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30. 余命9日⑤
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「早速お仕事をお願いしますわ。この書類から必要な予算を計算して、この書類の空欄を埋めてください」
「分かりましたわ」
クロエさんの指示を聞いて、早速書類を広げる私。
内容自体はそれほど難しくなかったけれど、量が多いから2時間以上かかってしまった。
「終わりましたわ」
「もう終わりましたの!?」
頼まれた仕事が終わったことを告げると何故か驚かれた。
でも、追加の仕事を頼まれることはなかった。
その日にやらないといけない仕事が終われば、後は自由にしていいのがここの決まり。
だから、早く終われば早く切り上げることが出来るのだけど……忙しい日は普段よりも遅くなるらしい。
それでもお給金はかなり貰えることになっているから、文句を言う理由にはならないのよね……。
ちなみにだけど、他の方々は私のものよりも一回り大きい束を片付けて同じ時間で終わっているから、驚いたのは私の方なのだけど。
それを口にすることはなかった。
「では、今日はこの辺で終わりにしましょう。皆さん、お疲れ様でした」
「「お疲れ様でした」」
簡単に後片付けをして、挨拶を交わす私達。
それからすぐに解散……ということにはならず、揃って各々の部屋に戻ることになった。
「そういえば、ノールスタ公爵家が不正をしていたそうですわ」
「どんな不正ですの?」
「学院の机を薄い木材を組み合わせて作っていましたの。材料費を安くするために」
廊下を進んでいると、ふとそんな話題が始まった。
「これは仕事が増えそうですわね……」
「「ええ」」
クリスティーナ様の家が不正をしていたこと自体は特に何も思わなかったのだけど、私への嫌がらせが減るかもしれないと思うと少し気が楽になった。
でも……廊下の角に出た時だった。
「きゃっ……」
何かにぶつかり、小さく悲鳴を上げてしまった。
弾みで後ろに倒れかけたのだけど……
「大丈夫かい?」
……この甘い声の主に抱き寄せられていて、倒れることは免れた。
胸の音はいつになく煩いけれど……。
「ええ、大丈夫ですわ。ぶつかってしまい申し訳ありませんでした」
相手は冷徹王子とも呼ばれているジグルド王太子殿下。
深々と頭を下げて許しを乞っても、許してもらえるかは分からなかった。
嫌な汗を滲ませながら、運命を告げる言葉を待つ私。
少し間をおいてかけられた言葉は、意外なものだった。
「いや、君が無事なら問題ない」
「へ……?」
「王太子が令嬢を突き飛ばしたって噂されずに済むからな」
もしかして気に入られている?
一瞬だけそんな風に考えてしまった私を叩きたい。
さっき目を合わせてくれた殿下は完全にそっぽを向いていて、襟から覗く首筋は心なしか赤らんでいる。
でも、表情は無を貫いていて、何を考えているのか読み取ることは出来なかった。
「殿下、騎士団長がお呼びです」
「分かった。では失礼する」
結局、そのまま殿下は廊下の向こうに行ってしまった。
それから少しして、私以外の女官さんが騒ぎ始めた。
「あの殿下が優しかったですわ……」
「レティシアさん、貴女一体何者ですの?」
「私はルードリッヒ侯爵家の次女ですが……」
「そういう意味ではありませんわ。ああいう時、殿下は腕を掴むだけですのに……」
どうやら、さっきの私を抱き寄せたのは初めての光景だったらしく、それで騒がれているらしい。
「そうですの……?」
「ええ。もしかしたら、殿下は貴女のことを気に入っているのかもしれませんわ」
そういえば、王宮パーティーの最中にクリスティーナ様達から助けてくれたのは、ジグルド殿下だった。
だから、気に入られているというのはあり得る話なのだけど……いつでも冷たいと有名な殿下に好かれているというのは、複雑な気持ちだった。
例え婚約するようなことになっても、冷たくされるような気がするから。
でも、私にだけ優しくしてくれるという希望もあって……。
