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ワインのお願い
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劇も無事に終わって、出演者達はステージに並ぶ。
団長が挨拶を行い、話の途中で私達の紹介に入る。
「では本日は特別ゲストとして、この領地の主であるソフィア・ベアグルント様とクリストフ・リーヴェルヴァッセン司祭様のご夫婦にご出演頂きました!」
がやがやと騒ぎ出す。おそらくは見覚えがある者もいただろうが、私達が劇に出るはずがないと思って、似ている人と思っていたに違いない。
少し緊張した雰囲気になってしまった。
ただ紹介してもらったので挨拶をする。
「皆様、本日はありがとう存じます。不慣れな私達の演技でもこうして皆様からご好評だったのは、ひとえにこちらの団員の方々のおかげです」
身振りで彼らに感謝を伝える。次に観客達へ顔を戻す。
「今年は不作の年が予想されますので、こうやって娯楽に興じられる時には存分に遊んでくださいませ。領民の皆様のおかげでこの地があるのですから、少しでもご意見があれば、直接でなくとも、騎士の方々でもいいのでお伝えください」
あまり余韻を壊すべきではないだろう。クリストフの手を取って、団長に挨拶をする。
「本日は貴重な体験をさせてくださいましてありがとう存じます。お邪魔でなければ、また遊びに行ってもいいですか?」
「もちろんでございます。その際にはぜひ猊下のお力をお借りしたいです!」
目が金貨のマークに変わってる。まあ、彼が出演すればそれだけで人を呼び込みそうだ。
再度、お客に挨拶をしてからステージを下りる。
舞台裏に向かうと、ギルが待っていた。
「今日はありがとう! 現像には時間掛かるから後で屋敷に送ってもいいよな!」
「ふむ。楽しみにしておこう。お菓子を用意しておくから来るときにはあらかじめ連絡するといい」
「本当か! やったぜ!」
ギルもそうだが、彼もまるで尻尾でも振りそうなほど顔がほころんでいる。それほどまでに花嫁姿に喜んでくれるとは。
「もう少し落ち着いたら、大きな結婚式をしよう」
彼からそう提案されると、途端に胸がぽかぽかとする。
「はい。一緒に考えましょうね」
今年は無理でも来年こそ開きたい。とてもそう思う。
着替えも終えてから、屋敷へと戻る頃にはもうすでに日も落ちかけていた。
夕食を食べながら、セバスにお父様とリタの容態について聞いたが、どちらとも回復へと向かっているそうだ。リタも明日ならお話ができるかもしれないとのことだ。
「クリス、あとでお部屋に行ってもいいかしら?」
「もちろんだ」
「よかった。一緒にワインを飲みたかったの。うちの秘蔵のワインがあるはずよ」
「ほう……」
彼と約束していたがそれどころではなかったので飲めずにいた。
だけど今日は最後まで良い一日で終えたかった。
どんな味をするのか楽しみだ。だがセバスが顔を青くする。
「それは旦那様にご許可を頂いているのですか?」
「やっぱりしないとだめ?」
セバスが何度も首を縦に振る。お父様はワインに目がないらしく、そのためたくさんワインがある。
セバスにクリストフも同調する。
「ソフィー、そこはしっかり確認した方がいい。私も飲みたいが、お義父様のお怒りを買いたくはない」
彼は神妙な顔で言うため、どうやらかなり大事なことらしい。
そんなに怒ることなのだろうか。仕方が無い。持っていく前に許可をもらおう。
部屋に戻る前にお父様のお部屋に向かった。
「お父様、起きていらっしゃいますか?」
「ソフィーか! ああ、いいとも!」
朝も見舞いも兼ねて訪ねたが、それでも退屈しているのだろう、弾んだ声が聞こえてきた。
お父様には一応、昨日のことは伏せている。言ったところでこの怪我で何か頼りになるわけでも無いので、興奮させてはいけないという配慮だ。
部屋に入ると、ベッドの近くに小さなテーブルを置いる。そこにはワインが入っていたであろう、赤いシミが残っているグラスが置いてあった。
「もう! 怪我をしているのにそんなの飲んでどうするのですか!」
昔からお酒が好きだと思っていたが、こんな時でも
飲むのは大概だ。
「はは、ほんの少しだ。医者からもこれくらいならと許可されているから、そんなに心配せんでもいい」
一応は病人という自覚があるようだ。医者が言うのならいいが、あまり変な心配を掛けさせないでほしい。
「それでどうしたのだ?」
おっと、目的を忘れていた。だけど娘に甘いお父様なら簡単に許してくれるだろう。
「実はワインを飲んでみたかったからお父様にお願いしに来たの。ちょっと恥ずかしいからお酒の力を借りていっぱいお話をしたくて……」
