1 / 24
1. 不幸の始まり
しおりを挟む
煌めく数多のシャンデリア。置かれている調度品はどれも最高級品。
そんな場所で舞踏曲に合わせて麗しの令嬢令息方がパートナーと共に優雅にステップを踏んでいる。
そんな華やかな王宮パーティーの会場に私、レシア・アレオスは来ている。
先月に16歳の誕生日を迎え、16歳になったら初社交界を迎えるという貴族の慣例がなかったら参加しないのに……。
それは置いておいて、今の私は社交界用の空色のドレスに身を包み、目立たないように壁際にいる。
下手に目立てば悪い意味で良家のお嬢様やご婦人方に目をつけられてしまうかもしれないから。
何人かのご令嬢が虐められて心を病んでしまったという話も聞くから、絶対にそれは避けたい。
近くに友人はいても、社交界で寄り添えるパートナーがいるわけでもない私は会場の端の方で伯爵家のお嬢様方と雑談しながら出されている料理を頂いている。
そんな時、こちらに近付いて来る見知った顔を見つけた私は断りを入れて知り合いの元に急いだ。
「ごきげんよう、レシア! こんなところにいたのね!」
「ごきげんよう。よく私のことを見つけられたね?」
「大切な友達だから見つけられるのは当然でしょ? それに、レシアの髪は目立つから見つけやすいのよ」
彼女はルード侯爵家の長女のアイセア。私の数少ない友人の一人だ。
家格が同じで家同士の繋がりも深いからアイセアとは呼び捨て出来る仲だし、社交界でも砕けた口調で話せる。身分が高い方が近くにいない時に限られるけど。
……それよりも、髪が目立つって⁉︎ 大問題じゃない!
「そんなに私の髪目立つかしら?」
「探せばすぐに見つけられるくらいには目立つわよ。明るいブロンドの髪なんて羨ましいわ!」
「そうよね……目立つよね……」
目立っていたと知りショックを受ける私。
お母様譲りのこの髪色ーーほのかに赤みがかった金髪は誇りなのだけど、この場ではちょっと鬱陶しい。
ちなみに、私たちの暮らすグレール王国では、明るいブロンドの髪の人は少ない。
綺麗な明るいブロンドの髪は王族の方に多い色素で、社交界に多いのは茶髪や赤髪だったりする。
「大丈夫よ。ほら、私達を見てる人なんていないわ」
アイセア様に言われて会場を見てみると、皆さんの視線は会場の中央の二人、グランシア公爵家のエルワード様とレノクス公爵家のアーシャ様に向けられていた。
そのアーシャ様は顔をほのかに赤らめてエルワード様に寄り添っているけれど、エルワード様は愛想笑いすら浮かべていない。余程アーシャ様がお嫌いみたい。
二人ともグレール王国の社交界で知らない人がいないほも有名な超がつく程の有力貴族の令息令嬢だから、そこそこ力がある程度の侯爵令嬢でしかない私達はこの場でどう転んでも勝てないわ。
そもそも勝つわけにはいかないのだけど……。
「……そうね。みんな私達には興味がないみたいで安心したわ」
「まだ顔が知られてないから注目されていないだけだと思うわよ? だって私達、侯爵令嬢なのよ!」
そう口にして可愛らしい顔を輝かせるアイセア様。恋に憧れる乙女みたいでちょっと可愛い。
私は平穏に社交界を過ごせるか気が気でない。
「嬉しそうね?」
「これからの社交界、楽しみじゃない! 運命の方との出会いもあるのよ!」
「私は不安しかないけど……」
「レシアはもっと明るくなるべきよ。じゃなきゃ見つかるはずの出会いも見つからないわ!」
「ええそうね。私も出会いを探さないとなぁ……。
ところで、アイセアに気になる殿方はいるの?」
「わ、私はまだいないわよ! これから探すから大丈夫、問題ないわ」
そう言って胸を張るアイセア様。
「自慢すること?」
「ちょっと言いたかっただけ。話の途中で悪いけど、お花摘みに行ってきてもいいかしら?」
「ええ。行ってらっしゃい」
アイセア様がお手洗いから戻ってくるまでお皿の上の料理を頂くことにした私はこちらに近付いてくるエルワード様を見つけてしまった。
アイセア様、これを分かってて逃げたわね?
「こんにちは、レシア嬢」
「ごきげんよう、エルワード様」
爽やかな笑顔を見せるエルワード様に挨拶を返す私。エルワード様は長身なので自然と見上げる形になってしまう。
ちなみに、以前からエルワード様とは関わりがある。だからこそアーシャ様に目をつけられないか心配になっている。
「エルワード様、私にどういったご用件でしょうか?」
「アーシャ嬢以外とも交流を深めたくて来たんだけど、アイセア嬢には逃げられたみたいだね」
残念そうにそう口にするエルワード様。
「アイセア様はすぐに戻って来ると思います。お花摘みに行っただけですので」
「なら先に話していよう」
「そうですね」
私がそう返すと、エルワード様の口調が変わった。
「社交界はどうですか?」
「緊張していますわ。不安も多いので」
口調が変わった原因はすぐに分かった。
私達の周りに人が増えていたから、普段のような砕けた口調から社交用の敬語に変えたみたい。
「そのうち慣れるから大丈夫ですよ。王家の方々も優しい方ばかりですし、心配いりませんよ」
笑顔でそう話すエルワード様。対する私は愛想笑いすら浮かべられていない。
イケメンが目の前にいれば普通は見惚れてしまいそうなものだけれど、今の私は緊張でそれどころではない。
ものすごーく注目されているから……。
お嬢様方からの嫉妬の視線やら、ご夫人方からの見定めるような視線。公爵令嬢からの怒りの視線などなど。
そんなものに慣れていない私は今すぐにこの場を抜け出したい気持ちでいっぱいだった。
