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間話 交流戦④

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~~☆☆~~

「はぁ……」

廊下を歩いていると妻のため息が聞こえた。いつもならすぐにためいきの理由を聞いていただろうが、とっさに物陰に隠れてしまった。

「クリスになんて言えば……元はと言えばハークベルが付きまとうせいで……」

ぶつぶつと呟きながら彼女の部屋へと戻っていく。
ちらっと見えた横顔は、かなり深刻そうな悩みに感じた。

「ブリジット殿のお茶会が終わってからずっとあの調子だな……ふむ」

ソフィーから報告を受けていたが、たびたびレオナルドという男から迫られていると聞く。
何か手を打たねばもっと助長するだろう。

「あっ、クリストフ団長!」

思案していると副団長補佐のランスロットから声を掛けられた。
今はお義父さんが療養しているため、俺が代わりに騎士団をまとめているのだ。

「そんなに慌ててどうしたのだ?」
「それが、ハークベル家から緊急の早馬が来まして……」
「なんだと!?」

話を聞くと、どうやらハークベルの領地で魔物達が暴れているらしい。
理由は定かでは無いらしく、とにかく助けてくれとのことだ。


「仕方がない……動ける騎士達を中庭へ招集してくれ。そこで私から説明する」
「かしこまりました!」
「その間にソフィーに許可をもらってくる」


ランスロットと別れた後にソフィーに会いに行く。部屋をノックしてみたが返事がない。声かけも全く反応が無かった。
仕方が無いとドアをこっそりと開ける、ベッドで横たわっている彼女の姿を見つけた。

「寝ているだけか……最近頑張りすぎていたからな」

すやすやと寝ている彼女の寝顔を見たい。近づこうとしたときに、テーブルの上にピンク色の何かが置かれていた。
近づくとそれはチョコのようだった。

「可愛らしいパッケージだが……これは……?」

箱を手に取ると目を疑うことが書かれていた。成分には媚薬作用がある植物が書かれていた。なぜ彼女がこんな物を持っているのだ。
もしかすると、俺のせいで不満が出てしまったのか。たしかに最近は彼女も忙しいからと遠慮していたが、それが裏目に出てしまったのかもしれない。


「あれ……クリス?」


眠たそうな目を擦って彼女が起き上がった。
とっさにその場から離れて彼女に近づいた。
あたかもお菓子に気付いていないかのように。

「起きたか、ソフィー。緊急で伝えないといけないことがあったのだ」

魔物が出現したことと騎士団の出動許可をお願いした。
話を聞くにつれて、彼女の寝起きの顔が元に戻っていた。

「なら明日の交流戦を中止にして――」
「それはだめだ」

彼女の考えを却下した。せっかく彼女が頑張ってきたのにそれを無駄にしたくない。

「俺が前に出るからすぐに解決してくる」
「でも……怪我でもしたら……わたし……」

心配そうな彼女を落ち着かせるために頬へ触れた。


「案ずるな。すぐに解決して帰ってくる。其方は今日のパーティと明日の交流戦にだけ集中すればいい」

それでもまだ不安そうな顔をする。
ならば――。

「帰ってきたときに褒美をくれないか?」
「褒美ですか? クリスでも欲しい物があるのですね」
「ああ、もちろんだ。ずっと其方を独り占めできなかったからな。一日中、俺と遊びに行ってもらうぞ」

彼女のきょとんとしていた。だがすぐに顔を俯かせてこくりと頷いた。
恥ずかしそうにする彼女の顔をもっと見たかったが、それは次回に取っておけばいい。
早く終わらせたいと、やる気が出てきた。

「では、行ってくる」
「お気をつけて」

愛する妻と短いキスをしてから、騎士団を連れて馬で超特急で出発した。

~~☆☆~~

前夜祭という名のパーティーを開いたが、クリストフのことが心配で集中できていない。
このままではいけないと想い、一度化粧直しをすると嘘を吐いて会場から離れていたのだ。
鏡を見て、自分の顔が元に戻っているのを確認した。

「よし! 頑張ろう!」

一人になったことで気持ちが少しだけ落ち着いた。また廊下を戻っていると、誰かが立っていた。白い髪のせいですぐに誰か分かった。

「ソフィア様、急に席を外されていましたので心配しましたよ」

にこやかな顔でこちらに近づいてくるのは、何度も私を口説こうとするレオナルドだった。


「また貴方ですか。いい加減にしませんと痛い目に遭いますよ」

だが相手は怯まずにさらに一歩踏み出した。


「ただ心配していただけですよ」
「貴方に心配される必要はありません。自分の領地の危機なのによく自分だけ来られましたわね。ご自身の心配をされる方がよろしくてよ」

無視して会場に戻ろうとしたが、急に腕を掴まれた。
振りほどこうにも強い力だ。

「離してください!」
「まあまあ、これを見てくださいよ」

レオナルドは懐から写真を取り出した。それは初めてこの男と出会った日に、バルコニーで話をしたときの写真だ。

「これって見方によってはキスをしているようにも見えませんか?」
「わたくしを脅そうというのですか?」

睨んてみたが、逆にこちらの関心を引けたことに喜んでいるようだった。
ニタニタとした顔をする。

「いえいえ、私はただ貴女様のためを思っているのですよ。未亡人となった後では、どうしても領地経営が杜撰になりがち。それの代役を私が務めれば全てが丸く収まります」
「クリスがまるで死んでしまうみたいな言い方ですね」

クリストフはドラゴンすら倒すほどの力量だ。ただの魔物に遅れを取るはずが無い。
だがこの男は鼻で笑った。

「いくら猊下でも暴走した数百の魔物達の前には為す術もありません。それに騎士団の半数を向かわせたのでしたら、今回の遠征で欠員がかなり生じるでしょう。そうなると誰がこの領地を守れるのでしょうね」

この男はこう言いたいのだ。私の騎士が少なくなれば、自分たちが攻め落とす事も出来ると。元々が傭兵だったため、戦いは得意なのだろう。

「もし仮に貴方の言うとおりになったところで、小領地ごときに攻め落とされるほどやわではありません」

ようやく腕を振りほどくことができ、踵を返して会場へと戻った。
すると会場が慌ただしくなっていた。


「どうかされたのですか?」
「そ、ソフィア様!?」

近くの人に事情を聞こうとしたら、きょどられてしまった。
すると周りの人たちも私を見て顔を背けられた。

「ソフィアさん!」

周りが私から視線を外す中で、ブリジットだけがこちらへ駆け寄ってきた。
切羽詰まった顔をしている。

「どちらへ行っていましたの!」
「化粧を直しに……」
「それは本当なのですよね? レオナルドって人と密会をしていたわけではないですよね?」

あの男の名前を突然に告げられ困惑した。
まるで私があの男に懸想していると思われているように感じられた。するとちょうどタイミング良くレオナルドも会場へと入ってきた。
その顔は何やら仕掛けようとしている顔だった。
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