昨日の夜のことを思い出すと、やはり恥ずかしさが蘇ってくる。とても良かったが、やはり時間が経つにつれて、昨日の自分は本当に乱れていたと思う。
だからお酒で恥ずかしさを消し去りたかった。
するとなぜかお父様がものすごく嬉しそうな顔をする。
「ソフィーがそんなに話をしたかったとは……ふむ、思う存分話すといい」
「本当! ワインどれでも飲んでいいの!」
「ああ。もちろんだ。ソフィーもお酒を飲める歳になったのだから、良いワインを知らないとな」
じゃあ、セバスに頼んで一番美味しいワインにしてもらおう。
彼も喜んでくれそうだ。
「お父様大好き!」
一応けが人なので、体に軽く抱きつく程度にした。
やっぱりお父様はワインで怒るほど心は狭くないようだ。
「はは、ソフィーも今も甘えん坊だな」
ではお父様とのお話も終わったし、楽しみに待っているであろう彼の部屋に向かおう。
善は急げとお父様から離れる。
「じゃあ、取ってくる!」
「ああ。楽しみに待っているぞ」
どうやらお父様はワインの感想を楽しみに待っているようだ。
明日の朝にでもそれを伝えてあげよう。
「うん! じゃあ、おやすみ!」
「ん……? おやすみ?」
お父様から離れて急いでセバスに会いに行く。
「本当に旦那様がお許しになってくださったのですか?」
「うん? けっこう簡単に許してくれたよ」
だけど納得がいっていないセバス。しかし私がお父様の部屋に入るのを確認していたので、嘘ではないとは思っているようだ。
納得しきらないままセバスは一番良いワインを取りに行ってくれた。
……クリスも喜んでくれるかな?
どんな反応をするか楽しみだ。
自分も寝る前準備までしてから、彼の部屋に向かった。
「おまたせしました!
入ると、もうすでに彼は椅子に座っていた。
テーブルには冷やされているワインが置いてあったので、セバスが運んでくれたようだ。
「ワインもありますね!」
お父様が保管していたくらいだからとても良い物に違いない。早く飲んでみたい。
彼も少しだけ驚いた顔をしている。
「こんな極上のワインを許してくれるとはな」
「知っていますの?」
「もちろんだ。ロードオブローズ。王の中の王と呼ばれる最高級ワインだ。質の良いぶどうが取れる限られた畑から取った物。今も値段が高いが、これは五十年の前に作られた希少性の高いワイン。値も付けられん」
そんなにすごいのか。それはそれは飲むのが楽しみだ。明日になって知ることだが、どうしてかお父様はふてくされていたそうだ。
団長が挨拶を行い、話の途中で私達の紹介に入る。
「では本日は特別ゲストとして、この領地の主であるソフィア・ベアグルント様とクリストフ・リーヴェルヴァッセン司祭様のご夫婦にご出演頂きました!」
がやがやと騒ぎ出す。おそらくは見覚えがある者もいただろうが、私達が劇に出るはずがないと思って、似ている人と思っていたに違いない。
少し緊張した雰囲気になってしまった。
ただ紹介してもらったので挨拶をする。
「皆様、本日はありがとう存じます。不慣れな私達の演技でもこうして皆様からご好評だったのは、ひとえにこちらの団員の方々のおかげです」
身振りで彼らに感謝を伝える。次に観客達へ顔を戻す。
「今年は不作の年が予想されますので、こうやって娯楽に興じられる時には存分に遊んでくださいませ。領民の皆様のおかげでこの地があるのですから、少しでもご意見があれば、直接でなくとも、騎士の方々でもいいのでお伝えください」
あまり余韻を壊すべきではないだろう。クリストフの手を取って、団長に挨拶をする。
「本日は貴重な体験をさせてくださいましてありがとう存じます。お邪魔でなければ、また遊びに行ってもいいですか?」
「もちろんでございます。その際にはぜひ猊下のお力をお借りしたいです!」
目が金貨のマークに変わってる。まあ、彼が出演すればそれだけで人を呼び込みそうだ。
再度、お客に挨拶をしてからステージを下りる。
舞台裏に向かうと、ギルが待っていた。
「今日はありがとう! 現像には時間掛かるから後で屋敷に送ってもいいよな!」
「ふむ。楽しみにしておこう。お菓子を用意しておくから来るときにはあらかじめ連絡するといい」
「本当か! やったぜ!」
ギルもそうだが、彼もまるで尻尾でも振りそうなほど顔がほころんでいる。それほどまでに花嫁姿に喜んでくれるとは。
「もう少し落ち着いたら、大きな結婚式をしよう」
彼からそう提案されると、途端に胸がぽかぽかとする。
「はい。一緒に考えましょうね」
今年は無理でも来年こそ開きたい。とてもそう思う。
着替えも終えてから、屋敷へと戻る頃にはもうすでに日も落ちかけていた。
夕食を食べながら、セバスにお父様とリタの容態について聞いたが、どちらとも回復へと向かっているそうだ。リタも明日ならお話ができるかもしれないとのことだ。
