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第二章 試用期間は2週間
買い物に行こう
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「僕も買いたいものがあるから、買い物に行こう」
バックひとつでこの家にやってきた実玖と、その身の回りを心配した伍塁は買い物に出かけることになった。そもそも持ち物がないので実玖には何が足りないのかわからない。
「洗面道具とタオル、仕事着と下着はあります」
「うん、そうだね。でも本当に最低限でしょう? タオルとかはいいよ、うちのを使えば。とりあえず何でもありそうなところに行って、見ながら揃えよう」
「わかりました。お願いします」
伍塁はポケットから幾つも鍵の付いたキーホルダーを出しつつ玄関に向かった。実玖は慌てて後に続くと靴べらを差し出された。
「靴も要るな」
革靴を丁寧に履く様子を見て伍塁は呟いた。その足には柔らかそうに履き慣れたスリッポンがある。
「靴は何足も必要なのでしょうか?」
「いつも靴は一足なの?」
「はいこの靴一足です」
実玖は正直に答えたが、自分が変なことを言っているらしいと伍塁の表情を見てわかった。
「あの……伍塁様の靴は履きやすそうですね」
靴紐を結び終え、紐のない布製の靴を観察する。そういえばお客様を迎える時は、隅にあるサンダルを履いていった。家政ふ紹介所では、みんなサンダルを履いていたことを思い出す。
「靴は服に合わせて変えるものなんだよ」
伍塁は実玖がどうやって育ってきたのか全くわからない。世の中で普通と思われていることを知らないまま生きているのだろうか。
ここに来た当日、実玖の持ち物が少なすぎて気になった伍塁はバッグの中身を見せてもらった。出てきたのは下着のボクサーパンツが二枚、靴下二足、下着のシャツとスーツのシャツが一枚ずつ、スーツのパンツとネクタイ、エプロン、洗面具。
「あとは何もないの? 本当に?」
「私の持ち物全部です」
家政ふ紹介所からの紹介状もあるので何かを疑うわけではないが、不自然だと思った。
「寝る時は?」
「下着です」
「そっか」
そういう人もいる。でも伍塁はそれでは廊下を歩く時に困ると思っているくらいには厳しく育てられていた。
「じゃあ、とりあえず僕のパジャマを貸すね」
ということになった。
「緊急連絡先は?」
「家政ふ紹介所です」
「立ち入ったこと聞くけど、家族は?」
「血の繋がった家族は今はいません」
実玖は、なんでそんなことを聞くのかという顔をしている。
「そうなんだ、ごめん。本当に立ち入りすぎた」
「そんなことはありません。わたくしは伍塁様が大切ですし家政ふ紹介所の方たちも大切なので、皆が家族のようなものです」
身寄りがないから住みこみの仕事を選んでいるのか。それにしても、実玖は会って間もない伍塁を大切だという。
なんなんだろう、このいきなりの信頼度は。今までどうやって生きてきた、どういう人なんだろう。
不幸な身の上のようなものは感じさせない、おっとりしてまるで小学生のまま大人になったように感じた。
「車の免許は? 運転はできるの?」
「申し訳ありません、運転は出来ません。わたくしは今までに数える程しか車に乗った記憶がありません」
その記憶もキャリーケースに入って病院に行ったくらいの怪しい記憶だ。あとはここに来る時にバスに乗ってきた。
「ふぅん」
車のドアロックに手を触れ解錠し運転席側に乗った伍塁は、車の外に立って中を覗く実玖に気づき助手席の内側からドアをあけた。
「開け方もわかんないのかー。後で教えるから乗って」
実玖は頭を下げそっとシートに腰掛け「すみません」と呟きドアを閉めるように促され取手を引いた。
「シートベルト……」
実玖の肩を通り過ぎた手を見ていたら伍塁の顔が目の前に来て実玖は「あっ」と声を出した。肩の後ろからベルトを伸ばされカチっと金具をはめられた。
