年上は頼る者で…

トウモロコシ

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年上は頼る者で…

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(頭痛い。)
終礼が終わり、俺以外全員が帰ったり部活に行ったりして教室には俺一人だった。そんなしんと静まり返った教室で俺は一人、机に突っ伏していた。
今日は、というか今日も部活がある。休む連絡などは入れていないから、行かないといけない。でも俺は動けなかった。
頭が痛くて、気分が悪かった。吐きそう、まではいかないが動けば吐くこと決定コースだ。でも、このままこうしていても良くなる気はしない。
部活にも行かないといけない。上下関係の激しい体育会系だ。しかも俺が所属するのは強豪野球部ときた。絶対に後で部活を続けるにあたって苦しくなる。
ぐるぐると俺の中で負の連鎖が出来ていく。
同時に中学校の時に先輩に言われた言葉が頭の中に回る。
『   』

「良ー!いるかー!?」
キャプテンの声が聞こえる。わざわざ、俺なんかのために教室まで探しに来てくれた。いや、もしかしたら、中学校と同じように…立たなきゃ。立って挨拶と謝罪を言わないと。先輩が来ているのにこの態度は失礼極まりない。
焦る気持ちとは裏腹に、体はだるく、動ける気がしない。

「良?」
教室のドアが開けられて、キャプテンが覗く。辛うじて顔だけをドアの方に向けた。そこで目が合った。その瞬間キャプテンの目がやや大きく見開かれた。
「……すみ、ませ、すぐいきます」
気合いだけで上半身を上げて、そう言った。
「良、」
キャプテンは俺の名前を呼びながら近づいてきた。明らかに先輩に失礼な態度をとっていることはわかりきっているので、俺は殴られると思って自然と目を瞑って身構えた。
でも殴られるような衝撃はこずに、代わりに額に手のひらを当てられた。
「熱はないようだな。どうした?」
俺が思っていたような言葉がかけられることはなく、俺を心配するような言葉と声がかけられた。
ある意味ビックリして、俺は閉じていた目を開けた。
で、後悔した。キャプテンの思わぬ行動によって、一時的に忘れていた偏頭痛。いきなり光が入ったことで悪化した気がした。
「っ…!」
「良っ!!?」
俺が痛がったことで、キャプテンが、慌てて俺の名を呼んだ。
が、偏頭痛は音にも敏感になるためそれも頭痛を悪化させる原因になってしまった。
「きゃ、ぷてん、、へんずつう、っす……こえ、おさえて、もらっていいで、、すか…」
再びぎゅっと目を瞑り、光を閉ざす。
「悪い。」
キャプテンが俺の頭をすぅと撫でた。よく後輩にしている行動だ。なんだかこれをされるとすごく安心する。
「偏頭痛か。顔色悪いな。吐きそうか?」
それに俺は黙って首を振る。
「じかん、のもんだい、、だとおもいます、けど…」
「わかった。とりあえず、保健室行くぞ。歩けるか?」 
「はい。」

「よっ、はいよ。」
「ありがとう、、ございます。。」
机の横にかけてあった俺の荷物をサッと持ち、俺に手を差し出すまでの流れがあまりにも自然でついそれに流されそうになる。実際俺はキャプテンに差し出された手をとり立ち上がった。 
「きゃぷ、てん、、にもつ、…」
「大丈夫。気にすんな。それよりお前は自分の体を気にしてやれ。」
せめても、という意味で言ったが、キャプテンが気にするなと言う中であまり言いすぎるのも逆に失礼だと思い、キャプテンの言葉に甘えることにした。

