老舗骨董店の店番はあやかし猫でした。

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第一章 六條家にやってきた

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北東部にあるジーダペンスという王国が、このウイプルを狙っているという情報がある。

まだ噂の域を出ないという話だけど、用心はした方がいいか。

その国は、特に邪教と絡みがある訳ではないみたいだから、近隣の同盟国も、あまり関与したがらないだろう。

しかし、ジーダペンスか。

訊いた事がない国名という訳ではないけど、数回程度耳にした事があるぐらいで、情報はほぼ皆無だ。

このウイプルからどのくらい距離が離れているだろうか。

遥か遠方の様な気もする。



特に理由など、どうでもいいか。



このウイプルに剣を向ける者達を、許しはしない。

それだけだ。


アリグルド13日
                 ヘールベータ地区の家にて
___________

この間、お母様の手記を見た時、違和感を覚えた所がいくつかある。

あの手記は、誰にでも見られて良かったものではないだろう。

机の上に置かれていたけれど、僕以外のものに見られてしまい、あの内容がもし、ウイプルの国中に知られてしまっていたなら、明らかな不信感を持たれてしまったのではないか。

しまい忘れたという事はないはず。

あのお母様に限っては。

そして、ページが何枚も破かれていたのは、書き間違えて、破り捨てたせいか。

どうだろうか。

そのページを、家に侵入した誰かに盗まれたのか?

否定はできないけど、違う何かを示している気がする。

あの手記が、誰かに見せようとしている様に思えたのは、何故だろうか。

あまり、家を空ける僕も良くはなかったか。

この家に戻る回数を、増やす事にしよう。


アリグルド14日
                 自分の家にて
___________

僕は、とても冷酷な男だと気がついたんだ。

心の温もりなど、持ってはいない。

お母様との思い出の、この家に近づく事も、止めてしまいたいと、思うくらいだ。

何処か遠くで、1人で生きていく運命なんだよ。

何も、もう何もかも失くした気分だ。



本当なら、普通の人であったなら、喜ぶだろう。

そんな事くらい、僕でもわかるさ。

そんな事くらいは。



それすらできないのなら、僕は人を語るべきじゃない。



どうしてなんだ。



教えてほしい。



幼馴染のミスルタ、君が、

君が、生きていたなんて。



それを知った、冷酷な僕は。



死んでいたと、思ったままで良かったのに、って。

そう思ったんだ。



何て、酷い男なんだ。

僕は。

人と、一緒にいる資格はない。



さようなら、ミスルタ。

僕は、自分が恐くなったよ。



アリグルド15日
                 ヘールベータ地区の家にて
___________
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