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第三章 伍塁様とお仕事 1
まほうの仲間たち
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「こんにちは」
真宝野雑貨店はいつも何か不思議な香りがする。奥から話し声が聞こえ、カフェテーブルには憂差と他に二人が話をしていた。
「あら実玖ちゃん、こんにちは」
憂差が手招きをして背の高いスツールから「よいしょ」と降りた。
「座りなさい、お茶を入れてくるわ」
実玖は他の二人にお辞儀をしてからスツールに腰をのせた。一人は元うさぎ、一人は元さるのようだ。二人は軽く頭を下げて会話を続けている。
「こちらは実玖ちゃん。昔のご主人、イケメンの伍塁さんのところに家政夫に行ってるの」
小さなカップをテーブルに置いた憂差に紹介され、実玖はもう一度頭を下げた。
眼鏡をかけた元うさぎは目で挨拶をして、カタカタとキーボードを叩いている。
「彼女は鞠夢ちゃん、異世界転生のお話を書く小説家。こちらは編集をしている菊田さん。二人ともニンゲンになってから活躍してるわ」
「へぇー、もしかして昔のご主人様に逢いたくてニンゲンになったの? いいネタじゃん。どう、菊田さん」
「そうだな、次作は異世界転生BLにするのもいいかも」
実玖はよくわからない言葉を気にする余裕がなく、憂差に話しかけた。
「実は聞いて欲しいことがあってきました」
「あら、私でいいのかしら」
「伍塁様には言えないことなんです」
「そう、何があったのかしら」
実玖は訪問先の美しい飼い猫に厳しい態度と言葉で接しられたことを話した。その時に何も言えなかった自分の気持ちもわからなくなり、伍塁に相談してここに来たことも付け加える。
「わたくしはまだニンゲンのことがわかっていません。猫の時の感覚も薄れています。今の自分のことがわからなくなりました。先程、伍塁様が悲しそうな顔をしていたのは、きっとわたくしが何かそうなる原因を作ってしまったんです」
実玖は口に出した言葉に感情が高まって最後は強く自分を責め、唇を噛んで下を向く。
「そんなの言わしとけばいいんじゃね?」
鞠夢がちらりと画面から視線を上げて言った。
「そうだなー。猫には猫のプライドがあるだろうけど、ニンゲンになった元猫の気持ちも事情もそいつにはわからないよな」
菊田も鞠夢に同意する。
実玖は二人がきちんと自分の考えを口にしたのを聞き、ニンゲンのキャリアを積んで自信を持って生きているように見えた。
こんな風に自分もなれるんだろうかと、二人を代わる代わる見ると鞠夢にニヤリとされた。
実玖は慌てて目を逸らした。
憂差は話を聞いてるのか聞いていないのか、頬杖をついていて、時々目を開ける。
「めんどくせー猫といつも会うわけじゃないなら、とりあえず無視しときゃいいじゃん」
「鞠夢ちゃんは強いからな。でも、ホントそんなに気にすることじゃないよ。それぞれの考えだから。実玖ちゃんもそのうちニンゲンっていう生き方がわかるようになるさ」
実玖はますますわからなくなる。無視するとは失礼にならないのだろうか。
ニンゲンの生活には、何かをするにも考えるにも選択肢が沢山あって、真っ直ぐな実玖には処理しきれなくなることが多々あるのだ。
「ねぇ実玖ちゃん」
憂差が目を開けて気だるそうに呼びかける。
「他の猫になんて言われてもいいじゃない。ご主人様に会いたくて頑張ったんでしょう。何か恩返しでやりたいことが沢山あったんでしょう。目的をもってここに来たことを忘れちゃダメよ。もし目的を果たし尽くしたとしても、ニンゲンはやりたいように好きなように生きられる力を持ってるの。これからニンゲンとして生きていくんだから大切なことよ。覚えておきなさい」
もしかして寝てるんじゃないかと思っていた憂差に言われて思い出した。そうだ目的があるのだと。
「そうでした、わたくしは伍塁様に恩返しをするんでした。毎日楽しくて忘れそうでした」
伍塁は何かと不慣れな実玖に根気よく教えてくれる。いつも優しく接してくれる。たくさんの体験をくれる。それに応えられるよう学び、恩返しをするのだった。
そう思うと早く伍塁に会いたくなって胸の内ポケットから伍塁に買ってもらったスマホを取り出す。「終わりました」と伍塁にメッセージを送り、スタンプがすぐに返ってきて皆に告げた。
「憂差さん、鞠夢さん、菊田さんありがとうございました。伍塁様と帰ります」
「お迎えに来てくれるのかしら」
憂差は色の付いた指先で長い煙管をつまみ、煙を細く出しながら笑っている。煙からは甘い匂いがしていた。
「ご主人様にお迎えに来てもらうなんて、不思議な家政夫だな」
「愛されてるね」