「車はこうやって乗るんだよ、今度は自分でやって」
「はい、ありがとうございます」
実玖はたくさん勉強してきた自負があった。でも、まだ全然足りていない。ニンゲンの世界がわからなすぎる。
飛び級してしまったことを悔やんだが、少しでも早く伍塁に会いたかったことを思い、今からここで頑張るしかないと思い直した。
伍塁はスマホを取り出しガレージのシャッターを開ける。実玖にはそれも不思議で魔法のようだった。
「その電話……で開けるのですか」
「そう、アプリを入れてるんだ。便利だよね」
実玖にはアプリがわからなかったが、とりあえずそのまま聞き流した。
「電話の形も変わっていますね。押すところがありません」
「実玖はスマホ持ってないの?」
「スマホ……持ってないです」
スマホ、なんか聞いたことあるけどなんだったか思い出す間はない。
「じゃあ、仕事用にスマホも用意しよう」
「わたくしにも必要なのでしょうか」
実玖はいつでも伍塁の側にいるつもりなので必要な理由がわからない。携帯電話というものは知っているし、使い方も学んできたが、なんの為に使うのかは理解出来てなかった。
「僕と連絡とれるようにだよ。もちろん、他で使ってもらっても構わない。友達とか連絡したい時あるでしょ」
友達と連絡……今のところ友達らしい友達はまだいないが、会いに行けばいいんじゃないかと実玖は思っている。でも、伍塁が言うのできっとそういうものなんだろう、ご主人様の言うことは正しい。
「伍塁様が必要とするものでしたら、そのように使わせていただきます」
伍塁はとても丁寧な言葉遣いに息を吐いた。
「だいぶ聞き慣れてきたけど、やっぱりカタイなー」
「わたくしになにか固いところがありますか?」
「うん、いろいろカタイ」
伍塁は笑ってエンジンをかけ道路で止まってからシャッターを閉めた。実玖はシャッターが閉まる様子をガラスに顔を寄せ、目を大きく開いてじっと見つめている。
「面白い?」
「はい、すごいですね。わたくしにもスマホがあると出来ますか?」
伍塁は一瞬、間を置いて笑顔になった。
「今度は実玖にやってもらうよ」
バックひとつでこの家にやってきた実玖と、その身の回りを心配した伍塁は買い物に出かけることになった。そもそも持ち物がないので実玖には何が足りないのかわからない。
「洗面道具とタオル、仕事着と下着はあります」
「うん、そうだね。でも本当に最低限でしょう? タオルとかはいいよ、うちのを使えば。とりあえず何でもありそうなところに行って、見ながら揃えよう」
「わかりました。お願いします」
伍塁はポケットから幾つも鍵の付いたキーホルダーを出しつつ玄関に向かった。実玖は慌てて後に続くと靴べらを差し出された。
「靴も要るな」
革靴を丁寧に履く様子を見て伍塁は呟いた。その足には柔らかそうに履き慣れたスリッポンがある。
「靴は何足も必要なのでしょうか?」
「いつも靴は一足なの?」
「はいこの靴一足です」
実玖は正直に答えたが、自分が変なことを言っているらしいと伍塁の表情を見てわかった。
「あの……伍塁様の靴は履きやすそうですね」
靴紐を結び終え、紐のない布製の靴を観察する。そういえばお客様を迎える時は、隅にあるサンダルを履いていった。家政ふ紹介所では、みんなサンダルを履いていたことを思い出す。
「靴は服に合わせて変えるものなんだよ」
伍塁は実玖がどうやって育ってきたのか全くわからない。世の中で普通と思われていることを知らないまま生きているのだろうか。
ここに来た当日、実玖の持ち物が少なすぎて気になった伍塁はバッグの中身を見せてもらった。出てきたのは下着のボクサーパンツが二枚、靴下二足、下着のシャツとスーツのシャツが一枚ずつ、スーツのパンツとネクタイ、エプロン、洗面具。
「あとは何もないの? 本当に?」
「私の持ち物全部です」
家政ふ紹介所からの紹介状もあるので何かを疑うわけではないが、不自然だと思った。
