上 下
11 / 41
第一章 六條家にやってきた

11

しおりを挟む


 実玖みるくは外まで見送り部屋に戻った。

「お見送りしてきました」

「ありがとう、僕はこんな仕事をしてるんだ。主に骨董とか古道具を扱ってる。探し物を頼まれることが多くて今日はたまたま家にあったけど何日も探すこともある」

「少しずつ仕事の手伝いも覚えていきます」

 いつか道具の声を聞いてみたいし伍塁の手伝いもしたい実玖は希望を込めて一歩進み出た。

「そうだね、手伝って貰えたら助かるかも」

 お許しをいただけた、一緒にいられる理由が増えた!    心の中で花火があがったような興奮を抑え平静をよそおった。

「先程のハエ取り機さんは、その後何か言ってましたか?」

 伍塁は手のひらを見つめたり親指でほかの指先を擦ったりしながら小さく息を吐いた。

「慣れ親しんだ仲間たちと離れるのは寂しいって言うから、また新しい仲間に会えるし平気だと言っておいた」

「納得されたのでしょうか」

「それはわからないけど、田中さんがいい人そうだから、大切にしてくれるよう楽しませるって」

 遠くを見るように暗くなった窓の方を見て、新しい家に行った道具の言葉を伝えてくれた。



「お腹すいたね、もう7時だ。ご飯作ろう」

 探し物の時間はあっという間に過ぎる。実玖が午後から面接に来たのにもうそんな時間になっていた。

「わたくしが用意します」

「初日だし一緒に作ろう、冷蔵庫になにがあるかな」

 昔ながらの台所にはさっきぶつかった大きなテーブルと立派な水屋がある。それからステンレスのシステムキッチン、冷蔵庫。

「伍塁様はいつお料理を学ばれたのですか」

 少し古い型の大きな冷蔵庫を覗く姿を後ろから見つつ、実玖はエプロンを身につける。

「学んだっていうか、祖母といつも一緒だったから見て覚えた感じかな。お、エプロンいいね」

「家政婦紹介所の所長さんがくれたんです」

 家政婦なら白い割烹着だと思っているのは勉強のために読んだ本や昔ここにいたお手伝いさんや所長さんに見せてもらったドラマのせいだ。ある家政婦さんはいつも事件を目撃する人なんだけど腰に白いエプロンが定番で、それは自分には似合わないと残念に思っていた。それから執事が活躍するマンガを読んで今度は執事にも憧れたが家政婦とは少し違うらしい。そんな実玖の心を知ってか知らずか、所長さんはこのエプロンをくれた。

「あんたはこれが似合うからプレゼントするわ。頑張って仕事しといで!」

 所長の未差みささんの顔を思い浮かべここに来れたことを感謝しながらシャツの袖を丁寧に折り上げる。
 
「黒いエプロンかー。カッコイイな、お手伝いさんじゃなくてレストランの給仕の人みたい。なんでも作れそうだ」
 
 伍塁が褒めてくれる言葉に恥ずかしくて答えられず実玖は姿勢を正してぎこちなく笑顔を作った。

 
















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

寝不足な妖精たちに安眠を…

3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
ライト文芸
 仕事からの帰り道、いつも通っている商店街の中に新しくできたお店を見つけた主人公。怪しげな雰囲気が漂うその店で目を惹かれて買った『妖精の枕』というレシピ本。  翌日が休日だったのもあって朝から早速レシピ通りに作っていると……。 「待ってました~!」  ……誰?

女装と復讐は街の華

木乃伊(元 ISAM-t)
キャラ文芸
・ただ今《女装と復讐は街の華》の続編作品《G.F. -ゴールドフィッシュ-》を執筆中です。 - 作者:木乃伊 - この作品は、2011年11月から2013年2月まで執筆し、とある別の執筆サイトにて公開&完結していた《女装と復讐》の令和版リメイク作品《女装と復讐は街の華》です。 - あらすじ - お洒落な女の子たちに笑われ、馬鹿にされる以外は普通の男子大学生だった《岩塚信吾》。 そして彼が出会った《篠崎杏菜》や《岡本詩織》や他の仲間とともに自身を笑った女の子たちに、 その抜群な女装ルックスを武器に復讐を誓い、心身ともに成長を遂げていくストーリー。 ※本作品中に誤字脱字などありましたら、作者(木乃伊)にそっと教えて頂けると、作者が心から救われ喜びます。 ストーリーは始まりから完結まで、ほぼ前作の筋書きをそのまま再現していますが、今作中では一部、出来事の語りを詳細化し書き加えたり、見直し修正や推敲したり、現代の発展技術に沿った場面再構成などを加えたりしています。 ※※近年(現実)の日本や世界の経済状況や流行病、自然災害、事件事故などについては、ストーリーとの関連性を絶って表現を省いています。 舞台 (美波県)藤浦市新井区早瀬ヶ池=通称瀬ヶ池。高層ビルが乱立する巨大繁華街で、ファッションや流行の発信地と言われている街。お洒落で可愛い女の子たちが集まることで有名(その中でも女の子たちに人気なのは"ハイカラ通り") 。 ※藤浦市は関東圏周辺またはその付近にある(?)48番目の、現実には存在しない空想上の県(美波県)のなかの大都市。