実玖は深くお辞儀をしてから急いで店をあとにした。
早く伍塁に会いたくて道路脇で伍塁の車がくるのを待った。
真宝野雑貨店はいつも何か不思議な香りがする。奥から話し声が聞こえ、カフェテーブルには憂差と他に二人が話をしていた。
「あら実玖ちゃん、こんにちは」
憂差が手招きをして背の高いスツールから「よいしょ」と降りた。
「座りなさい、お茶を入れてくるわ」
実玖は他の二人にお辞儀をしてからスツールに腰をのせた。一人は元うさぎ、一人は元さるのようだ。二人は軽く頭を下げて会話を続けている。
「こちらは実玖ちゃん。昔のご主人、イケメンの伍塁さんのところに家政夫に行ってるの」
小さなカップをテーブルに置いた憂差に紹介され、実玖はもう一度頭を下げた。
眼鏡をかけた元うさぎは目で挨拶をして、カタカタとキーボードを叩いている。
「彼女は鞠夢ちゃん、異世界転生のお話を書く小説家。こちらは編集をしている菊田さん。二人ともニンゲンになってから活躍してるわ」
「へぇー、もしかして昔のご主人様に逢いたくてニンゲンになったの? いいネタじゃん。どう、菊田さん」
「そうだな、次作は異世界転生BLにするのもいいかも」
実玖はよくわからない言葉を気にする余裕がなく、憂差に話しかけた。
「実は聞いて欲しいことがあってきました」
「あら、私でいいのかしら」
「伍塁様には言えないことなんです」
「そう、何があったのかしら」
実玖は訪問先の美しい飼い猫に厳しい態度と言葉で接しられたことを話した。その時に何も言えなかった自分の気持ちもわからなくなり、伍塁に相談してここに来たことも付け加える。
「わたくしはまだニンゲンのことがわかっていません。猫の時の感覚も薄れています。今の自分のことがわからなくなりました。先程、伍塁様が悲しそうな顔をしていたのは、きっとわたくしが何かそうなる原因を作ってしまったんです」
実玖は口に出した言葉に感情が高まって最後は強く自分を責め、唇を噛んで下を向く。
「そんなの言わしとけばいいんじゃね?」
鞠夢がちらりと画面から視線を上げて言った。
「そうだなー。猫には猫のプライドがあるだろうけど、ニンゲンになった元猫の気持ちも事情もそいつにはわからないよな」
菊田も鞠夢に同意する。
実玖は二人がきちんと自分の考えを口にしたのを聞き、ニンゲンのキャリアを積んで自信を持って生きているように見えた。
こんな風に自分もなれるんだろうかと、二人を代わる代わる見ると鞠夢にニヤリとされた。
実玖は慌てて目を逸らした。
憂差は話を聞いてるのか聞いていないのか、頬杖をついていて、時々目を開ける。
「めんどくせー猫といつも会うわけじゃないなら、とりあえず無視しときゃいいじゃん」
「鞠夢ちゃんは強いからな。でも、ホントそんなに気にすることじゃないよ。それぞれの考えだから。実玖ちゃんもそのうちニンゲンっていう生き方がわかるようになるさ」
実玖はますますわからなくなる。無視するとは失礼にならないのだろうか。
ニンゲンの生活には、何かをするにも考えるにも選択肢が沢山あって、真っ直ぐな実玖には処理しきれなくなることが多々あるのだ。
「ねぇ実玖ちゃん」
憂差が目を開けて気だるそうに呼びかける。
「他の猫になんて言われてもいいじゃない。ご主人様に会いたくて頑張ったんでしょう。何か恩返しでやりたいことが沢山あったんでしょう。目的をもってここに来たことを忘れちゃダメよ。もし目的を果たし尽くしたとしても、ニンゲンはやりたいように好きなように生きられる力を持ってるの。これからニンゲンとして生きていくんだから大切なことよ。覚えておきなさい」
もしかして寝てるんじゃないかと思っていた憂差に言われて思い出した。そうだ目的があるのだと。
「そうでした、わたくしは伍塁様に恩返しをするんでした。毎日楽しくて忘れそうでした」
伍塁は何かと不慣れな実玖に根気よく教えてくれる。いつも優しく接してくれる。たくさんの体験をくれる。それに応えられるよう学び、恩返しをするのだった。
そう思うと早く伍塁に会いたくなって胸の内ポケットから伍塁に買ってもらったスマホを取り出す。「終わりました」と伍塁にメッセージを送り、スタンプがすぐに返ってきて皆に告げた。
「憂差さん、鞠夢さん、菊田さんありがとうございました。伍塁様と帰ります」
「お迎えに来てくれるのかしら」
憂差は色の付いた指先で長い煙管をつまみ、煙を細く出しながら笑っている。煙からは甘い匂いがしていた。
「ご主人様にお迎えに来てもらうなんて、不思議な家政夫だな」
「愛されてるね」
実玖は深くお辞儀をしてから急いで店をあとにした。
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