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第一章 六條家にやってきた
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しおりを挟む実玖は外まで見送り部屋に戻った。
「お見送りしてきました」
「ありがとう、僕はこんな仕事をしてるんだ。主に骨董とか古道具を扱ってる。探し物を頼まれることが多くて今日はたまたま家にあったけど何日も探すこともある」
「少しずつ仕事の手伝いも覚えていきます」
いつか道具の声を聞いてみたいし伍塁の手伝いもしたい実玖は希望を込めて一歩進み出た。
「そうだね、手伝って貰えたら助かるかも」
お許しをいただけた、一緒にいられる理由が増えた! 心の中で花火があがったような興奮を抑え平静をよそおった。
「先程のハエ取り機さんは、その後何か言ってましたか?」
伍塁は手のひらを見つめたり親指でほかの指先を擦ったりしながら小さく息を吐いた。
「慣れ親しんだ仲間たちと離れるのは寂しいって言うから、また新しい仲間に会えるし平気だと言っておいた」
「納得されたのでしょうか」
「それはわからないけど、田中さんがいい人そうだから、大切にしてくれるよう楽しませるって」
遠くを見るように暗くなった窓の方を見て、新しい家に行った道具の言葉を伝えてくれた。
「お腹すいたね、もう7時だ。ご飯作ろう」
探し物の時間はあっという間に過ぎる。実玖が午後から面接に来たのにもうそんな時間になっていた。
「わたくしが用意します」
「初日だし一緒に作ろう、冷蔵庫になにがあるかな」
昔ながらの台所にはさっきぶつかった大きなテーブルと立派な水屋がある。それからステンレスのシステムキッチン、冷蔵庫。
「伍塁様はいつお料理を学ばれたのですか」
少し古い型の大きな冷蔵庫を覗く姿を後ろから見つつ、実玖はエプロンを身につける。
「学んだっていうか、祖母といつも一緒だったから見て覚えた感じかな。お、エプロンいいね」
「家政婦紹介所の所長さんがくれたんです」
家政婦なら白い割烹着だと思っているのは勉強のために読んだ本や昔ここにいたお手伝いさんや所長さんに見せてもらったドラマのせいだ。ある家政婦さんはいつも事件を目撃する人なんだけど腰に白いエプロンが定番で、それは自分には似合わないと残念に思っていた。それから執事が活躍するマンガを読んで今度は執事にも憧れたが家政婦とは少し違うらしい。そんな実玖の心を知ってか知らずか、所長さんはこのエプロンをくれた。
「あんたはこれが似合うからプレゼントするわ。頑張って仕事しといで!」
所長の未差さんの顔を思い浮かべここに来れたことを感謝しながらシャツの袖を丁寧に折り上げる。
「黒いエプロンかー。カッコイイな、お手伝いさんじゃなくてレストランの給仕の人みたい。なんでも作れそうだ」
伍塁が褒めてくれる言葉に恥ずかしくて答えられず実玖は姿勢を正してぎこちなく笑顔を作った。
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