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2. 余命14日①

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 戸惑いながら周りを見渡しても、変わったことはない。
 ちょうど目に入った時計は、まだ夜の6時を指していて、眠りについてから10分も経っていなかった。

 そこまで状況を理解した時だった。
 部屋の扉が勢いよく開けられて、侍女が慌てた様子で入ってきた。

「お嬢様、何かありましたか?」
「脅かしてごめんなさい……。夢見が悪かっただけよ」

 駆けつけた侍女にそう返す私。

「そうですか。それにしては立派な悲鳴でしたが……」
「恥ずかしいからそれ以上言わないで」

 私の言葉を疑っているのか、言葉を濁す侍女。私が抗議の声を上げると詮索するのをやめてくれた。
 さっきの夢は天啓に違いない。そう思っているから、なんとか誤魔化したかった。

「分かりました。何かあったらすぐに呼んでくださいね」

 具合が良くなって食欲が戻ったから、私はこんなお願いをした。

「ありがとう。早速だけど……夕食って、私の分はあるかしら?」
「ええ、まだ残してあります」
「お腹が空いたから、運んできてもらえるかしら?」

 食堂に行ってお父様とお母様に文句を言われるのは嫌だったから、そうお願いしてみた。
 それに……今部屋から出れば、体調が優れないというのが嘘だったと思われてしまうから。

「畏まりました」

 幸いにも、侍女は何も疑うことなく返事をしてくれた。

 それから運ばれてきた夕食は冷めていなくて、いつもと変わらない味だった。

 この後は、お腹を満たしたせいか眠気に襲われてしまい、今度は熟睡することが出来た。
 夢を見ることも、天啓を受けることも無くて。



 次に目が覚めると、気持ちのいい朝を迎えていた。

「今日もいい天気ね……」

 窓から差し込む暖かい日差しを見て、そう呟く私。
 直後、そっと扉を開けて部屋に入ってきた侍女がこう口にした。

「お嬢様、おはようございます」
「おはよう」

 いつもと変わらない挨拶を交わし、私は手早く簡素なドレスに着替えた。
 そして、朝食のために食堂に向かった。

 食堂に着くと、まだ私の家族の姿はなくて、代わりに使用人達から挨拶をされた。

「お嬢様、おはようございます」
「ええ、おはよう」

 挨拶を返して、いつもの席に座る私。
 それからすぐにお母様が姿を見せて、こんな言葉をかけられた。

「あら、もう来ていたのね」

 私を疎むような視線。それを気にしないで、私はこう返した。

「遅れてしまったら迷惑になってしまいますから……」

 お母様の問いかけに遠慮がちにそう答えると、お母様は微笑みを受けべながらこう口にした。

「少しくらい遅れても気にしないわよ」
「それでも、ですわ」

 これだけ見れば、優しい母親と娘の会話に見えると思う。
 でも、実際は違う。

 もしも私が遅れれば、食事を抜きにされてしまう。
 だから、甘い言葉に惑わされる訳にはいかなかった。

 だって、私はこの家の忌み子だから……。



 100年ほど前、領地を襲った大災害。その元凶と言われている当時の令嬢クレアと容姿が似ているから。
 具体的には、そのクレアと私は赤い髪と赤い瞳という共通点があった。

 そんな理由で忌み子と言われているのは、正直に言って悲しい。
 でも……最近、周囲で良くないことが度々起きているから、本当に忌み子かもしれないと思ってしまっている私もいる。

 だからと言って、命を経つことは絶対にないけれど。


 そう決意をし直した時だった。
 お母様からこんなことを頼まれた。

「そこのスプーンを取ってもらえる?」
「はい」

 返事をして、側にあった食器入れからスプーンを取り出す私。
 それ手渡そうとした時だった。

 バチッという音とともに、お母様の手とスプーンとの間に閃光が走った。

「痛っ……」

 そんな声を漏らしながら、手を引くお母様。
 その表情が、苦悶のものから怒りに変わるのは、あっという間だった。

「やっぱり貴女は忌み子ね。近くにいると良くないことばかり起こるもの」
「申し訳ありません……」

 私は痛みは感じなかったけれど、今の不可解な現象──通称、神の怒り。それが起きた理由を説明することは出来なくて。
 私は頭を下げるしかなかった。
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