
「そこまで言うなら、お願いするわ」
……そう言った次の瞬間、フレアは慣れた手つきでメイクだったりを始めてくれて。
1分後には別人にしか見えない……は言い過ぎだけれど、雰囲気がいつもと違う私がいた。
「ここまで変わるのね」
「元が良いから大したことはしてないわよ?」
「そうは思えないのだけど……」
鏡に映る私はいつもよりも明るい雰囲気になっていて、少し落ち着かない。
「ついでに髪飾りもお願い出来る?」
「いいわよ」
もう全部フレアに任せてしまいそうな勢いなのに、快く受け入れてくれた。
でも次の瞬間、私は冷や汗を浮かべることになってしまった。
「痛っ……」
パチンという音に続けて、そんな声が聞こえたから。
「大丈夫!?」
「どうなってるのよこれ……」
髪を挟む部分に指を挟んでしまったらしく、痛そうにしているフレア。
慌てて髪飾りを外したのだけど、指が青くなってしまっていた。
「ごめん、髪飾りはやめておくわ……」
そう言いながら指に反対側の手をかざすフレア。
次の瞬間、淡い光が指を包んだと思ったら、青くなっていた指は元の白い指に戻っていた。
「それ、治癒魔術? ……じゃないわよね、もっと時間かかるもの。
それも魔法なの?」
「そうだけど……これも祈るだけだから簡単よ?」
「いざという時のために練習しておきたいわ……。でも、どうやって練習すればいいのかしら?」
髪飾りを留め終えたから、次は耳飾りね。
「こっちの指がまだ残ってるから、これで練習するといいわ」
「わ、分かったわ……」
ちょっと待って、どうして血が出ているの?
驚いて耳飾りを落としてしまった。
でも、それは気にしないでフレアの指を治すことを優先することにした。
「これでいいのかな?」
「うん。初めてなのに上手いわね」
光が晴れると元通り傷ひとつない綺麗な指になっていて、胸を撫で下ろす私だった。
この後は特に問題が起こることなく準備を進めることが出来て、いつも通りの時間にレストランに向かうことが出来た。
(私はそろそろ消えるわね)
(分かったわ)
そう返してから部屋を出る私。
後ろを振り返っても誰もいなくて、少し寂しかった。
でも、王宮暮らしはこれが普通。
なんとも言えない不思議な気持ちを押し込めて、レストランに向けて足を進めた。
(私なら隣にいるのにどうして寂しがるのよ?)
(見えないからよ)
(それなら幻覚でも見せた方がいいかしら?)
その提案はありがたいのだけど、声に出して話しかけてしまったらただの頭がおかしい人になってしまうわよね……。
(うっかり話しかけそうだから遠慮しておくわ)
(変人にはなりたくないってことね)
(当たり前よ!)
(ちなみにだけど、昨日一緒にいた私は幻覚よ)
(えっ……?)
衝撃の発言に思わず足を止めてしまった。
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