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魔女の従者

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 暖かい服に着替えている間に落ち着いてきたが、先ほどクリストフと喧嘩したことの後悔がどんどん押し寄せてきた。

「ただ私の心配をしてくれただけなのに……嫌われたらどうしましょう……」

 広い庭園を回りながら、嫌な記憶が何度も反芻される。すると先ほどまで後ろを歩いていたリタが真横へ来た。

「ソフィアお嬢様、もしよろしければお話をお聞かせいただけますか?」

 ずっとタイミングを見計らっていてくれたのだろう。いつも彼女は良き相談相手のため、ポロッと全部を吐き出した。
 もちろん私が魔女であることは隠したままに。
 しかし彼女は少しだけ考え込む。そして無表情ながらも言葉を選ぶように聞いてくる。

「わざわざ猊下が危険を冒してまで討伐する意味が分かりませんね。彼の国から追われている者がこちらを狙う余裕はないと思われますが」
「それは……そうなんだけど」


 どうしても大事な部分を説明できないため、彼女には理解しがたいだろう。
 しかしクリストフへ不満を言うことはせず、黙って私の横を歩いた。
 ふと、未来では命を散らした彼女に、お母様のことを聞きたくなった。

「ねえ、リタはお母様のことを覚えているのですよね」
「もちろんですよ」


 私が小さい頃に亡くなったため、あまりお母様のことを覚えていない。リタのお母様も私の母に仕えていたが、不治の病で十年近く前に他界している。ある意味では似た境遇を持つ彼女は他人には思えず、今では良き理解者となってくれていた。
 だけどお母様のことはあまり聞いたことがなかった。リタは遠い顔をしながら、少しだけ楽しそうな顔をする。

「とても厳しく、それでいてお優しい方でした。昔のお嬢様は厳しさだけ似ていましたが、今ではその優しさもそっくりになっていますよ」
「そ、そんなに厳しかったかしら……」


 もう昔の自分がどんなだったか思い出せない。しかしお母様に似てきているのなら、それは嬉しかった。

「わたしも里の生まれだったので、突然奥様が旦那様と見初められて、外の世界に付いていく時は不安でいっぱいでした。それでも奥様は小さい私をいつも気遣ってくれましたのは心に残っております」
「へえ……ん?」


 今、里の生まれと言ったのが気になった。
 そういえばお母様は森の中でお父様と出会ったと言っていた。
 貴族の爵位も買ったと言っていたが、使用人が居たのならお金がある家の子供だったのだろうか。


「ねえ、お母様が過ごしていた里ってどういうところなんですか?」
「そうですね……ある一点を除けば普通の集落ですよ。そこは魔女達が身を寄せ合う村でしたからね」
「んんん!?」


 思わず変な声が出てしまった。そこでリタは口元を押さえた。


「失礼しました。これは奥様から口止めされておりましたので忘れてください。あっ、小鳥がいますよ」

 明後日の方向へ指差して、普段は絶対にしない晴れやかな顔をしていた。
 色々と言いたいことが出てきた。

「逸らし方が雑ですよ! それよりもリタは私が魔女だって知っていたってことですか?」

 ずっと隠していたのに、まさか彼女はそれを知っていたのだ。
 すると彼女も私が知っていることを驚いていた。

「あら。お嬢様はもうご存じだったのですね」
「知っているも何も……そのせいでガハリエから狙われているのですから」
「どういうことです?」

 これまで隠していたガハリエが魔女の始祖であり、それを討伐すれば私は魔女から普通に戻ることを話した。
 するとやっとクリストフがガハリエを追っている理由を理解したようだった。


「まさかそのような裏のご事情があったとは。相談してくだされば良かったのに」
「リタといえども相談できませんよ……お父様もどうして教えてくださいませんの」


 恨むような気持ちでお父様を呪ったが、過ぎたことを考えても仕方がない。
 他にもいっぱい聞きたいことがあったが、

「ところで未来から帰ってきたとお聞きしましたが、私が知っていることを知らされてなかったのでしたら……」

 彼女はすぐに自身の未来が途中で閉ざされたことに気付いたのだろう。
 おそらく彼女は組織の手によって殺されている可能性があった。
 彼女を死に追いやった病状も思い返すと、リオネスからの呪いにそっくりだったからだ。
 同じように脅しの手紙が来たけども、それを私に渡さず墓場まで持っていったのだろう。

 彼女の顔がサーッと青ざめていく。

「申し訳ございません。最後までお勤めを果たせなかったようですね」


 彼女は頭を下げるので、慌ててそれを止めた。

「気にしないで! リタが生きているだけで嬉しいのですから!」


 本心を口にする。口下手な彼女だが、私にとっては唯一無二の存在だ。ずっと私を見守ってくれていたのだと今さらながらに知った。
 頭を上げさせた彼女は、まだ責任を感じているようだった。

「そうしますと、魔女の始祖との決戦はお嬢様も向かわねばなりませんね」
「うん、私の事なんだから待っているなんてできません」
「それがいいかと思います。魔女の始祖の不死身を突破できるのは王家の血を引くお嬢様だけなのですから」
「うんうん……ん?」


 よく分からないことを言われた気がする。
 王家とはリオネス達王族のことであろうか。

「王家の血って何ですか?」

 こういうのは素直に聞くのが一番だ。リタも知らないことを察してくれたらしく説明してくれる。

「お嬢様の祖先はもちろん魔女の血を引いております。ただ時の運命か、この国の王子と結婚し、結ばれたのです」
「それって私の祖先だったの!?」

 クリストフからも聞かされたのは、私が元々リオネスと結婚するのは、王族と結婚することで子供は魔女ではなく普通の人間として生まれるということだ。だがそれはおかしい。

「流石に嘘では無いですか? 私は魔女として生きているのですよ?」
「何を仰られているのですか?」
「だって、王家の方と結婚すると子供は魔女を引き継がないと聞きました」


 今度はリタが目を丸くした。

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