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間話 交流戦②

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 ~~☆☆~~
 今日は妻が主催したパーティが屋敷のホールで行われる。
 ホストとして入念に準備しており、これなら女主人だからと馬鹿にされることもないであろう。
 各領地の貴族を呼んで、少しでも交流戦を盛り上げようとしているのだ。
 俺も少しは役に立たねばならないと、率先して主人達に声を掛けていく。

「皆様、本日はご参加ありがとうございます。何か不自由はありませんか?」
「これは猊下。楽しすぎて、途中であら探しをやめたくらいですよ」

 他の貴族達も、大司教代理という地位に就いた俺の機嫌を取ろうとしているのだ。
 せっかくだから彼女のためにもこれは利用したい。

「今年の交流会は私も初めて参加するので楽しみにしております」
「そうでしたか! 猊下も試合に参加されるのですかな?」
「残念ながら……他の方の接待がありますので、参加する余裕がありません。ただ妻が張り切っておりますので、少しでも協力したい」
「はははっ、猊下も奥方には弱いのですな! 私も家族共々遊びにいかせてもらいます」

 一人の貴族を筆頭に他の貴族達も続々と参加を表明してくれた。
 交流戦に参加せずとも、領地に来てお金を落としてくれるだけで領民も生活が楽になるであろう。
 ひととおり挨拶が済んだのでソフィーのところまで戻ろうとした。

「どこへ行ったのだ?」

 辺りを見渡して彼女を探す。何度か探すことでようやく彼女の横顔を見つけた。
 まだ彼女も他の貴族達と挨拶をしているようだ。

「クリストフ大司教代理殿~」

 急に呼びかけられたのでそちらを見たら、顔を真っ赤にしたアベルだった。
 大神官とは思えない醜態だ。

「其方……いくら何でもハメを外しすぎだ」
「はは、いいじゃないの! どうせ俺の顔なんて誰も知らないさ」

 またもやワインに口を付けていた。これ以上言っても今は意味がなさそうだ。
 怒るのは明日でもいいだろう。

「にしても本当にソフィアちゃん可愛くなっていってるな。あっちこっちで男達がチラチラ見ているぞ」
「なんだと?」

 言われて他の男達の眼差しが彼女に向かっているのに気付いた。


「あんまり驚かないんだな」
「まあな。彼女が私以外を選ぶわけなかろう」
「すごい自信だな。だが気をつけろよ。いつだって美女は変な男が寄ってくる。お前の居ない隙を狙ってな」

 それは彼女の意志を無視して尊厳を踏みにじる輩が出てくるかもしれないということだろうか。
 だがこちらのホームで、なおかつ大勢の人が居る中で何かされることはなかろう。

「クリストフ猊下、もしよろしければ一曲いかがですか?」

 呼ばれた方を向くと、かなり際どいドレスを着た女性がダンスを申し込んできた。

 ~~☆☆~~

 もうすぐ交流戦もあるため、ホームパーティーを開いて少しでも関心を持ってもらう。
 やはり公爵家という地位は簡単に揺るがないとはっきりと実感した。
 疎遠になりかけた者達が、最近の上り調子を見てすぐに戻ってきたのだ。
 やはり貴族は人脈が物を言うので、この機会に派閥の強化をしたい。

「ソフィア様、どうか私と踊ってくれませんか?」


 今日は舞踏会も兼ねているので、こうやってお誘いがやってくる。
 年若い未婚の殿方が多いのが気になるが、なんにせよ断る理由も無いので受けていた。
 何度か踊る中でチラッと私の想い人を目で追うと、彼も他の令嬢達と踊っている。
 そちらも未婚の女性が多く、女性達が順番待ちをしているようにそわそわとそちらに目が集まっていた。

 ――ていうか、絶対に狙っているでしょ!

 夏なので涼しい恰好になるのは仕方が無い。それにしては胸の部分が開放的だったり、わざとらしくもたれかかったりと、あざとすぎて文句を言いたくなる。

「どうかされましたか?」
「い、いいえ……」

 おっと、思わず意識が別の方へ持って行かれていた。適当にしては失礼だ。
 キリが良いところで踊るのをやめて、牽制の意味を込めて彼の元へ行こうとすれば、すぐに別の男性からダンスを申し込まれる。

 ――それにしても先ほどからマナーが無い殿方ばかり誘われますわね。

 社交の経験が薄いのか女性をリードするのが下手だ。それに未婚の男性ならいっそのこと同じく未婚の令嬢を誘えばいいものを。

「本当にソフィア様はお美しいですね。その美しい桃の髪に私の心はときめかずにはいられません」
「そうなのですね」

 先ほどから外見ばかり褒められて、いい加減飽きてきた。まるで私にはそこしか魅力がないと言わんばかりだ。
 まあ、ほとんど面識が無いので仕方が無いとはいえ、もう少し事業のことや領地経営等、お世辞を言えるところはあるだろうに。