殿下と距離を縮めるべきなのか分からなくて、部屋に戻ってからはしばらく悶々としていた。
「分かりましたわ」
クロエさんの指示を聞いて、早速書類を広げる私。
内容自体はそれほど難しくなかったけれど、量が多いから2時間以上かかってしまった。
「終わりましたわ」
「もう終わりましたの!?」
頼まれた仕事が終わったことを告げると何故か驚かれた。
でも、追加の仕事を頼まれることはなかった。
その日にやらないといけない仕事が終われば、後は自由にしていいのがここの決まり。
だから、早く終われば早く切り上げることが出来るのだけど……忙しい日は普段よりも遅くなるらしい。
それでもお給金はかなり貰えることになっているから、文句を言う理由にはならないのよね……。
ちなみにだけど、他の方々は私のものよりも一回り大きい束を片付けて同じ時間で終わっているから、驚いたのは私の方なのだけど。
それを口にすることはなかった。
「では、今日はこの辺で終わりにしましょう。皆さん、お疲れ様でした」
「「お疲れ様でした」」
簡単に後片付けをして、挨拶を交わす私達。
それからすぐに解散……ということにはならず、揃って各々の部屋に戻ることになった。
「そういえば、ノールスタ公爵家が不正をしていたそうですわ」
「どんな不正ですの?」
「学院の机を薄い木材を組み合わせて作っていましたの。材料費を安くするために」
廊下を進んでいると、ふとそんな話題が始まった。
「これは仕事が増えそうですわね……」
「「ええ」」
クリスティーナ様の家が不正をしていたこと自体は特に何も思わなかったのだけど、私への嫌がらせが減るかもしれないと思うと少し気が楽になった。
でも……廊下の角に出た時だった。
「きゃっ……」
何かにぶつかり、小さく悲鳴を上げてしまった。
弾みで後ろに倒れかけたのだけど……
「大丈夫かい?」
……この甘い声の主に抱き寄せられていて、倒れることは免れた。
胸の音はいつになく煩いけれど……。
「ええ、大丈夫ですわ。ぶつかってしまい申し訳ありませんでした」
相手は冷徹王子とも呼ばれているジグルド王太子殿下。
深々と頭を下げて許しを乞っても、許してもらえるかは分からなかった。
嫌な汗を滲ませながら、運命を告げる言葉を待つ私。
少し間をおいてかけられた言葉は、意外なものだった。
「いや、君が無事なら問題ない」
「へ……?」
「王太子が令嬢を突き飛ばしたって噂されずに済むからな」
もしかして気に入られている?
一瞬だけそんな風に考えてしまった私を叩きたい。
さっき目を合わせてくれた殿下は完全にそっぽを向いていて、襟から覗く首筋は心なしか赤らんでいる。
でも、表情は無を貫いていて、何を考えているのか読み取ることは出来なかった。
「殿下、騎士団長がお呼びです」
「分かった。では失礼する」
結局、そのまま殿下は廊下の向こうに行ってしまった。
それから少しして、私以外の女官さんが騒ぎ始めた。
「あの殿下が優しかったですわ……」
「レティシアさん、貴女一体何者ですの?」
「私はルードリッヒ侯爵家の次女ですが……」
「そういう意味ではありませんわ。ああいう時、殿下は腕を掴むだけですのに……」
どうやら、さっきの私を抱き寄せたのは初めての光景だったらしく、それで騒がれているらしい。
「そうですの……?」
「ええ。もしかしたら、殿下は貴女のことを気に入っているのかもしれませんわ」
そういえば、王宮パーティーの最中にクリスティーナ様達から助けてくれたのは、ジグルド殿下だった。
だから、気に入られているというのはあり得る話なのだけど……いつでも冷たいと有名な殿下に好かれているというのは、複雑な気持ちだった。
例え婚約するようなことになっても、冷たくされるような気がするから。
でも、私にだけ優しくしてくれるという希望もあって……。
殿下と距離を縮めるべきなのか分からなくて、部屋に戻ってからはしばらく悶々としていた。
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