東京綺譚伝―光と桜と―

月夜野 すみれ
キャラ文芸
如月六花は、中学からの帰り道、鬼に襲われそうになった。 その時、見知らぬ少年に助けられる。 次の日、その少年が六花のクラスに転校してきた。 彼の名前は卜部季武。 季武と親しくなった六花は季武が頼光四天王の一人、卜部季武本人だと訊かされる。 現代の東京で頼光四天王が鬼や土蜘蛛などと戦う話です。 いわゆる現パロなので嫌いな方はご注意ください。 昔の事に関する長い会話とか古典文学の要約、歴史の解説の部分などにはストーリー把握に必要なことは書いてないので興味なければ飛ばしても問題ありません。 本文中に入れなかった古典作品や歴史の説明は近況ボードに書いておきますので興味ある方はそちらをどうぞ。 「鬼が人を喰った」とか「喰い残した腕が落ちていた」とかくらいで詳しい描写はしてませんのでグロではないと思います。 四天王同士の雑談は基本的に誰が喋っているか分からなくても問題ないのでいちいち誰が言ったか書いてません。 大体の見分け方は 季武「俺」語尾「~だろ」「~だぞ」 貞光「オレ」言葉遣いは「ない」が「ねぇ」など少し荒っぽい 金時「おれ」語尾「~じゃね?」(相手が人間の時は)「~だよね」 綱「俺」語尾「~じゃん」「~だぞ」 頼光「私」語尾「~だろう」 語尾「~だな」は全員共通。 ちなみに舞台の年は2020年です(最終話の数ヶ月後の話を書いた外伝が2020年12月23日なのとバスをぶつけたデパートが建て替えのために去年から取り壊し中なので)。 カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています(完結済みです)。 カクヨム:https://kakuyomu.jp/users/tsukiyonosumire 小説家になろう:https://mypage.syosetu.com/2023929/

君のハートに☆五寸釘!

鯨井イルカ
キャラ文芸
 主人公カズノリと愛情の方向性がエキセントリックな彼女が巻き起こす、一方通行系怪奇ラブ(?)コメディー 下記2作の続編として執筆しています。 1作目「君に★首ったけ!」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/771412269/602178787 2作目「ローリン・マイハニー!」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/771412269/446191134

あやかしも未来も視えませんが。

猫宮乾
キャラ文芸
【本編完結済み】【第五章(番外)更新中】時は大正五十年。高圓寺家の妾の子である時生は、本妻とその息子に苛め抜かれて育つ。元々高圓寺家は見鬼や先見の力を持つ者が多いのだが、時生はそれも持たない。そしてついに家から追い出され、野垂れ死にしかけていたところ、通りかかった帝国軍人の礼瀬偲が助けてくれた。話を聞いた礼瀬は、丁度子守りをしてくれる者を探しているという。時生は、礼瀬の息子・澪の面倒を見ることを条件に礼瀬の家で暮らすこととなる。軍において、あやかし対策部隊の副隊長をしている礼瀬はとても多忙で、特に近年は西洋から入ってくるあやかしの対策が大変だと零している。※架空の大正×あやかし(+ちょっとだけ子育て)のお話です。キャラ文芸大賞で奨励賞を頂戴しました。応援して下さった皆様、本当にありがとうございました!

管理機関プロメテウス広報室の事件簿

石動なつめ
キャラ文芸
吸血鬼と人間が共存する世界――という建前で、実際には吸血鬼が人間を支配する世の中。 これは吸血鬼嫌いの人間の少女と、どうしようもなくこじらせた人間嫌いの吸血鬼が、何とも不安定な平穏を守るために暗躍したりしなかったりするお話。 小説家になろう様、ノベルアップ+様にも掲載しています。

オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい

凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。

処理中です...