老舗骨董店の店番はあやかし猫でした。

むに

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第一章 六條家にやってきた

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 沸騰したお湯に鰹節を入れてひと煮立ちさせる。急ぐ時、研いだお米は水につけておかなくても普通に炊ける。何度も練習してみたから大丈夫だ。土鍋に米を入れ水量を細長い指先で計り、ガスの火にかける。
 まな板はここ、包丁はここ。それはおばあちゃんが出してたのをテーブルに乗って見ていたから知ってる。得意な猫の手で押さえ、玉ねぎとちくわと水に戻したワカメを刻む。

 伍塁は食器を揃えテーブルに藍色のランチョンマットを敷いた。

「寒い季節以外はこのテーブルで食べてるんだ。買い物に行ったら実玖の箸も買おう」

 客用の箸と茶碗を鼻歌を唄いながら並べている。実玖も水屋を開けて食器を見繕いテーブルに並べた。
 ご飯の火加減を見ながらフライパンに少し出汁を取り分け、薄切りにした玉ねぎを入れ中火にかける。酒、みりん、醤油で味付けをして蓋をかぶせ少し煮て、玉ねぎが透明になったらツナ缶の油を切って加えて温まったらあとは卵で閉じるだけ。
 いい香りをさせながら湯気を出す土鍋も火加減をする。

「手際がいいね、僕は何もすることがない」

 椅子に反対向きに跨り背もたれに腕を重ねて伍塁が見ていた。重ねた腕に顎を乗せ実玖の仕事ぶりをほめてくれる。実玖は笑顔を返しながら鍋の出汁に味噌をときワカメとお麩を入れる。ご飯はそろそろ掠れた音を出しているから火を止めた。 
 マヨネーズをフライパンに絞りちくわを炒め醤油をほんのちょっと回しかけ一品にした。

「お茶はペットボトルのものだけですか」

 家政婦紹介所のミサさんからお茶の入れ方と大切さをしっかり教わっている。ここで生かさなくてはと実玖は急須を探した。

「どこかに貰ったのがあるかもしれない。なんとなく面倒で淹れないけど」

 戸棚を探している間にヤカンでお湯を沸かし始める。さっきの玉ねぎとツナのフライパンにとき卵をいれ半熟寸前で火を止め、味噌汁をひと煮立ちさせた時にお茶が見つかった。

「古いかも、美味しくないかな」

「大丈夫です、炒めればおいしくなるので」

「え?    炒める?」

 実玖は伍塁を椅子に座らせ、出来た食事を並べる。

「青物が無かったので彩りが良くないですが、どうぞ。お口に合うでしょうか」

「すごいなー、ツナの卵とじ丼か。いただきます」

 手を合わせ味噌汁ひと口、丼に盛られたツナ卵とじをひと口入れあっという間に飲み込んだ。

「うまい。実玖は料理上手なんだな……あ、お茶のいい香りがする」

 小さなフライパンでお茶の葉を炒ってほうじ茶にすれば香りがたち、古いものも美味しく飲める。お湯を急須に注ぎ食卓に移動した。
 
 
















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