「クリス、あとでお部屋に行ってもいいかしら?」
「もちろんだ」
「よかった。一緒にワインを飲みたかったの。うちの秘蔵のワインがあるはずよ」
「ほう……」
彼と約束していたがそれどころではなかったので飲めずにいた。
だけど今日は最後まで良い一日で終えたかった。
どんな味をするのか楽しみだ。だがセバスが顔を青くする。
「それは旦那様にご許可を頂いているのですか?」
「やっぱりしないとだめ?」
セバスが何度も首を縦に振る。お父様はワインに目がないらしく、そのためたくさんワインがある。
セバスにクリストフも同調する。
「ソフィー、そこはしっかり確認した方がいい。私も飲みたいが、お義父様のお怒りを買いたくはない」
彼は神妙な顔で言うため、どうやらかなり大事なことらしい。
そんなに怒ることなのだろうか。仕方が無い。持っていく前に許可をもらおう。
部屋に戻る前にお父様のお部屋に向かった。
「お父様、起きていらっしゃいますか?」
「ソフィーか! ああ、いいとも!」
朝も見舞いも兼ねて訪ねたが、それでも退屈しているのだろう、弾んだ声が聞こえてきた。
お父様には一応、昨日のことは伏せている。言ったところでこの怪我で何か頼りになるわけでも無いので、興奮させてはいけないという配慮だ。
部屋に入ると、ベッドの近くに小さなテーブルを置いる。そこにはワインが入っていたであろう、赤いシミが残っているグラスが置いてあった。
「もう! 怪我をしているのにそんなの飲んでどうするのですか!」
昔からお酒が好きだと思っていたが、こんな時でも
飲むのは大概だ。
「はは、ほんの少しだ。医者からもこれくらいならと許可されているから、そんなに心配せんでもいい」
一応は病人という自覚があるようだ。医者が言うのならいいが、あまり変な心配を掛けさせないでほしい。
「それでどうしたのだ?」
おっと、目的を忘れていた。だけど娘に甘いお父様なら簡単に許してくれるだろう。
「実はワインを飲んでみたかったからお父様にお願いしに来たの。ちょっと恥ずかしいからお酒の力を借りていっぱいお話をしたくて……」
昨日の夜のことを思い出すと、やはり恥ずかしさが蘇ってくる。とても良かったが、やはり時間が経つにつれて、昨日の自分は本当に乱れていたと思う。
だからお酒で恥ずかしさを消し去りたかった。
するとなぜかお父様がものすごく嬉しそうな顔をする。
「ソフィーがそんなに話をしたかったとは……ふむ、思う存分話すといい」
「本当! ワインどれでも飲んでいいの!」
「ああ。もちろんだ。ソフィーもお酒を飲める歳になったのだから、良いワインを知らないとな」
じゃあ、セバスに頼んで一番美味しいワインにしてもらおう。
彼も喜んでくれそうだ。
「お父様大好き!」
一応けが人なので、体に軽く抱きつく程度にした。
やっぱりお父様はワインで怒るほど心は狭くないようだ。
「はは、ソフィーも今も甘えん坊だな」
ではお父様とのお話も終わったし、楽しみに待っているであろう彼の部屋に向かおう。
善は急げとお父様から離れる。
「じゃあ、取ってくる!」
「ああ。楽しみに待っているぞ」
どうやらお父様はワインの感想を楽しみに待っているようだ。
明日の朝にでもそれを伝えてあげよう。
「うん! じゃあ、おやすみ!」
「ん……? おやすみ?」
お父様から離れて急いでセバスに会いに行く。
「本当に旦那様がお許しになってくださったのですか?」
「うん? けっこう簡単に許してくれたよ」
だけど納得がいっていないセバス。しかし私がお父様の部屋に入るのを確認していたので、嘘ではないとは思っているようだ。
納得しきらないままセバスは一番良いワインを取りに行ってくれた。
……クリスも喜んでくれるかな?
どんな反応をするか楽しみだ。
自分も寝る前準備までしてから、彼の部屋に向かった。
「おまたせしました!
入ると、もうすでに彼は椅子に座っていた。
テーブルには冷やされているワインが置いてあったので、セバスが運んでくれたようだ。
「ワインもありますね!」
お父様が保管していたくらいだからとても良い物に違いない。早く飲んでみたい。
彼も少しだけ驚いた顔をしている。
「こんな極上のワインを許してくれるとはな」
「知っていますの?」
「もちろんだ。ロードオブローズ。王の中の王と呼ばれる最高級ワインだ。質の良いぶどうが取れる限られた畑から取った物。今も値段が高いが、これは五十年の前に作られた希少性の高いワイン。値も付けられん」
そんなにすごいのか。それはそれは飲むのが楽しみだ。明日になって知ることだが、どうしてかお父様はふてくされていたそうだ。
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