81 / 93
スイーツ司祭の暗躍 ヒューゴ視点
しおりを挟む
とある日の正教会で司祭のヒューゴは部屋で資料を漁っていた。
「どこかに無いものですかね、化け物を倒す方法は。それにしてもまた面倒な手間が増えましたね」
司祭以上でないと閲覧出来ない書物を読む。といっても今回探しているのは、一般的な化学書だ。特殊な薬品を作るための資料を集めているのだ。
「セリーヌ様も出陣なさりたいようだが、どうやってお止めするか」
国の宝であるセリーヌ様を危険な目に遭わせたくない。
しかし彼女はなかなかこちらの気持ちをくみ取ってくれずに突っ走ってしまうため、補佐役の私も大変なのだ。
「そこはソフィア・ベアグルントと似ていますね。共通点が多いものだ。ただ最近は彼女の方が危ない橋を渡りたがるようですがね」
読み終わった本を棚に戻すと、ドアが開く音が聞こえた。
黒い髪が見え、すぐにだれか分かった。
誰かが黒獅子と名付けたどおりに黒がよく似合う。
普段は優男のくせに肉弾戦闘だけでいえば、国家最強だろう。
あちらは私を探していたようで、私の顔を見ている。
「ここに居たのですね。今お時間いただけますか?」
正直に言うと性格はお互いに苦手だ。
断ってもいいが、今回は少しだけ聞いてあげよう。
「ええ。構いませんよ。ちょうどお茶にしようと思っていましたのでご一緒にいかがですかな」
近くのテーブルに彼は座り、私は紅茶と甘いスイーツを並べた。
そこでこの男のストイックな食生活を思い出した。
「そういえば貴方はスイーツはお嫌いでしたね」
食べないのならそれでいい。私が食べるまでだ。
だがこの男は止めた。
「いいや、いただきたい」
「おや、珍しい。興味が無かったのではありませんか?」
「最近は食が変わったのだ。特に必要が無ければわざわざ我慢するつもりもありません」
おそらくは奥方の影響を受けたのだろう。
これは貰い物だったので、取り上げる必要もない。
席に座り直すと早速と本題に入られた。
「折り入ってお願いがあります。ひと月ほど暇をいただきたい。その間、私の仕事を肩代わりしてくれないだろうか」
「ひと月ですか。それはまたお長い。奥方と旅行でも?」
「いいえ。妻の友人の領地で魔物の繁殖の予兆がありますので、調査に行きたいと思います。正教会の業務とは違うため、私用で行いたい」
この男のことだ。しっかりと仕事の引き継ぎは終わっているのだろう。
それならば私に来る仕事もそこまで多くはないはず。それにセリーヌ様の業務にねじこめば、しばらくは彼女も多忙によって大人しくなるだろう。
「構いませんよ。業務外とはいえ人々の安全を守ることこそ我々の役目ですからね」
今日のスイーツはロールケーキだ。この辺りのめぼしい甘味処は回ったが、今回のはまだ知らないお店だ。
フォークで一口サイズに切って食べると、口の中に甘さが広がる。
思わず顔がにやけてしまいそうになった。
「これは……ふむ。なかなか、まだまだこの国も捨てたものでもありませんね」
「スイーツでそこまで言い切るとは……」
呆れた声が聞こえるが今は無視してスイーツを堪能する。
この男も口にしたが、顔が変わらない。
初めて食べてこの程度の反応しか無いとは、好みでは無いか、一度食べたかのどちらかだろう。
……そういえばそうでしたね。
自分の中で理由が分かったが、それは口にしないでおく。
私はゆっくりと食べていたが、この男は一口で食べきった。
なんと勿体ない。奥方に食べ方を習うべきだろう。
お互いに紅茶も飲み干したので、休憩は終わりだ。
「ところでソフィア・ベアグルントにお伝えしてもらってもいいですか?」
「……何をでしょうか?」
警戒のある声色を出す。彼女に行ったことを思えば当然であろう。
それをあえて無視する。
「他愛の無いことです。いつも貴方にお会いに来るときにお土産を頂いておりますゆえ、そのお返しをいくつか本国から取り寄せております。お好きな時に取りに来るように伝えてください」
「それは妻が決めることだ」
「伝えないというのは無しにしてくださいよ。お菓子が無駄になるのは勿体ない。それに……後々喧嘩の理由の一つにしたくないでしょ?」
彼女はかなり甘い物に目が無い。それをこの男も分かっているから苦い顔をして「伝えておく」と言い残して去って行く。
「さて私も部屋を移しますか」
薬品が使える部屋まで向かい調合を開始する。
司祭になるまでに調合の課程も学ぶ。
昔から戦闘よりこっちの方が得意とも言える。
ただ最近は書類仕事に追われて、全く触っていなかった。
だけど今は何よりも先にこれを終わらせなければならない。
ある者から託された魔女の始祖を倒す秘薬なのだから。
「どこかに無いものですかね、化け物を倒す方法は。それにしてもまた面倒な手間が増えましたね」