「寝る時は?」
「下着です」
「そっか」
そういう人もいる。でも伍塁はそれでは廊下を歩く時に困ると思っているくらいには厳しく育てられていた。
「じゃあ、とりあえず僕のパジャマを貸すね」
ということになった。
「緊急連絡先は?」
「家政ふ紹介所です」
「立ち入ったこと聞くけど、家族は?」
「血の繋がった家族は今はいません」
実玖は、なんでそんなことを聞くのかという顔をしている。
「そうなんだ、ごめん。本当に立ち入りすぎた」
「そんなことはありません。わたくしは伍塁様が大切ですし家政ふ紹介所の方たちも大切なので、皆が家族のようなものです」
身寄りがないから住みこみの仕事を選んでいるのか。それにしても、実玖は会って間もない伍塁を大切だという。
なんなんだろう、このいきなりの信頼度は。今までどうやって生きてきた、どういう人なんだろう。
不幸な身の上のようなものは感じさせない、おっとりしてまるで小学生のまま大人になったように感じた。
「車の免許は? 運転はできるの?」
「申し訳ありません、運転は出来ません。わたくしは今までに数える程しか車に乗った記憶がありません」
その記憶もキャリーケースに入って病院に行ったくらいの怪しい記憶だ。あとはここに来る時にバスに乗ってきた。
「ふぅん」
車のドアロックに手を触れ解錠し運転席側に乗った伍塁は、車の外に立って中を覗く実玖に気づき助手席の内側からドアをあけた。
「開け方もわかんないのかー。後で教えるから乗って」
実玖は頭を下げそっとシートに腰掛け「すみません」と呟きドアを閉めるように促され取手を引いた。
「シートベルト……」
実玖の肩を通り過ぎた手を見ていたら伍塁の顔が目の前に来て実玖は「あっ」と声を出した。肩の後ろからベルトを伸ばされカチっと金具をはめられた。
「車はこうやって乗るんだよ、今度は自分でやって」
「はい、ありがとうございます」
実玖はたくさん勉強してきた自負があった。でも、まだ全然足りていない。ニンゲンの世界がわからなすぎる。
飛び級してしまったことを悔やんだが、少しでも早く伍塁に会いたかったことを思い、今からここで頑張るしかないと思い直した。
伍塁はスマホを取り出しガレージのシャッターを開ける。実玖にはそれも不思議で魔法のようだった。
「その電話……で開けるのですか」
「そう、アプリを入れてるんだ。便利だよね」
実玖にはアプリがわからなかったが、とりあえずそのまま聞き流した。
「電話の形も変わっていますね。押すところがありません」
「実玖はスマホ持ってないの?」
「スマホ……持ってないです」
スマホ、なんか聞いたことあるけどなんだったか思い出す間はない。
「じゃあ、仕事用にスマホも用意しよう」
「わたくしにも必要なのでしょうか」
実玖はいつでも伍塁の側にいるつもりなので必要な理由がわからない。携帯電話というものは知っているし、使い方も学んできたが、なんの為に使うのかは理解出来てなかった。
「僕と連絡とれるようにだよ。もちろん、他で使ってもらっても構わない。友達とか連絡したい時あるでしょ」
友達と連絡……今のところ友達らしい友達はまだいないが、会いに行けばいいんじゃないかと実玖は思っている。でも、伍塁が言うのできっとそういうものなんだろう、ご主人様の言うことは正しい。
「伍塁様が必要とするものでしたら、そのように使わせていただきます」
伍塁はとても丁寧な言葉遣いに息を吐いた。
「だいぶ聞き慣れてきたけど、やっぱりカタイなー」
「わたくしになにか固いところがありますか?」
「うん、いろいろカタイ」
伍塁は笑ってエンジンをかけ道路で止まってからシャッターを閉めた。実玖はシャッターが閉まる様子をガラスに顔を寄せ、目を大きく開いてじっと見つめている。
「面白い?」
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