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間話 交流戦①

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 私が改装した建物では、裕福では無い子供達の勉強場所となっていた。
 将来的に騎士にもなれるように、教育計画も立てている。騎士の課程となると専門的なところも扱うので。まだまだ人が足りていない。だからこそ私も手伝っていた。

「ではみなさん、授業を始めますよ」
「はーい!」


 子供達が一斉に返事をした。年齢関係なく受けにきているが、自発的に来た子供達なので学ぶ意識が強い。
 教える側も気合い入るものだ。


「エリーゼ先生、今日は何を教えてくれるー」
「今日はね――」
「エリーゼ先生教えるのが上手いから早く聞きたい!」


 楽しそうでいいな。
 本当は私が教えるはずだったのに――。
 教室の後ろでぽつんと立ってその光景を見ていた。

 何を隠そう、私は担当から外されたのだ。
 子供達いわく私の説明は分かり辛いらしい。
 従業員達も私がいなくとも回り出しており、雑用を手伝おうとすれば「ソフィア様にそのようなことはさせられません!」とみんなから断られた。

 授業も終わったため、私も屋敷へ帰ろうとした時――。

「ソフィア様ー」
「お願いがあって」
「今大丈夫でしょうか」

 子供達が集まってくれている!
 これはもしかするとやっぱり私の授業を受けたいということだろうか。

「何かしら。何でも言ってね」

 これでも勉強は少しはできるのだ。子供達の質問くらいなら何だって答えてあげられるはず。

「今度の交流戦の見学ってできますか?」
「交流戦?」

 期待していた質問ではなかった。だけどとても大事な事のようだ。

「観たいのですか?」


 子供達は大きく首を縦に振った。目を輝かせているため、本当に観たくてたまらないようだった。

 交流戦とは、各領地の騎士達が競う大会だ。今回はベアグルント領が開催地なので、この子達の観戦は難しくない。
 ただ問題は――。

 ――うちって規模は大きくても一人一人の練度だとたいして強くないのよね。

 今回は三対三の勝ち抜き戦でトーナメントを上がっていかないといけない。
 一応はメンバーを代えながら参加できるが、やはり強い選手ほど出る回数が増えて、疲れが蓄積されていくため、采配をミスったら満足な戦いが出来ずに終わるのだ。

 せっかくうちの騎士達に興味を持っている子供達に負ける姿を見せたくない。
 それならば――。

「いいですよ。ではわたくしが専用席作っておきますから、先生達と来てくださいね。うちの騎士達はかっこいいですよ!」

 子供達がわくわくした顔で、大きな声で「やったー!」と叫んでいた。

 ――どうせなら練習も公開して、領民達に応援してもらうのもいいかもしれませんね。

 そうすれば騎士を目指したい人も増えるかもしれない。そうと決まれば、早速団員達に知らせないといけない。

 屋敷に戻って早速と騎士達を中庭へ招集した。

「皆さん、もうすぐ領地対抗交流戦があります。領民の方々に宣伝して、盛り上げていこうと思いますので、ぜひ優勝を目指してください!」

 しかし騎士の皆は形だけ腕を上げたが、あまり自信がない様子だ。
 他領は規模が小さくとも、個別で優秀な騎士を雇っているところもある。
 だいたいはこういう交流戦のためだけに確保しているのだ。
 これは何か別の餌を用意しなければならないようだ。

「今回の交流戦で活躍した者には、特別報償も用意しております。ですので、是非ともそれを手に入れられるように頑張ってください!」

「おお!」と少しはやる気を出したようだ。私も人任せにせずに騎士達へ指導をしていかないといけない。
 一旦は私の補佐役のランスロットに、普通の特訓ではなく、交流戦に特化した練習をするように指示を出した。
 やらないといけないのは試合だけではない。
 その間に今度は使用人達を集めた。

「いいですか、皆さん! お父様がいなくとも私達でこの交流戦を成功させないといけません! 大店の打ち合わせ、物流の調整、私の社交の準備、全てを完璧にこなしてください!」


 お父様はいまだ安静にしており、その間の領地責任者は私だ。
 まだまだ頼りないかもしれないが、私が頑張らずにどうするか。
 クリストフも大司教代理の仕事が増えて大変だろうから手伝ってもらうわけにもいかない。

 交流戦までまだひと月あるが、準備をしていたらすぐに過ぎるだろう。
 これまでサボっていた社交もそろそろしなければならない。


 訓練場に顔を出して、今回参加する騎士達に指導をしていく。

「剣はもう少しコンパクトに振ってください。相手の動きをしっかり見て、フェイントに惑わされないようにしてくださいね」
「はい!」


 これでも未来の知識があるおかげで腕前には自信がある。実際に模擬戦を通して、弱点を教えていく。
 休憩で水を飲んでいると、同じく指導に徹しているランスロットも休憩にやってきた。

「お嬢様、すごいですね。もう私でも敵いませんよ。いつの間にそんなに強くなったのですか?」
「えっと……夢の中かな……」
「はあ……?」

 未来で鍛えて来ましたなんて絶対に言えない。また魔女疑惑なんて出したくないのだ。
 騎士達も少しずつ練度が上がっているので、勝てなくとも良い経験にはなるだろう。
 しかしそれでもまだまだ自信が無いようだった。

「皆さんの実力も上がっているのに、どうしてこんなに自信が付かないのでしょうね」
「仕方ありませんよ。ハークベル領の嫡子は本物の天才ですから」

 ――ハークベル領ってたしか平民から貴族になったところよね?

