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大事な彼女
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リタが倒れてしまい、私は未来で彼女が亡くなったことを思い出す。クリストフの神聖術すら全く効かず、彼女はずっとうなされている。
「リタ……大丈夫よね、リタ?」
昨日までこんな兆候なんて全くなかった。それとも私なら彼女の不調すら気付けると過信していたのかもしれない。
そんな彼女を見てひどく取り乱してしまい、正常な判断が出来なかった。
クリストフの指示でリタを個室へと移し、すぐさま医者を呼んだりと彼が冷静に対処してくれた。医者も到着して彼女を診療する。時間が長く感じ、たまらず何度も医者に尋ねた。
「どうですか、先生?」
「落ち着くのだ」
クリストフが私の肩に触れて急かせる気持ちを抑えさせる。すると医者はやっとリタの診断を終えて、私へ向き直る。
「申し訳ございません。私も初めて見る病状です。今のところは滋養がある食べ物を取って免疫に頼るしかありません」
「そんな……どうにかならないのですか?」
わらにもすがる思いで尋ねた。
彼女は先ほどからこちらへ反応を示さない。ずっと苦しむだけで、食事を取ることすら今の段階では不可能だった。
「熱は40度を越え、さらに紫の発疹、まるでの呪いのような痣が首元に出ております。こんなのは聞いたことがありません」
「痣……ですって?」
今の特徴に少なからず覚えがあった。未来で組織に反抗をした者達の中には、突然にも病死する者がいた。謎の高熱と紫の発疹、そして必ず痣が現れると。これは偶然なのだろうか。
考え事をしている最中も医者は話を続けた。
「このまま熱が下がらなければ最悪を考えねばならなくなるでしょう。少しでも熱が下がるようにいくつかの薬草を煎じましょう」
頭が真っ白になっていく。せっかく過去に戻ってきたのに、また大事なメイドを失うかもしれない。
最後の希望としてクリストフへ目を向けたが、彼は申し訳なさそうに首を振った。分かっている、彼は医者では無いのだ。だけどやはり期待していたのだろう。この行き場の無い気持ちをどこかへ吐き出したい。
「少し一人にしてください……」
クリストフとも別れて、私は自室へ向かう。
――もしかして組織が関わっている?
これまで音沙汰無しだったためとうとう諦めてくれたかと、淡い期待もした。だけどこう都合良く組織と戦った者達と同じ症状が出れば、彼女も組織によって目を付けられたことになる。
前のリタも突然の病気に倒れて、親戚の家に遊びに行っていた私は彼女の死に目には会えなかった。だけど同じように高熱を発症して、帰らぬ人になったのだ。
「前も組織が関わっていたとしたら……」
あの時のことを思い出す。ちょうど半年後にリタは亡くなった。その少し前に私は魔女の末裔であるとリオネスから教えられたのだ。
「あの頃は魔女の噂はすでに流れ始めていたわよね……何か理由があってリタは殺されたの?」
どうしてリタを狙ったのだ。私では無く彼女を狙った理由。部屋に戻る前に私はリタの部屋へと向かった。
部屋はだれもおらず、これ幸いにと彼女の棚を漁る。彼女には特別に私宛の手紙を検閲する許可を与えていた。元々面倒な事を嫌っていた昔の私が、彼女に命じて仕事を代わりに行ってもらっていたのだから。
すると綺麗な便せんを見つけた。
「これって……」
手紙を勝手に読むのはあまり褒められた行動ではないが、今は少しでも情報が欲しかった。
手紙の中は私の怒りを引き出すには十分なことが書かれていた。
「ソフィー、どこだ!」
部屋の外からクリストフの声が聞こえた。手紙を懐に隠して部屋を出る。
近くに彼も居たため、ドアを開いた音でこっちに気付いて駆け寄ってきた。
「部屋に居ないから心配したぞ。何か部屋に気になるものでもあったのか?」
勘の良い彼だが、私は少しでもバレないように笑顔を向けた。
「いいえ。ただリタとの思い出に浸りたかったもので……」
目に見えて彼はホッとする。
「そうか……俺のツテを使っていくつか医者を当たってみようと思う。其方の大事な侍従をこのまま見捨てるつもりはない」
「クリス……」
彼に伝えないといけないのかもしれない。だけどそれはしてはいけない。
この手紙にそう書かれているのだ。
「夕暮れまでには帰る。其方は彼女の側に居てあげるといい」
「……そうさせていただきます」
彼は背中を向けて玄関の方へ向かっていく。しばらく彼が居ないのなら、私の行動もバレないだろう。
彼が馬車で離れていくのを二階の窓で見てから、私も行動に移す。
ちょうど目の前を横切ったメイドへと命令する。
「今すぐ馬車をもう一台出せますか?」
「かしこまりました!」
メイドは私の命令に素直に応じて馬車を呼びに行った。私はまた手紙を読む。その差出人は、組織ではなかった。
――ソフィアへ、君の大事な侍従の命は三日が限度だ。助けたいのなら一人で王都の東にある朽ち果てた教会へ来るように。もし誰かと来た場合には、病に侵された子は助からないと思え。