そんな場所で舞踏曲に合わせて麗しの令嬢令息方がパートナーと共に優雅にステップを踏んでいる。
そんな華やかな王宮パーティーの会場に私、レシア・アレオスは来ている。
先月に16歳の誕生日を迎え、16歳になったら初社交界を迎えるという貴族の慣例がなかったら参加しないのに……。
それは置いておいて、今の私は社交界用の空色のドレスに身を包み、目立たないように壁際にいる。
下手に目立てば悪い意味で良家のお嬢様やご婦人方に目をつけられてしまうかもしれないから。
何人かのご令嬢が虐められて心を病んでしまったという話も聞くから、絶対にそれは避けたい。
近くに友人はいても、社交界で寄り添えるパートナーがいるわけでもない私は会場の端の方で伯爵家のお嬢様方と雑談しながら出されている料理を頂いている。
そんな時、こちらに近付いて来る見知った顔を見つけた私は断りを入れて知り合いの元に急いだ。
「ごきげんよう、レシア! こんなところにいたのね!」
「ごきげんよう。よく私のことを見つけられたね?」
「大切な友達だから見つけられるのは当然でしょ? それに、レシアの髪は目立つから見つけやすいのよ」
彼女はルード侯爵家の長女のアイセア。私の数少ない友人の一人だ。
家格が同じで家同士の繋がりも深いからアイセアとは呼び捨て出来る仲だし、社交界でも砕けた口調で話せる。身分が高い方が近くにいない時に限られるけど。
……それよりも、髪が目立つって⁉︎ 大問題じゃない!
「そんなに私の髪目立つかしら?」
「探せばすぐに見つけられるくらいには目立つわよ。明るいブロンドの髪なんて羨ましいわ!」
「そうよね……目立つよね……」
目立っていたと知りショックを受ける私。
お母様譲りのこの髪色ーーほのかに赤みがかった金髪は誇りなのだけど、この場ではちょっと鬱陶しい。
ちなみに、私たちの暮らすグレール王国では、明るいブロンドの髪の人は少ない。
綺麗な明るいブロンドの髪は王族の方に多い色素で、社交界に多いのは茶髪や赤髪だったりする。
「大丈夫よ。ほら、私達を見てる人なんていないわ」
アイセア様に言われて会場を見てみると、皆さんの視線は会場の中央の二人、グランシア公爵家のエルワード様とレノクス公爵家のアーシャ様に向けられていた。
そのアーシャ様は顔をほのかに赤らめてエルワード様に寄り添っているけれど、エルワード様は愛想笑いすら浮かべていない。余程アーシャ様がお嫌いみたい。
二人ともグレール王国の社交界で知らない人がいないほも有名な超がつく程の有力貴族の令息令嬢だから、そこそこ力がある程度の侯爵令嬢でしかない私達はこの場でどう転んでも勝てないわ。
そもそも勝つわけにはいかないのだけど……。
「……そうね。みんな私達には興味がないみたいで安心したわ」
「まだ顔が知られてないから注目されていないだけだと思うわよ? だって私達、侯爵令嬢なのよ!」
そう口にして可愛らしい顔を輝かせるアイセア様。恋に憧れる乙女みたいでちょっと可愛い。
私は平穏に社交界を過ごせるか気が気でない。
「嬉しそうね?」
「これからの社交界、楽しみじゃない! 運命の方との出会いもあるのよ!」
「私は不安しかないけど……」
「レシアはもっと明るくなるべきよ。じゃなきゃ見つかるはずの出会いも見つからないわ!」
「ええそうね。私も出会いを探さないとなぁ……。
ところで、アイセアに気になる殿方はいるの?」
「わ、私はまだいないわよ! これから探すから大丈夫、問題ないわ」
そう言って胸を張るアイセア様。
「自慢すること?」
「ちょっと言いたかっただけ。話の途中で悪いけど、お花摘みに行ってきてもいいかしら?」
「ええ。行ってらっしゃい」
アイセア様がお手洗いから戻ってくるまでお皿の上の料理を頂くことにした私はこちらに近付いてくるエルワード様を見つけてしまった。
アイセア様、これを分かってて逃げたわね?
「こんにちは、レシア嬢」
「ごきげんよう、エルワード様」
爽やかな笑顔を見せるエルワード様に挨拶を返す私。エルワード様は長身なので自然と見上げる形になってしまう。
ちなみに、以前からエルワード様とは関わりがある。だからこそアーシャ様に目をつけられないか心配になっている。
「エルワード様、私にどういったご用件でしょうか?」
「アーシャ嬢以外とも交流を深めたくて来たんだけど、アイセア嬢には逃げられたみたいだね」
残念そうにそう口にするエルワード様。
「アイセア様はすぐに戻って来ると思います。お花摘みに行っただけですので」
「なら先に話していよう」
「そうですね」
私がそう返すと、エルワード様の口調が変わった。
「社交界はどうですか?」
「緊張していますわ。不安も多いので」
口調が変わった原因はすぐに分かった。
私達の周りに人が増えていたから、普段のような砕けた口調から社交用の敬語に変えたみたい。
「そのうち慣れるから大丈夫ですよ。王家の方々も優しい方ばかりですし、心配いりませんよ」
笑顔でそう話すエルワード様。対する私は愛想笑いすら浮かべられていない。
イケメンが目の前にいれば普通は見惚れてしまいそうなものだけれど、今の私は緊張でそれどころではない。
ものすごーく注目されているから……。
お嬢様方からの嫉妬の視線やら、ご夫人方からの見定めるような視線。公爵令嬢からの怒りの視線などなど。
そんなものに慣れていない私は今すぐにこの場を抜け出したい気持ちでいっぱいだった。
28
お気に入りに追加
739
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