しばらく廊下を歩いているとだんだん辛くなってきた。
先程まで気分が悪い、にとどまっていたものは吐き気というしっかりとしたものに、変わっていたし、運動場から聞こえてくる掛け声や、別校舎から聞こえてくる吹奏楽の音は頭痛を悪化させる原因となり、歩くという行動をする上で、絶対に使わないといけない、目。光も俺の頭痛を悪化させた。
俺に気を使ってゆっくり歩いてくれているキャプテンには申し訳ないが、一旦止まりたい。でも、そんなことを訴えていいのだろうか…
頭ではそう考えるものの、体は正直だった。
「んっ」
頭痛と吐き気に耐えきれなくて、しゃがみこんでしまった。
「良っ。…あそこの、水道まで頑張れるか?」
キャプテンが指しのはものの数メートル先にある水道だった。普段なら秒で行ける。あそこまでならと自分を気合いで奮い立たせて立ち上がった。横からサッとキャプテンが支えてくれて、本当に助かる。

「はい、良、吐いていいぞ。」
「……ぇ」
「ほら。」
キャプテンの前でこんな汚い姿晒せない。それもあるが、こんな姿を見せたら退部とかにさせられないだろうか。そんなことが頭によぎる。
「我慢してても仕方ないだろ。吐きそうなんだったら、ちゃんと吐く。そっちの方が楽だから、な?」
キャプテンはそう言って俺の背中をさすってくれた。正直、それだけで吐き気は増す。
「ぅえ…けほっ、、ゔえ、おぇ、、、」
「大丈夫、大丈夫。」
「ごほっ、、、うぇ、ぐっ、、ん、、」

俺が吐いている間、キャプテンはずっと俺の背中をさすり続けてくれた。

吐き気がなくなってもまだ頭痛は継続で、俺は吐いたことで体力もなくなって、その場で再びしゃがみこんでしまった。
「良。おぶるから、俺の背中のって。断るなよ?お前、その状態じゃ歩けないだろ。ほら。」
途中厳しく言いつけるような言い方ではあったが、最後はすごく優しい声で背中に乗るよう促してくれた。
兄のようなその口調にすごく安心して、キャプテンの厚意を素直に受け取った。

保健室まで歩く中でキャプテンが俺に問うてきた。
「なあ、良?お前、なんでそんなに気使うんだ?まあ、俺が年上だからってのはあるだろうけど、体調悪い時までそんなに気負うことねぇよ。」
責めるような言葉ではなく、ただ単純に疑問に思ったという雰囲気がしっかりと伝わってきた。
俺はこの人は大丈夫だと思った。それに、先程から色々してもらっているのに、この疑問に答えないのは年上うんぬん関係なく、釣り合わない気がした。
だから、俺は話す。
「ちゅうがっこうのときに、、」
「…」
「ちゅうがっこうのときに、いわれたんです。。せんぱいに。……」
「…なんて言われたんだ?」
少し黙ってしまった俺にキャプテンは次を促した。
「『たかが、頭痛ごときでピッチャーが休んだら、俺たち練習出来ないだろ』って。」
「!?」
「だから、、、ずつう、でも、行ったんです……でも、、もちろん、、、、ほんちょうしなんて、、でるわけなくて。。。そしたら、またっピッチャーがっ、って」
「頑張ってたんだな。」
「っ、え?」
「体調悪くても頑張ってたんだなぁって。」
キャプテンは何かに感動するように、感心するように、言った。
「そんな、、ことっ」
「頑張ってるよ。だけどな、体調悪い時に無理して、野球やったって、面白くねぇし、強くなれねえだろ?それだけじゃなくても、うーん、辛いんだし素直に休んだ方がいいんじゃないか?色々思うところはあるだろうから、強くは言えないけど、ちゃんと年上を頼れよ。特に部活の先輩なんて、繋がり濃くてお互いを少なからず知ってんだからよ。」
キャプテンのその言葉は俺を救った。今まで何があっても年上に、特に部活の先輩には迷惑を掛けてはいけないと。体調を崩すことは迷惑なことだと思い続けてきた。でも、なんとなく考え方が変わった。
自分の頭の中ですらはっきりしたことは分からないが、確かに何が変わった。

「あり、がとう、、ございます。」
教室からの一連のことにも俺の心を救ってくれた事にも。

俺はキャプテンの背中でそっと目を閉じた。

その後キャプテンが、優しく微笑んでいたのは俺の知らない事実だ。
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