二日間は待ってやる。
リオネスより。
「リタ……大丈夫よね、リタ?」
昨日までこんな兆候なんて全くなかった。それとも私なら彼女の不調すら気付けると過信していたのかもしれない。
そんな彼女を見てひどく取り乱してしまい、正常な判断が出来なかった。
クリストフの指示でリタを個室へと移し、すぐさま医者を呼んだりと彼が冷静に対処してくれた。医者も到着して彼女を診療する。時間が長く感じ、たまらず何度も医者に尋ねた。
「どうですか、先生?」
「落ち着くのだ」
クリストフが私の肩に触れて急かせる気持ちを抑えさせる。すると医者はやっとリタの診断を終えて、私へ向き直る。
「申し訳ございません。私も初めて見る病状です。今のところは滋養がある食べ物を取って免疫に頼るしかありません」
「そんな……どうにかならないのですか?」
わらにもすがる思いで尋ねた。
彼女は先ほどからこちらへ反応を示さない。ずっと苦しむだけで、食事を取ることすら今の段階では不可能だった。
「熱は40度を越え、さらに紫の発疹、まるでの呪いのような痣が首元に出ております。こんなのは聞いたことがありません」
「痣……ですって?」
今の特徴に少なからず覚えがあった。未来で組織に反抗をした者達の中には、突然にも病死する者がいた。謎の高熱と紫の発疹、そして必ず痣が現れると。これは偶然なのだろうか。
考え事をしている最中も医者は話を続けた。
「このまま熱が下がらなければ最悪を考えねばならなくなるでしょう。少しでも熱が下がるようにいくつかの薬草を煎じましょう」
頭が真っ白になっていく。せっかく過去に戻ってきたのに、また大事なメイドを失うかもしれない。
最後の希望としてクリストフへ目を向けたが、彼は申し訳なさそうに首を振った。分かっている、彼は医者では無いのだ。だけどやはり期待していたのだろう。この行き場の無い気持ちをどこかへ吐き出したい。
「少し一人にしてください……」
クリストフとも別れて、私は自室へ向かう。
――もしかして組織が関わっている?
これまで音沙汰無しだったためとうとう諦めてくれたかと、淡い期待もした。だけどこう都合良く組織と戦った者達と同じ症状が出れば、彼女も組織によって目を付けられたことになる。
前のリタも突然の病気に倒れて、親戚の家に遊びに行っていた私は彼女の死に目には会えなかった。だけど同じように高熱を発症して、帰らぬ人になったのだ。
「前も組織が関わっていたとしたら……」
あの時のことを思い出す。ちょうど半年後にリタは亡くなった。その少し前に私は魔女の末裔であるとリオネスから教えられたのだ。
「あの頃は魔女の噂はすでに流れ始めていたわよね……何か理由があってリタは殺されたの?」
どうしてリタを狙ったのだ。私では無く彼女を狙った理由。部屋に戻る前に私はリタの部屋へと向かった。
部屋はだれもおらず、これ幸いにと彼女の棚を漁る。彼女には特別に私宛の手紙を検閲する許可を与えていた。元々面倒な事を嫌っていた昔の私が、彼女に命じて仕事を代わりに行ってもらっていたのだから。
すると綺麗な便せんを見つけた。
「これって……」
手紙を勝手に読むのはあまり褒められた行動ではないが、今は少しでも情報が欲しかった。
手紙の中は私の怒りを引き出すには十分なことが書かれていた。
「ソフィー、どこだ!」
部屋の外からクリストフの声が聞こえた。手紙を懐に隠して部屋を出る。
近くに彼も居たため、ドアを開いた音でこっちに気付いて駆け寄ってきた。
「部屋に居ないから心配したぞ。何か部屋に気になるものでもあったのか?」
勘の良い彼だが、私は少しでもバレないように笑顔を向けた。
「いいえ。ただリタとの思い出に浸りたかったもので……」
目に見えて彼はホッとする。
「そうか……俺のツテを使っていくつか医者を当たってみようと思う。其方の大事な侍従をこのまま見捨てるつもりはない」
「クリス……」
彼に伝えないといけないのかもしれない。だけどそれはしてはいけない。
この手紙にそう書かれているのだ。
「夕暮れまでには帰る。其方は彼女の側に居てあげるといい」
「……そうさせていただきます」
彼は背中を向けて玄関の方へ向かっていく。しばらく彼が居ないのなら、私の行動もバレないだろう。
彼が馬車で離れていくのを二階の窓で見てから、私も行動に移す。
ちょうど目の前を横切ったメイドへと命令する。
「今すぐ馬車をもう一台出せますか?」
「かしこまりました!」
メイドは私の命令に素直に応じて馬車を呼びに行った。私はまた手紙を読む。その差出人は、組織ではなかった。
――ソフィアへ、君の大事な侍従の命は三日が限度だ。助けたいのなら一人で王都の東にある朽ち果てた教会へ来るように。もし誰かと来た場合には、病に侵された子は助からないと思え。
二日間は待ってやる。
リオネスより。
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