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間話 交流戦⑥

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 夏のため日中はいつも暑い。だが今日は運が良く曇りであるため、そこまで気温も高くない。
 各領地の騎士達が集まってその領地の威信を争うので、かなり迫力あるはずだ。
 私の領地所有のコロシアムがあるので、一般客にも開放して親しめるようにしていた。


「ソフィア様!」

 外を歩く回っていると、私が支援している学習塾の子供達が観客席から大きく手を振ってくれていた。


「来てくださったのですね!」

 駆け寄ってみると子供達もワクワクした顔で下りてきた。

「みんな鎧かっこいいな!」
「ランスロット様も出場するんですよね! 楽しみだな!」

 あまりにもはしゃぎすぎて、引率の先生達も困り顔だった。

「こらこらお前達……申し訳ございません。ソフィア様から招待されたのにせわしくて……」
「お気になさらないでください。今日は私も参加しますので、みんなも応援してね」

 先ほどのはしゃぎようから一転して目を丸くされた。

「そ、ソフィア様が出場されるのですか!?」
「ええ、わたくしも副団長ですので、出場資格はあるのですよ」
「そうなのですか……ただ可憐なソフィア様が戦う姿が思い浮かべず……本当にお怪我だけはご注意ください」

 先生の言葉に子供達も頷いて同調していた。

「ありがとう存じます。ではみんなも良い子にして観戦するのですよ」

 手を振って別れた。
 他の領地の騎士達とも挨拶をして、参加してくれたことに感謝を告げた。
 こういった交流戦は強制でない分、やる気のない領地はそもそも参加しないのだ。


「ソフィアさん!」

 控え室を回っていると廊下でブリジットと出くわした。
 彼女も出場するつもりのようで、軽装な鎧を身につけていた。
 額に汗が滲んでいるので、準備運動が終わったところなのだろう。

「今年はわたくし達、グロールング家が優勝をもらいますわ! 覚悟してくださいませ!」

 槍を大きく地面に打ち付けて、そのやる気度合いを見せてくれる。

「ええ。ですが私はレオナルドさんとの試合しか出ませんが」


 目に見えてブリジットのやる気のあった顔が沈みだした。

「そうでしたの……せっかく貴女に勝つために頑張りましたのに……」

 彼女の悲壮な顔を見たせいで一気に罪悪感が出てきた。
 前々から張り合うことが多かったが、私が出ないだけでここまでテンションが落ちてしまっては、私のせいではないか!

「と、思いましたが急にやる気出てきましたので、大将として出場しようと思います」
「まあ! 本当ですか! 約束ですよ!」
「ええ……!」
「ならまた会いましょう!」

 目に見えてやる気が戻った彼女は嬉しそうな顔で私の横を過ぎていった。
 何にせよブリジットは男勝りなところはあるが、とても美人さんなので、戦う姿を楽しみにしている人たちもきっといるはずだ。

 そのまま自分の控え室に戻ろうとした時に、汗だくなっているレオナルドと鉢合わせた。

「これはソフィア様、本日はお日柄も良い一日ですね」

 優雅にお辞儀をし、普段と変わらない様に見えた。私の勝たなければ己の運命が決まるというのに、一切の焦りを見せないのは自信の現れかもしれない。

「余裕ですね。貴方は後が無いというのに」
「もちろんですよ。これでも私は戦ってきた戦場では無敗です。父上から戦いの技術をたたき込まれております。お遊戯感覚の騎士とは違うのですよ」

 これは全く反省はしていないな。私ではこの人を改心させられないのかもしれない。


「ソフィア様、一つだけ賭けをしませんか?」
「貴方にそのような事を言う権利はありません」
「お互いに利益がありますよ。私が負ければ一生貴女様のしもべになって見せましょう」

 彼の目を見るとやはり恐れが無い。逆に言えば欲望にまみれていた。

「死ねと命じれば死にますし、危険な場所へ行けと命じればどこへなりとも行きましょう。暗殺だって得意です。もし趣味であれば愛玩動物のように尻尾だって振りますよ」
「私が負けた場合には?」
「簡単ですよ。父上に執り成して頂きたい。今回のことは不問にするとね。いくら恐いもの知らずの父でもソフィア様の御言葉には従わないといけませんからね!」


 彼は故郷から追放された。このままではどこかの領地の騎士と同じく一から信用を勝ち取らないといけない。
 そんなことは彼のプライドが許せないのだろう。

「いいですよ。わたくしに勝ったらその条件を呑みましょう」
「あはっ! それともう一つ私達と戦うのは準決勝のはずですので、それまでに敗北した方の負け、またどちらも敗退した場合には、私の負けでいいです!」

 絶対に負けないと確信めいているようだった。しかし腕前以上の自信があるように見えるため、何やら裏があるような気がしてならない。

 ようやく自身の控え室の近くまで来たとき、何やら騒がしい声が聞こえてくる。
 入り口から担架で運ばれていく騎士の子達の姿があった。
 リタが何やら指示出しをしてくれているみたいだが、彼女の顔も焦った様子だ。


「リタ、何かあったのですか?」
「ソフィアお嬢様!? 大変です、今日出場予定だった者達が急に腹痛を訴えだしまして……どうやら行商人から無料配布されたパンが当たったようです」
「腹痛って……まさか!?」

 先ほどのレオナルドの余裕の正体に思いついた。
 運ばれていく者達の顔がひどく青ざめている。
 うちの半数の騎士がクリストフに付いていって不在のため、代わりの騎士もいない。
 今日の試合は絶望的だった。
 レオナルドがやったかもしれないが、その証拠を見つけるのは困難だろう。


「リタ、新米の騎士達は無事なのよね?」
「はい。あと、ランスロットさんも食べていないようです」

 私の補佐をするランスロットが無事なのは良かった。実力もあるので、わずかな希望が出てきた。
 だけど彼だけに試合をさせたらすぐに体力が無くなってしまうため、上手くローテーションを組まないといけない。

 さっそくランスロットを含め新米二人を部屋に呼んだ。前にねずみ退治でサボっていたレンとラビットは、急に出場になったことで、顔が青ざめていた。

「俺たちが試合に出るのですか?」
「絶対に無理ですって!」

 お世辞にも二人の技量は高くはない。だが別にそれでも構わない。

「そんなに気負わないでください。別に負けたからと言って二人を責めるつもりはありません。それに最近はレンもラビットも遅くまで残って訓練しているではないですか」
「そうですが……」

 少し弱気なラビットはまだうじうじとしていた。
 だがレンは少しだけ覚悟を決めた顔をして、相棒のラビットの背中を叩いた。

「待てよ、これはチャンスかもしれんぞ! 確か活躍したら報償をもらえるのですよね?」
「もちろんですよ。一勝ごとにあげますよ」
「おおお!」

 二人ともやる気を出してくれた。これで一応参加は出来るが、参加する他領の騎士のレベルも高いため、一勝するのも難しいだろう。そうなると私とランスロットで勝利を重ねないといけない。問題は私の体力がレオナルド戦まで残ってくれるかだ。
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