司祭以上でないと閲覧出来ない書物を読む。といっても今回探しているのは、一般的な化学書だ。特殊な薬品を作るための資料を集めているのだ。
「セリーヌ様も出陣なさりたいようだが、どうやってお止めするか」
国の宝であるセリーヌ様を危険な目に遭わせたくない。
しかし彼女はなかなかこちらの気持ちをくみ取ってくれずに突っ走ってしまうため、補佐役の私も大変なのだ。
「そこはソフィア・ベアグルントと似ていますね。共通点が多いものだ。ただ最近は彼女の方が危ない橋を渡りたがるようですがね」
読み終わった本を棚に戻すと、ドアが開く音が聞こえた。
黒い髪が見え、すぐにだれか分かった。
誰かが黒獅子と名付けたどおりに黒がよく似合う。
普段は優男のくせに肉弾戦闘だけでいえば、国家最強だろう。
あちらは私を探していたようで、私の顔を見ている。
「ここに居たのですね。今お時間いただけますか?」
正直に言うと性格はお互いに苦手だ。
断ってもいいが、今回は少しだけ聞いてあげよう。
「ええ。構いませんよ。ちょうどお茶にしようと思っていましたのでご一緒にいかがですかな」
近くのテーブルに彼は座り、私は紅茶と甘いスイーツを並べた。
そこでこの男のストイックな食生活を思い出した。
「そういえば貴方はスイーツはお嫌いでしたね」
食べないのならそれでいい。私が食べるまでだ。
だがこの男は止めた。
「いいや、いただきたい」
「おや、珍しい。興味が無かったのではありませんか?」
「最近は食が変わったのだ。特に必要が無ければわざわざ我慢するつもりもありません」
おそらくは奥方の影響を受けたのだろう。
これは貰い物だったので、取り上げる必要もない。
席に座り直すと早速と本題に入られた。
「折り入ってお願いがあります。ひと月ほど暇をいただきたい。その間、私の仕事を肩代わりしてくれないだろうか」
「ひと月ですか。それはまたお長い。奥方と旅行でも?」
「いいえ。妻の友人の領地で魔物の繁殖の予兆がありますので、調査に行きたいと思います。正教会の業務とは違うため、私用で行いたい」
この男のことだ。しっかりと仕事の引き継ぎは終わっているのだろう。
それならば私に来る仕事もそこまで多くはないはず。それにセリーヌ様の業務にねじこめば、しばらくは彼女も多忙によって大人しくなるだろう。
「構いませんよ。業務外とはいえ人々の安全を守ることこそ我々の役目ですからね」
今日のスイーツはロールケーキだ。この辺りのめぼしい甘味処は回ったが、今回のはまだ知らないお店だ。
フォークで一口サイズに切って食べると、口の中に甘さが広がる。
思わず顔がにやけてしまいそうになった。
「これは……ふむ。なかなか、まだまだこの国も捨てたものでもありませんね」
「スイーツでそこまで言い切るとは……」
呆れた声が聞こえるが今は無視してスイーツを堪能する。
この男も口にしたが、顔が変わらない。
初めて食べてこの程度の反応しか無いとは、好みでは無いか、一度食べたかのどちらかだろう。
……そういえばそうでしたね。
自分の中で理由が分かったが、それは口にしないでおく。
私はゆっくりと食べていたが、この男は一口で食べきった。
なんと勿体ない。奥方に食べ方を習うべきだろう。
お互いに紅茶も飲み干したので、休憩は終わりだ。
「ところでソフィア・ベアグルントにお伝えしてもらってもいいですか?」
「……何をでしょうか?」
警戒のある声色を出す。彼女に行ったことを思えば当然であろう。
それをあえて無視する。
「他愛の無いことです。いつも貴方にお会いに来るときにお土産を頂いておりますゆえ、そのお返しをいくつか本国から取り寄せております。お好きな時に取りに来るように伝えてください」
「それは妻が決めることだ」
「伝えないというのは無しにしてくださいよ。お菓子が無駄になるのは勿体ない。それに……後々喧嘩の理由の一つにしたくないでしょ?」
彼女はかなり甘い物に目が無い。それをこの男も分かっているから苦い顔をして「伝えておく」と言い残して去って行く。
「さて私も部屋を移しますか」
薬品が使える部屋まで向かい調合を開始する。
司祭になるまでに調合の課程も学ぶ。
昔から戦闘よりこっちの方が得意とも言える。
ただ最近は書類仕事に追われて、全く触っていなかった。
だけど今は何よりも先にこれを終わらせなければならない。
ある者から託された魔女の始祖を倒す秘薬なのだから。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,291
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる