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お茶会

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 ブリジットの家のお茶会を心待ちにしていた。だけど彼女から言われた、私の噂というのが気になっていた。またもや私が魔女であると噂が流れたのだ。
 気持ち悪い感情が腹の中で蠢いているような感じた。

「ソフィー、顔色が悪い。今日は帰った方がいい」

 クリストフも私を心配してくれている。だけどここで帰れば、さっきの噂を気にしていると思われてしまう。
 私は空元気を振り絞る。

「大丈夫だよ。ほらせっかくのお茶会なんだから楽しみましょ」

 今日は美味しいお菓子や新しい染色の布のお披露目だ。せっかくの楽しい会に水を差したくない。
 彼は何か言いたげだったがぐっと堪えているようだった。
 すでに来ている参加者達に挨拶を終えて、すぐに染色の話になった。
 テーブルの上に布が敷かれ、お気に入りの工房を決めることになる。

「ブリジット様、今年はどの布をお選びになりますか?」
「やはり髪色に合う明るい緑でしょうか」

 ブリジットは「それも捨てがたいですわね」と他の色も見ながら悩んでいた。
 私も布の手触りや色を考える。私はせっかくなので彼へ尋ねてみる。

「クリスは、この青色や紫の寒色系かこっちのオレンジ色だとどっちが似合うと思いますか?」

 私が指差しした布を彼は手に取る。

「どれも質が良さそうだな。ソフィーのイメージなら温かい色が似合うが、たまに見せる大人っぽい雰囲気も捨てがたいので紫も見てみたいな」

 彼も悩ましげな顔をしたが、最終的に寒色系を選んだ。

「ソフィーの服は普段は明るい色が多かったから、今回はこちらの青か紫で作ってみるのはどうだろう」

 私もたまにはこういう色合いのドレスを着たいと思っていたので、彼が選んだのを採用した。


「ありがとうございます。ではこれで決めますね」


 今は社交が落ち着いているが、冬になればどんどん増えていくため、その準備はしておかないといけない。
 工房に頼んで次のドレスが出来るのを楽しみに待つ。ふと彼に何かプレゼントをあげたいと思いついた。


「クリスは好きな色とかありますか?」

 悩むかと思ったが即答する。

「私は当然だが桃色が一番好みだ。其方の髪色だからな」

 恥ずかしいことをさらっと言いのける。他の令嬢達も「まあ……」と頬を赤らめていた。咳払いをして、自分も赤くなるのをどうにか堪えた。

「それでしたら、その色の布も選んでハンカチにしますね」
「其方が刺繍を編んでくれるのか?」
「ええ。といっても少しブランクもありますので、お時間は掛かると思いますけどね」

 未来ではもちろん編み物をする余裕なんてなかった。だけど一度身につけた技術のため、何度か試せばすぐに勘も取り戻せるだろう。ただ問題はもう一つあるが……。

「それと私が無事でしたら……」
「ソフィー……」

 ハンカチを編む頃に私が無事であるという保証はない。だけど約束があればもしかすると神様も少しは猶予をくれるかもしれない、と神頼みをする。

 あちらも布を選び終えたようで、私達は休憩も兼ねてテーブルでお茶を嗜む。
 ブリジットの領地はお茶等の嗜好品は特にそろっているため、物珍しい紅茶とお菓子が出てきて舌が飽きない。

「ソフィー、このお菓子は其方向きかもしれんな」

 そっと私の皿にお菓子をよそってくれる。
 彼の祖国から私達の国へ輸入される物も多いため、どうやら彼にとっては当たり前のお菓子のようだった。もうすっかり私の好みが彼にバレている。
 だけど流石に皆の前で、至れり尽くせりだと恥ずかしい。
 周りからも微笑ましい目で見られている気がする。
 すると一人の令嬢が興味津々な顔でクリストフへ質問をする。

「猊下は彼の国でも引く手数多だと思いますが、ソフィア様を選ばれたのはどういったご理由だったのですか?」

 他の令嬢達もこちらをジーとみて、どういった答えが返ってくるのか楽しんでいた。私もちょっとだけ気になる。

「いつも楽しそうに笑う彼女の笑顔で好きだったのだ。それに彼女は人に見せないが頑張り屋でもある。ときに周りに流されることもあるが、それでも正義感だけはあってな。私も一度全てを無くした時に受けた、彼女からの癒やしにはだいぶ助けられたのだ」

