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第一章 六條家にやってきた

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「とりあえず、2週間試用期間ということでいいかな」

「はい、ご主人様の指示に従います」

 実玖みるくはハッキリ答えだが、伍塁いつるには笑われた。

「ふふっ。だからそんなに固くならないでよ。歳もそんなに変わらないでしょう」

「わたくしは今、24歳です」

「僕は27歳、3つしか違わない」

「ですがご主人様にお仕えすることを目的に学んできましたので簡単に変えることはできません」

 姿勢を正し真剣な顔で訴える姿に伍塁は肩をすくめてから立ち上がった。

「仕方ないな、少しずつ変えてもらうよ。香染くん、よろしくお願いします。とりあえず住んでもらう部屋に案内しよう」

 実玖は立ち上がらず、膝に置いていた手を固く握り直す。

「あの……出来れば実玖と呼んで頂きたいのですが」

 顔を熱くしながら実玖は伍塁を見上げた。伍塁に見下ろされ、少し距離が近づいた気がした。伍塁に抱き上げてもらった瞬間を思い出すが、実際は人間になったら少し伍塁より背が高くなってしまった。

(ミルクと呼んで)

 2人のあいだをどこからか香るキンモクセイが通り過ぎ、それから伍塁はぷっと吹き出した。

「猫みたいな目で訴えるんだね。本当にミルクみたいだよ」

「猫みたいなものです……だめでしょうか」
 
 思いを伝えるための人間の言葉を絞り出す時、予想外に体の変化が起こる。胸の奥を泡立たせたり、弾けそうに大きく動いたり、顔が熱くなったりする。返事を待つ間もそうだ、息が止まってしまうような足の力が抜けるような。

「わかった、変な感じだけと実玖って呼ばせてもらうことにする」

「ありがとうございます!」

 実玖は人間の体になって初めて体験する膨れ上がる歓喜に立ち上がって九十度の礼をした。
 その姿を見て伍塁はまた「大袈裟だ」と笑っていた。
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