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2話

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 私は絶対に好きになってはならない人を好きになってしまった。
 自分の主人というだけでなく、女の私が同じく女性のアメリアを好きになってしまうなんて。
 これは絶対に気付かれてはいけない恋だ。
 彼女の幸せのために王子との婚姻を喜んでみせたのに、これでは私は何のために心を押し殺したのだ。
 私は部屋へと入り、ベッドで横になる彼女の近くへ寄った。

 何を言えばいいのだろう。
 今なら一回くらいは話を聞いてくれる気がする。
 だが何も思いつかず、咄嗟に言葉が出た。


「アメリア、しばらく私の家に来ないか?」


 アメリアの反応はなかった。
 私も冷静な気持ちになるにつれて、自分が下心のある言葉を言ってしまったと後悔した。

「聞かなかったこ──」
「行く」


 アメリアが寝返りをうって答えてくれた。
 少し覇気のない彼女だが、それでも答えてくれたことが嬉しくて、私はすぐに実家へ帰る準備をした。

 私の実家は田舎にある古い家だ。
 農民たちと距離も近く、貴族な中では裕福ではないが、人の温かみのある場所だった。
 アメリアとは城の中庭で偶然出会ってからよく話すようになり、一緒の貴族院で勉強して、いつしか私は護衛騎士として彼女の側で働くようになった。


「何もないところだけど、自然が多くて静かだからゆっくりできると思う」


 久々の帰郷がこのような理由でなるとは思わなかったが、少しでも彼女の体調が戻るのなら何だってする。
 父と母がアメリアの来訪に笑顔で迎え入れてくれた。

「アメリア様、ようこそお越しくださいました。レイラから話は聞いておりますので、いつまでもゆっくりお過ごしください」
「ありがとう、存じます」


 まだ食事を取れていないので彼女の言葉も掠れている。
 私は長旅で疲れている彼女にすぐに部屋へ連れていった。
 窓から山も見えるので、一番眺めがいお客様用の部屋だ。

「ここは、変わらないね」
「うん、何もないことが誇りの領地だからね。そういえば──!」

 私は走って外にいき、サルビアと呼ばれる赤い花を取ってきた。
 それをアメリアに持っていき渡した。
 アメリアは不思議そうにそれを見ていた。

「覚えてる? 前にこうやって二人で飲んだの?」

 私は思いっきり吸い出した。
 この赤い花の蜜は吸えて、さらに甘いのだ。
 子供の頃はたまにこうやって内緒で吸ったものだ。

「こらっ、レイラ! アメリア様になんて物を食べさせる気だよ!」
「お母様! ちがっ、これはそのッ!」

 こうやって怒られるからいつも隠れて吸っていたのに、久しぶりで忘れてしまっていた。
 ガミガミと怒られながら、アメリアが吹き出した。

「ふふふっ……」

 アメリアの久々の笑顔に嬉しくなった。
 そして彼女は手に持っているサルビアへ、はむっ、と可愛らしく口に入れて吸っていた。

「懐かしい、ね……本当、に懐か、しい……」

 涙が流す彼女の近くに寄って抱きしめた。
 少しでも嫌な記憶が消えるように。
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