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第二章 試用期間は2週間

まほうの姉妹

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「わたくしがここに来る前に、伍塁様の家にチラシを入れてくれたのは所長さんですか」

 真宝野まほうの家政ふ紹介所で、住み込みではない家政ふ達が仕事を終えたのか、ちゃぶ台を囲んでいるところに実玖はやってきた。

「あら、実玖ちゃん久しぶり。ちゃんとお仕事してる?    もしかしてクビになったのかしら?」

「わー!    かっこいい、この子も家政ふなの?」

「ここ、ここ、座ってお菓子食べなさいよ」

「いまお茶いれるわー」

 見たことある顔、知らない顔が一斉に声を上げた。
 空けられた隙間に正座して所長の顔を見たら、すぐにお茶が出てきた。さすが家政ふばかり集まっているだけある。

「私のことは所長じゃなくて、なんて呼ぶんだっけ?」

「あ、申し訳ありません。未差みささん……」

「そうそう、ちゃんと覚えてるじゃない」

 他の家政ふ達は、キャッキャウフフと楽しそうに実玖の事を見ている。

「で、お仕事はどうなったの?    ご主人様と仲良くやってる?」

 未差は面白そうに頬杖をついている。

(仲良くって……)

 実玖は実際に仲良くやってる事がなんだか恥ずかしくなってきた。伍塁はいつでも優しくて、実玖のことを気にかけてくれている。

「赤くなってるーかわいいー!」

「ご主人様もかっこいいのかしら?」

「見に行ってみようか」

 外野はおせんべいをかじりながら、実玖で暇を潰そうとしているようだ。仕事はないのか。

「その事ですが正式採用になりました。伍塁様にスーパーでチラシを渡したのも未差さんですか?」

「おめでとう。チラシは私と姉がお買い物中のあんたのご主人様に渡したの」

 ここに来る前に、修行をする目的とその先はどうしたいのかという進路を何度も詳しく聞かれたのはそういうことか。
 そんなに上手く話が進むものかと思ったが、この人たちは世話人をやるくらいだから何か特別な能力があるのかもしれない。

「ありがとうございます。おかげさまでこれからもお仕えできることになりました」

「よかったわねー。そういえば、卒業証明ディプロマが届いていたわ。下にあるから帰りに受け取っていって」

 下というのは、未差の姉がやっている真宝野まほうの雑貨店のことだ。店も見ていきたいからちょうどいいと思った。
 お茶をいただき「では」と立ち上がり頭をさげた。

「お菓子もっていきなさいよー」

「今度、ご主人様見せてね」

「お肌ツルツルー」

 それぞれ好きなことを言いながらポケットにお菓子を突っ込んできた。長くいると面倒なことになりそうだと、さっさと階段を降りていく。

 一度外に出て真宝野雑貨店のガラスの引き戸を開けて中に入った。

「こんにちは」

 返事がないので、入口から並んでいる商品を見て進むと赤いほうきがあった。気になる。
 棚にはティーポット、スプーン、木製の人形、薬のような瓶、装飾のついた箱、本、ドライフラワー、水晶玉、ステンドグラスのランプ、綺麗な色の石、赤いポーチ、金属の丸い缶……。

 たわしやカゴみたいな日用品も置物や装飾雑貨もごちゃ混ぜに、おもちゃ箱のように詰め込まれている。

 それでも、生活感よりは少しだけおしゃれな感じがするのは不思議だ。

「いらっしゃい」

 割烹着姿の家政ふ未差とは違って、憂差は中東風のプリント生地のワンピースを着ている。同じ顔なのに全く違う。でもそれが不思議なお店の雰囲気にピッタリだと実玖は思った。

「こんにちは。ご無沙汰しています」

 実玖は深々と頭を頭を下げた。

「あれね、そこに出しておいた」

 薄い緑色で艶がありゴールドの縁取りや模様が装飾過剰だが、一口しか入らないようなティーカップをトレイで運んできた。背の高いカフェテーブルに置いて、ラメの付いた爪で指を指す。

「ありがとうございます」

 実玖は緊張する指を落ち着けるために、体の横で手を開いたり閉じたりを繰り返した。こうすると落ち着く気がする。
 ざらざらした紙製の細長い箱の蓋をあけ、中のものを取り出して目の前にかざした。

「ペンダント型にしたのね」

「はい、ブレスレットは仕事に差支えると思ったので」

 早速付けようと金具を外し、首の後ろに手を回したが上手くできず、後ろにまわった憂差が踏み台に乗ってはめてくれた。

「私たちはピアスにしてもらったわ」

 光る爪先で摘んだ耳たぶには、ペンダントと同じ形のピアスがあった。
 未差と憂差は元兎の姉妹で、実玖のようにニンゲンになった者の代表兼世話人として真宝野雑貨店と真宝野家政ふ紹介所を開いている。

「ピアスも素敵ですね。でも穴をあけるのが怖くて」

「いいじゃない。シルバーネックレスもかっこいいわよ」

 実玖は店に並んでいた鏡を覗き、胸のペンダントを握った後、シャツの襟から中に押し込み上から手を当てた。

「帰ります、仕事があるので」

 カップの小さな取手を指先でつまんで、不思議な香りのお茶を一口で飲み干し、真宝野雑貨店を後にした。

[試用期間は2週間 了]
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