 少しずつクリストフの元まで前進しながら、もうそこまでのところで別の男性とぶつかった。

「あたた……あっ!」

 ぶつかった拍子にワインが男性の服に掛かってしまった。
 綺麗なシャツに赤いシミが染みこんでしまっていた。私のせいで汚してしまったためすぐに頭を下げた。

「申し訳ございません! すぐにタオルを――」
「お気になさらず。それよりもお怪我が無くて良かったです」

 そこまで怒っていないようで安心した。あとで弁償代を払うとしても、やはり嫌な気持ちで帰してはベアグルントの恥だ。

「そちらこそ。えっと――」

 若い白銀の髪の男性で、ここら辺では見ない髪色だ。私自身も顔に見覚えがないため、どこか小さい領地の方かもしれない。
 するとあちらも察して名乗ってくれる。

「申し遅れました。ハークベル家の長男レオナルドと申します」

 綺麗なお辞儀をして、私の手の甲にキスをする。
 平民から成り上がった家と聞いていたが、目の前の男からそんな雰囲気は感じられなかった。
 それよりもまるで上級貴族のような気品すら感じられる。
 前髪を分けて下ろし、目元のほくろは色っぽくしているため、これは確かに多くの女性が魅了されてもおかしくはない。

「レオナルド様、申し訳ございません。服の弁償はしっかりさせていただきます」
「本当に大丈夫ですよ。それよりも少しだけ内密のお話だけさせていただけませんでしょうか。今度の交流会の事でどうしてもお話をしたかったもので……」


 それくらいならお安いご用だ。クリストフと踊りたかったが、まずはお詫びをしてからだ。
 飲み物を持ってくるからと、周りに聞かれないテラスへと向かった。
 すぐにレオナルドもワインを二つ持ってきて、私へと差し出した。

「ありがとう存じます。それでお話とは――」
「まずは乾杯をしましょう」

 早くクリストフの元へ行きたいがため、気持ちが逸ってしまった。

「そうですね。では……」

 お互いのグラスを合わせて音を鳴らした。
 まだあまりワインは好きではないが、せっかく持ってきてくれたので飲もう。
 お互いに軽く口にする。

 ――一瞬、変な味がしなかった?

 前に飲んだときとは若干だが違って感じられた。
 まあ、あまり気にしなくてもいいだろう。
 その時、視線を感じた。
 レオナルドの目がこちらの様子を窺っている気がした。

「どうかしましたか?」
「いいえ。本当に噂通りお綺麗だと思いましてね」

 距離を近づけたと思ったら、横並びになった。
 すると私の後ろの手すりに彼の腕が預けられる。

「えっと……身体の調子が悪いのですか?」
「そうですね。先ほどのワインで少しだけ体が冷えたかもしれません」

 濡れたシャツのボタンを外していき、露出した胸板が見え隠れする。
 私のせいとはいえ、やはり好きな人以外の露出した肌って気色悪く感じた。

「私のせいで申し訳ございません。それでしたらお医者様を呼びますね」

 バルコニーに呼んだのは間違いだった。風が当たって寒くなるから、室内の方がいいだろう。
 すると急に腕を引っ張られた。

「まだ大丈夫ですよ。どうしてお伝えしないといけないことがあります」
「ですが……分かりました」

 何やら真剣そうな顔をする。男性などでおそらくすぐに倒れることはないだろうから、危なそうならお医者様を呼べばいいだろう。

「実はソフィア様を少しでもお救いしたいと私は考えております」
「はぁ……?」

 言っている意味が分からずそんな声が出た。

「噂は色々と聞いております。クリストフ猊下と結婚されてから、その嫉妬から魔女であるという噂が流れ、普段出歩くのも猊下の許可を得ないといけないと……かなり窮屈な結婚生活を送っているのでしょう?」
「特にそのようなことは思ったことないですよ」

 何か勘違いされている気がする。私と出歩くときに騎士をたくさん連れて行くから、クリストフに束縛されていると思ったのだろうか。
 私の場合には、ガハリエに狙われているので、護衛を付けねば危ないだけだ。

「そうですよね。言いづらいことだと思います。ただ私はずっと貴女様の味方です」


 レオナルドは急に私の指に手を絡ませてきた。気持ちが悪いため手を離そうとしたが、その前に私の体を引き寄せて、テラスの手すりに背中が当たった。
 そして息が当たるほど近い距離になった。

「私なら貴女様を身も心も満足させられます。どうか私に――」

 ――もう無理!

 体が反応してしまい、レオナルドに足払いをかけた。

「うぉっ――ぐへっ!」

 体勢を崩した彼の横をすり抜けた。私という壁を失いそのまま手すりにアゴをぶつけて悶絶している。
 何も言わずに去るのは失礼かと思い、彼に忠告だけしておく。

「わたくしは特に不満がありませんので、火遊びなら自身に見合った方とだけしてくださいな。それにクリスのことを悪く言うのでしたら次はありませんよ」

 まだまだ痛みが引かないレオナルドに目を向けずそのまま舞踏会へと戻った。
 これだけ元気ならお医者様もいらないであろう。
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