 元々傭兵家業を営んでいたが、その強さから爵位を得たのだ。
 まだまだ新参であるため、領地経営は上手くないが、傭兵時代の知識で騎士としては優秀な領地だ。
 ただマナーの悪さは語るまでも無い。

「そうなると皆さんもやられたのですか?」
「ええ……その場で彼女を取られた人も……」
「……へ?」


 話を聞くと、うちの騎士の一人と決闘をしたらしく、付き合っていた女性がそのまま相手の格好良さに惚れて奪われたらしい。
 なんでも成り上がり貴族とは思えないほど、ハークベル家の嫡男は美男子らしい。

「まったく……男なら奪い返すくらいの気概は持って欲しいものですね」
「はは……でもお嬢様もお気を付けてください。その男は女癖が悪いらしく、結婚している女性でも平気で手を出すとか……」
「うげぇ……」


 最低な人ではないか。流石に爵位の格が違う私を狙うような馬鹿なことはしないだろうが、聞いていて良い気持ちはしない。
 出来ることならうちの誰かがその伸びた鼻をへし折ってほしいものだ。

 訓練が終わってもまだまだ眠れない。
 やってもやっても終わらない書類仕事は大変だった
 今日も夜遅くまで予算とにらめっこをしていた。

「痛っ!」

 急に頭痛がきた。流石に寝不足で無理がきたかもしれない。
 何やら美味しそうな匂いがした。

「働き過ぎですよ……」

 リタは呆れた顔をしつつも、机の上に軽食と紅茶を置いてくれた。

「日中は騎士の指導と空いた時間に書類仕事といくらなんでも体を壊しますよ」
「ごめんね。たくさんの人が楽しみにしてくれているみたいだから、どうしても成功させたいの」


 リタは心配してくれているが、それでもひと月くらいなら無理がきくはずだ。
 今日も大店との祭りの協力を依頼した時に、町の人たちから差し入れや協力の申し出などどんどん規模が大きくなっている。
 前に来ていた劇の人たちも、またこの町で開いてくれるらしい。

「そうすれば領地も潤うし、そのお金でどんどん新しい設備や技術を導入できますもの。知っていますか? 宗教大国家では、農業もどんどん効率化――」

 話の途中で急に頭痛がしてふらっとなった。


 机に倒れたまでは覚えていたが、いつの間にかベッドで寝ていた。
 頭には濡れたタオルが敷かれていた。

「寝てる場合では――」

 ズキッと頭が痛んだ。体もきついのでこれは熱が出ているであろう。

「あまり無理をするな」

 起き上がろうとした私の肩が軽く押された。

「クリス……ごめんなさい。玄関まで迎えに行けず……」
「そんなことは気にするでない。タオルも替えよう」

 新しいタオルを取り出して、それを水につけて絞った。ひんやりとして冷たそうで、そっと頭に乗せられると気持ちよかった。

「其方が倒れて、みんな心配していたのだぞ」
「みんな?」

 その時、部屋の外から声が聞こえてきた。

「ソフィアお嬢様のお部屋の前で何をなさっているのですか?」
「いや、これはお見舞いに――」
「そんな暇があるのなら優勝できるように訓練をしてくださった方が喜ばれますよ」
「そ、そうですよね……」


 どうやらリタが諭したようだ。たくさんの足音が帰って行くので、一人や二人来たわけではないようだった。

「ソフィー、其方はたしかに領主代行だが、そこまで頑張らなくてもいいのだぞ? この領地は他領と比べて飛び抜けて栄えている。大きな不安の種もほとんど取り除いたから、未来のように衰退なんぞしないはずだ」

 彼の言うとおりであろう。大領地であるベアグルントは開拓して、どんどん領地を大きくしたのだ。
 私が何かやったとしても、大きく発展することは無いであろう。
 ただ――。

「楽しいからですよ」
「楽しい?」

 倒れてしまった私が言うとおかしな話に聞こえるかもしれない。


「ええ……だって未来では生きるのに必死でみんなを不幸にするだけでしたけど、今は頑張った分だけ笑顔になってくれるではないですか。クリスと一緒になってから毎日幸せなんですもの」

 本心を伝える。すると彼も怒るに怒れない顔をしていた。

「それなら結構。だが其方が健康で初めてみんなが本当の笑顔になるのだ。すぐに治して元気な姿を見せておくれ」

 私が眠るまでずっと彼は側にいてくれた。
 早く治して、もっと頑張りたい。
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