元カレの今カノは聖女様
abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」
公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。
婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。
極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。
社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。
けれども当の本人は…
「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」
と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。
それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。
そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で…
更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。
「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

婚約破棄を宣告した王子は慌てる?~公爵令嬢マリアの思惑~
岡暁舟
恋愛
第一王子ポワソンから不意に婚約破棄を宣告されることになった公爵令嬢のマリア。でも、彼女はなにも心配していなかった。ポワソンの本当の狙いはマリアの属するランドン家を破滅させることだった。
王家に成り代わって社会を牛耳っているランドン家を潰す……でも、マリアはただでは転ばなかった。

婚約破棄されたので王子様を憎むけど息子が可愛すぎて何がいけない?
tartan321
恋愛
「君との婚約を破棄する!!!!」
「ええ、どうぞ。そのかわり、私の大切な子供は引き取りますので……」
子供を溺愛する母親令嬢の物語です。明日に完結します。

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした
基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。
その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。
身分の低い者を見下すこともしない。
母国では国民に人気のあった王女だった。
しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。
小国からやってきた王女を見下していた。
極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。
ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。
いや、侍女は『そこにある』のだという。
なにもかけられていないハンガーを指差して。
ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。
「へぇ、あぁそう」
夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。
今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

婚約破棄を目指して
haruhana
恋愛
伯爵令嬢リーナには、幼い頃に親同士が決めた婚約者アレンがいる。美しいアレンはシスコンなのか?と疑わしいほど溺愛する血の繋がらない妹エリーヌがいて、いつもデートを邪魔され、どっちが婚約者なんだかと思うほどのイチャイチャぶりに、私の立場って一体?と悩み、婚約破棄したいなぁと思い始めるのでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる