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第二章 試用期間は2週間
追いかけろ!
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「実玖っ」
伍塁に男が身体をぶつけて走り去り、カートは実玖を乗せたまま通路を走っている。
「誰かっ! ドロボー!! 捕まえてー」
どこかから女性の声が聞こえた。
実玖はカートの中に頭を突っ込んでじたばたしていたが体制を建て直し、カートから降りて後ろから来る伍塁に叫んだ。
「泥棒はどこですかっ?」
「あっちに走っていった! 青い帽子の男だ!」
実玖は指さされた方へ素早く方向転換をして、人を上手く避けながら音もなく走り、あっという間に男に追いつき腕を掴んだ。
「泥棒はいけません」
実玖は掴んだ手をしっかり離さず、男を睨みつけた。180センチほどの実玖に捕まえられ腕を持ち上げられた小柄の中年男は体を捻って抵抗したが敵わなかったようだ。
追いついてきた伍塁は警備員を呼んでから追いつき、実玖の肩に手をかける。
「走るの早いんだね、びっくりした。大丈夫?」
息を上げながら伍塁は実玖に怪我がないかと心配をしたが、無事なようで安心して両膝に手を着き、大きく呼吸を繰り返した。
「大丈夫です、この人は捕まって諦めたようです。伍塁様はお怪我はありませんか」
「僕は大丈夫。でも久しぶりに全力で走っちゃったよ、全然走れなかったけど。実玖はすごいんだな」
「伍塁様に買っていただいた靴が柔らかくて走りやすかったからです」
バッグをひったくられたおばあさんにお礼をしたいと言われたが丁重に断り、放置したカートを探しに戻った。
「あ、あそこにありますよ」
実玖は壁にぶつかって止まっていたカートを押し、宝物を探し当てたような顔を伍塁に見せる。
さっきの泥棒を追いかける真剣な顔は、少し険しくて迫力があったのに全然違う可愛い顔だ。伍塁もつられて頬を緩ませ、実玖と肩を組んだ。
「今日は実玖が活躍したから、美味しいもの食べに行こうか」
「美味しいもの……ですか」
「何がいい? 実玖は何が好きなの」
実玖は肩を組まれてることも褒められてることも嬉しくて美味しいものを考えられなくて
「肉とか魚が好きです」
と、中途半端な答えを返してしまった。もちろんニンゲンの美味しいものにはそれほど詳しくない。
「えー焼肉? ステーキ? 寿司?」
「わたくしが選んでいいんですか?」
実玖は焼肉もステーキも寿司もまだここにきてから食べてはいない。本物はまだどれも食べていないのだが。
「もちろん! 僕も最近食べてないものばかりだから何でもいいよ」
どれも食べてみたい。もちろんニンゲンになる前から肉と魚は好きだ。
「寿司を……食べてみたいです」
「寿司ね、わかった!」
伍塁はどこの寿司屋にするか頭の中で候補をあげていたが全て違った。
「寿司って回ってるんですよね」
「え? 回ってるところもあるけど、普通の寿司屋でもいいよ?」
「どう違うのですか」
実玖はご飯の上に生の魚が乗っているのが寿司というのはわかっているが「回っている」の意味がわからなくて見てみたいと思っていた。
「んー値段とか魚の産地かなぁ。実は僕も回ってるところは行ったことないんだ。せっかくだから行ってみるか」
「ありがとうございます、楽しみです」
「じゃあ買い物を済ませよう」
目に付いたクッションの肌触りを試したり、造花の観葉植物のリアルさに驚いたりしながらレジに向かって並んで進んだ。
伍塁に男が身体をぶつけて走り去り、カートは実玖を乗せたまま通路を走っている。
「誰かっ! ドロボー!! 捕まえてー」
どこかから女性の声が聞こえた。
実玖はカートの中に頭を突っ込んでじたばたしていたが体制を建て直し、カートから降りて後ろから来る伍塁に叫んだ。
「泥棒はどこですかっ?」
「あっちに走っていった! 青い帽子の男だ!」
実玖は指さされた方へ素早く方向転換をして、人を上手く避けながら音もなく走り、あっという間に男に追いつき腕を掴んだ。
「泥棒はいけません」
実玖は掴んだ手をしっかり離さず、男を睨みつけた。180センチほどの実玖に捕まえられ腕を持ち上げられた小柄の中年男は体を捻って抵抗したが敵わなかったようだ。
追いついてきた伍塁は警備員を呼んでから追いつき、実玖の肩に手をかける。
「走るの早いんだね、びっくりした。大丈夫?」
息を上げながら伍塁は実玖に怪我がないかと心配をしたが、無事なようで安心して両膝に手を着き、大きく呼吸を繰り返した。
「大丈夫です、この人は捕まって諦めたようです。伍塁様はお怪我はありませんか」
「僕は大丈夫。でも久しぶりに全力で走っちゃったよ、全然走れなかったけど。実玖はすごいんだな」
「伍塁様に買っていただいた靴が柔らかくて走りやすかったからです」
バッグをひったくられたおばあさんにお礼をしたいと言われたが丁重に断り、放置したカートを探しに戻った。
「あ、あそこにありますよ」
実玖は壁にぶつかって止まっていたカートを押し、宝物を探し当てたような顔を伍塁に見せる。
さっきの泥棒を追いかける真剣な顔は、少し険しくて迫力があったのに全然違う可愛い顔だ。伍塁もつられて頬を緩ませ、実玖と肩を組んだ。
「今日は実玖が活躍したから、美味しいもの食べに行こうか」
「美味しいもの……ですか」
「何がいい? 実玖は何が好きなの」
実玖は肩を組まれてることも褒められてることも嬉しくて美味しいものを考えられなくて
「肉とか魚が好きです」
と、中途半端な答えを返してしまった。もちろんニンゲンの美味しいものにはそれほど詳しくない。
「えー焼肉? ステーキ? 寿司?」
「わたくしが選んでいいんですか?」
実玖は焼肉もステーキも寿司もまだここにきてから食べてはいない。本物はまだどれも食べていないのだが。
「もちろん! 僕も最近食べてないものばかりだから何でもいいよ」
どれも食べてみたい。もちろんニンゲンになる前から肉と魚は好きだ。
「寿司を……食べてみたいです」
「寿司ね、わかった!」
伍塁はどこの寿司屋にするか頭の中で候補をあげていたが全て違った。
「寿司って回ってるんですよね」
「え? 回ってるところもあるけど、普通の寿司屋でもいいよ?」
「どう違うのですか」
実玖はご飯の上に生の魚が乗っているのが寿司というのはわかっているが「回っている」の意味がわからなくて見てみたいと思っていた。
「んー値段とか魚の産地かなぁ。実は僕も回ってるところは行ったことないんだ。せっかくだから行ってみるか」
「ありがとうございます、楽しみです」
「じゃあ買い物を済ませよう」
目に付いたクッションの肌触りを試したり、造花の観葉植物のリアルさに驚いたりしながらレジに向かって並んで進んだ。
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