悪役令嬢に嵌められてしまったので、破滅に追い込んで平穏に過ごそうと思います!

八代奏多

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1. 不幸の始まり

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 煌めく数多のシャンデリア。置かれている調度品はどれも最高級品。
 そんな場所で舞踏曲に合わせて麗しの令嬢令息方がパートナーと共に優雅にステップを踏んでいる。

 そんな華やかな王宮パーティーの会場に私、レシア・アレオスは来ている。

 先月に16歳の誕生日を迎え、16歳になったら初社交界を迎えるという貴族の慣例がなかったら参加しないのに……。

 それは置いておいて、今の私は社交界用の空色のドレスに身を包み、目立たないように壁際にいる。
 下手に目立てば悪い意味で良家のお嬢様やご婦人方に目をつけられてしまうかもしれないから。

 何人かのご令嬢が虐められて心を病んでしまったという話も聞くから、絶対にそれは避けたい。

 近くに友人はいても、社交界で寄り添えるパートナーがいるわけでもない私は会場の端の方で伯爵家のお嬢様方と雑談しながら出されている料理を頂いている。


 そんな時、こちらに近付いて来る見知った顔を見つけた私は断りを入れて知り合いの元に急いだ。

「ごきげんよう、レシア! こんなところにいたのね!」
「ごきげんよう。よく私のことを見つけられたね?」
「大切な友達だから見つけられるのは当然でしょ? それに、レシアの髪は目立つから見つけやすいのよ」

 彼女はルード侯爵家の長女のアイセア。私の数少ない友人の一人だ。
 家格が同じで家同士の繋がりも深いからアイセアとは呼び捨て出来る仲だし、社交界でも砕けた口調で話せる。身分が高い方が近くにいない時に限られるけど。

 ……それよりも、髪が目立つって⁉︎ 大問題じゃない!

「そんなに私の髪目立つかしら?」
「探せばすぐに見つけられるくらいには目立つわよ。明るいブロンドの髪なんて羨ましいわ!」
「そうよね……目立つよね……」

 目立っていたと知りショックを受ける私。
 お母様譲りのこの髪色ーーほのかに赤みがかった金髪は誇りなのだけど、この場ではちょっと鬱陶しい。

 ちなみに、私たちの暮らすグレール王国では、明るいブロンドの髪の人は少ない。
 綺麗な明るいブロンドの髪は王族の方に多い色素で、社交界に多いのは茶髪や赤髪だったりする。



「大丈夫よ。ほら、私達を見てる人なんていないわ」

 アイセア様に言われて会場を見てみると、皆さんの視線は会場の中央の二人、グランシア公爵家のエルワード様とレノクス公爵家のアーシャ様に向けられていた。
 そのアーシャ様は顔をほのかに赤らめてエルワード様に寄り添っているけれど、エルワード様は愛想笑いすら浮かべていない。余程アーシャ様がお嫌いみたい。

 二人ともグレール王国の社交界で知らない人がいないほも有名な超がつく程の有力貴族の令息令嬢だから、そこそこ力がある程度の侯爵令嬢でしかない私達はこの場でどう転んでも勝てないわ。
 そもそも勝つわけにはいかないのだけど……。

「……そうね。みんな私達には興味がないみたいで安心したわ」
「まだ顔が知られてないから注目されていないだけだと思うわよ? だって私達、侯爵令嬢なのよ!」

 そう口にして可愛らしい顔を輝かせるアイセア様。恋に憧れる乙女みたいでちょっと可愛い。
 私は平穏に社交界を過ごせるか気が気でない。

「嬉しそうね?」
「これからの社交界、楽しみじゃない! 運命の方との出会いもあるのよ!」
「私は不安しかないけど……」
「レシアはもっと明るくなるべきよ。じゃなきゃ見つかるはずの出会いも見つからないわ!」
「ええそうね。私も出会いを探さないとなぁ……。
 ところで、アイセアに気になる殿方はいるの?」
「わ、私はまだいないわよ! これから探すから大丈夫、問題ないわ」

 そう言って胸を張るアイセア様。

「自慢すること?」
「ちょっと言いたかっただけ。話の途中で悪いけど、お花摘みに行ってきてもいいかしら?」
「ええ。行ってらっしゃい」

 アイセア様がお手洗いから戻ってくるまでお皿の上の料理を頂くことにした私はこちらに近付いてくるエルワード様を見つけてしまった。
 アイセア様、これを分かってて逃げたわね?




「こんにちは、レシア嬢」
「ごきげんよう、エルワード様」

 爽やかな笑顔を見せるエルワード様に挨拶を返す私。エルワード様は長身なので自然と見上げる形になってしまう。
 ちなみに、以前からエルワード様とは関わりがある。だからこそアーシャ様に目をつけられないか心配になっている。

「エルワード様、私にどういったご用件でしょうか?」
「アーシャ嬢以外とも交流を深めたくて来たんだけど、アイセア嬢には逃げられたみたいだね」

 残念そうにそう口にするエルワード様。

「アイセア様はすぐに戻って来ると思います。お花摘みに行っただけですので」
「なら先に話していよう」
「そうですね」

 私がそう返すと、エルワード様の口調が変わった。

「社交界はどうですか?」
「緊張していますわ。不安も多いので」

 口調が変わった原因はすぐに分かった。
 私達の周りに人が増えていたから、普段のような砕けた口調から社交用の敬語に変えたみたい。

「そのうち慣れるから大丈夫ですよ。王家の方々も優しい方ばかりですし、心配いりませんよ」

 笑顔でそう話すエルワード様。対する私は愛想笑いすら浮かべられていない。
 イケメンが目の前にいれば普通は見惚れてしまいそうなものだけれど、今の私は緊張でそれどころではない。
 ものすごーく注目されているから……。

 お嬢様方からの嫉妬の視線やら、ご夫人方からの見定めるような視線。公爵令嬢からの怒りの視線などなど。
 そんなものに慣れていない私は今すぐにこの窮地を抜け出したい気持ちでいっぱいだった。
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