老舗骨董店の店番はあやかし猫でした。

むに

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第一章 六條家にやってきた

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「そのお客さまは何でそれが欲しくなったのでしょうか」

 実玖みるくはどんなものを探しているかも気になったが、急にそんなものが欲しくなる理由も不思議だった。

「子どもの頃家にあったんだけどなくなってしまったんだって。それを骨董市で見かけて懐かしく思ったらしい。骨董として珍しいという程でも高額でもないから、その時は手に入れようとまで思わなかったけどテレビで画面の端に映ったとか、紹介されたとかで、どうしても手元に欲しくなったって」

 木箱の蓋を開けて覗く伍塁いつるの横顔をさりげなく見て思わず緩む頬を押さえた。

「きっと楽しいものなんでしょうね」

「羽状の面に砂糖水を塗っておいて引き寄せてとまらせて、舐めているうちに回転して箱の中に落ちて出られなくなるという仕組み。ハエが本当にとれるのかはわからないけど、僕も子どもの頃は動くのを見てて楽しかったのを覚えてるよ」

 実玖の記憶にはないが、きっと一度は目にしているのだろう。早く探したくて棚の端からそれらしい物を探して目を動かしている時、また足に何か引っ掛けてしまった。

「あっ」

 箱が倒れた時に中でコツンと音がした。実玖は慌てて箱を起こし「申し訳ありません」と伍塁を見上げた。

(来て早々失敗ばかりしてそばにいられなくなるかもしれない)

箱の中は無事なのか、伍塁に怒られてここに居られなくなるんじゃないかと身をすくめる。

「気をつけて。箱の中は割れないようにしてあるけど古いものはデリケートだから」

 伍塁は気にしてないのか棚に視線を戻し、箱を出したりしまったりしている。実玖はほっとして伸び上がり一番高いところに目を向けた。

(あの隙間はすっぽり隠れられるところだったな)

 そのすぐ横の棚の一番上の小さめの箱に目を付けた実玖は木の踏み台を足元に寄せた。

「あれじゃないでしょうか」

 両手で埃っぽい箱をそっと下ろし伍塁に渡した。

「ありがとう、これだ……。ちょっと置かせてね」

 伍塁は箱を受け取り窓の脇にある洋風のテーブルに箱を下ろした。

「うん、大丈夫。重たくないでしょ」

 実玖は囁くような声を聞いた。重たい?    誰が?

「開けるよ、ちょっと眩しいかも。ごめんね」

 明らかに何かに話しかけている。実玖は伍塁の独り言を思い出したが、独り言ではなかったんじゃないかと初めて気づいた。

「あの、伍塁様」

「なに?」

 箱を開ける手は止めずに声だけで返事が帰ってくる。実玖は窓際に立って小声を真似した。

「お話されてます?」

 かすれそうな小さな声に伍塁は笑った。
 
 
 
 
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