 そういえば彼の家が無くなったときに私もお父様に連いて行ったと聞く。
 ふと急に幼少の頃のそれっぽい記憶が蘇る。


 ――辛くてもふくれっ面ばかりだと幸せが逃げますよ。
 ――寝かせてくれないか。今は誰とも話をしたくないのだ。
 ――では私も一緒に寝ますので、寝ながらおしゃべりをしましょう。それなら良いのでしょ?
 ――其方は前半部分しか話を聞いていないのか。まあよい、好きにしろ。

 思った以上にうざかった気もするが、彼の中で美化されているのならいいかもしれない。
 なんだかんだおしゃべりを続けて、私が先に眠ってしまったのは良い笑い話だろう。

 その後も彼の祖国の流行などの話を聞き、今後の流行りに乗ろうと熱心に話を聞く。
 そろそろ会も終わろうとしたときに、クリストフは切り出す。

「ときに私の妻に魔女の疑惑があると聞いたが、どなたが最初に流布したのかご存じの方はいらっしゃいますか?」

 彼の静かな怒りを感じたのだろう。するとぽつぽつと話が出てきた。

「実は王城内でそのような噂が流れていましたので、どなたが最初かは分からないのです」
「だけどソフィア様の腕には、魔女の印はありませんのでおかしな話ですよね」

 ここにいる人たちはしょせん噂だと思ってくれているが、私が魔女という噂が流れている以上は、情報を掴んでいる者がいるということだ。
 もしかするとまたリオネス王太子から噂が流れてしまったかもしれない。
 クリストフもこれ以上の情報は得られないと切り上げる。

「そうでしたか。情報の提供に感謝いたします。それでは本日は大変楽しき会にご招待いただきありがとうございます。麗しき乙女の会なのに、男の私を歓迎してくださった皆様へ感謝を捧げます。ぜひ今後とも妻とは仲良くしてくださると私も嬉しい限りです」


 クリストフの真面目なお礼に皆がピシッと背筋を伸ばした気がする。彼は本当に外面は完璧だ。別に一緒に居るときに問題があるわけでは無いが、彼との二人っきりの様子を見たらもっと人気が出てしまうかもしれない。
 二人でまた馬車に乗って帰る。すると彼がひざまくらをしてくれると申し出てくれた。

「いいですよ。ただ遊んだだけですし」
「無理をしているのが顔に出ておるぞ。遠慮はせずに甘えたまえ」

 いくら言っても聞いてはくれなさそうなので、私は仕方なく頭を彼の膝に乗せた。すると急に体が重くなった。
 本当に疲れていたのだ。彼の大きな手が頭を撫でてくれる。

「心配するな。其方の刻印は腕にはないから見つかりづらい。噂程度なら上手く誤魔化せるはずだ」
「そうですよね……」
「其方は悪いことはしていないのだ。それどころか少しでも善行を重ねようと努力している。その姿勢を神も悪いようにはしないはずだ」

 彼が少しでも安心させようとしてくれるのは嬉しいが、私はもう自分だけが心配では無い。
 このままではクリストフ自身が私を庇った罪で罰せられるかもしれないのだ。
 自分のこと以上にそれが今はとても辛かった。

 今日は彼も泊まってくれるらしいので、私は彼と一緒に眠る。今日は自室で安心した方がいいとのことで、私の部屋に彼が来るとのことだ。
 パジャマ姿でずっと考え事をしていたら、彼も眠る準備を終えてやってきた。

「待たせたな」
「ううん。じゃあ寝ようか」

 私のベッドで彼も寝る。神聖術を掛けてくれる前に私は彼に抱きついた。

「恐いよクリス……私達、本当に大丈夫なのかな」
「心配するな。噂なんぞ俺が吹き飛ばしておく。おやすみ、ソフィー」


 彼は私の体に神聖術を掛ける。一時的な高揚感で悩みが飛ぶ。そして次第にまた眠気がやってきた。
 いつもならこれだけで幸せになれるのに、起きたときも最悪な気分だった。
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