恋人に助けを求めました。

トウモロコシ

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恋人に助けを求めました。

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この授業の先生は厳しいことで有名で実際、何回か授業を受けてきて身をもって厳しい人であることを知った。
そんな先生の授業なのだから、もちろん私語厳禁。立ち上がるなんてもってのほかだ。
後ろや横の子に問題を聞くなんてこともない。それは私語とみなされるから。
言うなればお葬式のような静寂感なのだ。

しかしそれは、普通の時だけ。体調不良などについては当然別の話になってくる。

だけど、体調が悪すぎた俺はそこまで頭が回らなかったのだ。

頭が痛い。朝からそれだけが俺の思考の全てだった。
とはいえ、朝はそんなに酷くなかった。少し頭が重いくらいの感じだった。
それが学校へ来て、時間が経つにつれてだんだんと痛みが増してきたのだ。

「っーーー」
よりにもよってこの時間に…あと1時間だけ持てば、あるいはあと1時間早ければ…

考えられるのは全てたらればの話でそんなことは頭痛のピーク(と信じたいもの)が訪れている今考えても仕方がない。

「っ!はっっ!!!」

息が漏れる。それすらもこの静寂の中では響いてしまう。咄嗟に息を潜めた。

頭が鈍器で殴られたようにガンガンと痛む。
それを耐えつつも息を漏らさないようにするのは至難の業だった。

「ぁーーー!」

荒くなる息を控えるから、それのせいでまた頭痛が酷くなる。

痛む頭を抑えつつも、板書はする。しないと怒られる。怒られたくはない。その一心でいつもより数百倍汚い字で、遅さで写した。

ノートをみて、黒板をみて、またノートを見るそんな頭の上下運動にだんだん目が回ってきて、しまいには、黒板の字もノートの字も歪んで見えた。
その光景がまた不快で、胃のあたりがムカムカするような感覚に陥った。

それが吐き気だと理解するのは少し困難で、俺はノートをとっている風にして、10分ほど耐えた。


突然、口の中に唾液が大量にひろがった。
びっくりしたが、同時に反射のように口に手を当てて、口の中のものを出さないように飲み込んだ。

その一連の流れで初めて俺は今自分が吐き気に耐えていたことがわかった。
ここで崩壊するのはさすがにまずい。
目には生理的な涙がうかんで、目が回って、自分が座っているはずなのに、どういう状況かわからなくなってしまった。

とにかく誰かに助けて欲しくて、必死に手を伸ばした。

ー前に座る恋人に助けを求めるためにー

真樹が軽く後ろを向いたことで目が合った(気がした)。

「た、すけて」

真樹は一瞬はっとして、立ち上がって俺の横に来て、座っているのにグラグラしている俺を支えて先生に言った。
「先生!」
真樹が声を発した瞬間、教室中の視線がこちらに向く。いや、真樹が立った時点で既にこちらにいろいろな感情が向けられているのが分かるほどには雰囲気が悪くなっているのだが。真樹は特にそれ気にせず、言葉を繋いだ。
「明羅(あきら)が体調悪そうなんで、保健室に連れていきます!」
連れていくことを既に決定事項とし、先生に何も言えないようにしている。

真樹と俺は普段真面目なため、特に注意されることも無く、明羅の行動もあって、すぐに保健室の入室許可がでた。
真樹は俺の腕を自分の腕に回し、引きづるようにして教室を出た。

教室を出た瞬間、俺は真樹に抱き上げられた。

「気づかなくてごめん。その様子だと結構吐き気あるんだろ?というかもう、吐きそうなんだろ。」
今の俺の状況を一瞬にして理解してくれたようで、揺れないようにはこんでくれた。

教室から1番近い男子トイレの個室にはいって、背中をさすってくれる。
「ほら。」
たぶん、真樹の背中さすってくれるやつがなくても吐いてた。それくらいあっさりと出てきた。
「ご、めん。。ぅぇ。う"っ…ぇぇええ。。げほっ…う"~」
「よしよし、、辛いなぁ。」

背中さすってくれて、俺を元気づけてくれようとしている真樹はなんとなく、悲しんでいるような自己嫌悪に陥ってしまっているような、そんな感じがした。

「口ゆすぎな。」
「けほっ。。うん。」
しばらくして落ち着いた俺を今度は手洗い場に連れて行ってくれて、そこで口や手を洗う。

「頭痛いんだよな?」
「…なん、、でそこまで…?」
「無意識だろうけど、僕が抱き上げた時と吐いてる時にこめかみあたり抑えてたから。」
「。うん」
「保健室急ぐか。」

そう言うとまたすぐに抱き上げられて、そっと歩いてくれる。
その顔がまた悲しそうで、頭痛のせいであまり回っていない頭でも真樹が何を考えているのかわかった。

「しかた、、ないよ…あのせんせい、、、こわいから。。。まき、、がきにすることじゃ、ない。」
「っ!?…ありがとう。」
真樹は、いつも通りの笑顔で笑った。そして、俺の額にキスを落とした。
「保健室、ここから距離あるし、目瞑ってていいぞ。」
「ふふ、ありがと。じゃあ、、おことばに、あまえて」

俺は目を瞑った。
純粋に辛かったというのも無くはない。というか半分それだけど、もう半分は






真樹が顔真っ赤にして言葉を濁して「目を瞑って」と言ったから。そのお願いに答えるために。
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