氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの

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ご主人様は劇と宝石店へと市場調査に向かう

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 馬車に乗って劇場へと辿り着く。
 大きなホールで行われる劇は観る人を感動させる。
 といっても一回しか行ったことがないのだが。
 オックス様の付き添いとはいえ観させてもらえるのはありがたい。
 私は先に馬車から降りて、オックス様が降りるのを待つ。

 すると他にも劇場を観に来ていた名のある令嬢達が近寄ってくる。
 オックス様が降りてくると黄色い声が降ってきた。

「オックス様! 貴方様も来られたのですね!」
「今度パーティをしますので来てくださいませ!」
「ちょっと抜け駆けやめなさいよ!」

 さすがはモテる男。
 オックス様も慌てることなく囲んでくる女性達に対応する。

「すまないね。今日は楽しみにしていた劇だったんだ。また大きなパーティをするからそこでたくさん話を聞かせてくれ」


 慣れた対応だと思う。
 令嬢達の話をすぐさま終わらせて私と共にホールの中に入った。
 VIP用の椅子に座り、隣に座っているオックス様に尋ねた。

「オックス様も“ラクザハートの恋物語“が好きとは意外でした」

 ラクザハートの恋物語は長編モノで本で出版されるほどの人気作だ。
 お金がなくて劇にあまり行けない私は、奥様が趣味で集めている小説を読ませてもらっていた。
 それがラクザハートの恋物語で、一度だけ劇を見たときの感動は筆舌に尽くしがたい。

「何を言う? 其方が好きだと言っていたものではないか」


 呆れた様子で私を見ていた。
 しかし出発前の言葉と違っていたため違和感があった。

「確か教養の勉強だと言っていませんでしたか?」
「えっ、ああ!? そうだとも! ただな、俺の勉強はサラサが教えてくれるのだから、二人で学ばねばならんこともある!」

 突然アタフタとし始めてしまい何だか怪しいが劇が始まったらそんなのは気にならなくなった。
 楽しい時間は過ぎ去り、最後のシーンで私は思わず感動で涙してしまった。
 持ってきたハンカチで涙を拭き隣を見ると、オックス様はいつものように眠っていた。
 やはりオックス様には少しばかり退屈だったようだった。
 ヨダレを垂らしてみっともなく眠っているので、私はまだ使っていない綺麗なタオルで彼のヨダレを拭き取った。

「ん……っ、あっ!」

 起き上がった彼は寝ぼけた目を擦ってやっと少しずつ目が覚めていく。

「ぬおお! すまない、サラサ! せっかく一緒に来たのに!」

 頭を抱えて自責の念に駆られている。
 ただ今回は私の罰で付き添っただけなので、彼が眠ろうとも私はとやかく言うつもりはない。

「お気になさらず。それよりも紳士としてヨダレを垂らす方をどうにかしてくださいませ」
「よ、ヨダレだと! もしやそのタオルは……」
「ええ、今拭き取ったものです」
「おおおおおお!」


 私のタオルを奪われ、オックス様は自分の手に持つ。

「ごめん、サラサ! 汚くするつもりはなかったんだ! 新しいので勘弁してくれ!」
「いや、それはオックス様の家の──」
「遠慮するな! 飛びきり似合うやつを買ってやる!」

 私の物ではなく、オックス様の家の物なので気にしなくていいのに全く私の話を聞いてくれない。
 私の腕を引っ張られ馬車に乗り込み、訂正することもできず、家に着く頃には私も忘れていた。

 また日が経ってから、オックス様は毎日勉強を頑張られる。
 さらにある日は──。

「サラサ! 市場調査をしたいから、宝石店に付いて来てくれ!」
「かしこまりました。ですがそれなら奥様の方が──」
「いいや、サラサがいいんだ! これは若い女性である君じゃないといけない! お袋は指が太くてだめなんだ!」


 オックスが失礼なことを思いっきり大声で叫ぶせいか、部屋のドアが勢いよく開けられた。
 そこには奥様が腕を組んで、青筋を立てていた。


「オックス! 貴方には鞭打ち百回よ!」
「お、お袋! ち、違うんだ! 話を……ぎゃぁ──ッ!」


 オックス様はたくさんのお仕置きを受けてしまった。
 どうにか罰を受け終え、氷で頬を冷やしながら宝石店へと向かった。
 お店には綺麗なブローチや髪飾り、さらには指輪なんかがたくさん置いてある。
 店主もオックス様の顔は知っているので、すぐさま特別席へと案内された。


「これは、これは、オックス様。本日はどのような品をお探しでしょうか?」
「ふむ、そうだな。女性にとって一番いいやつを持ってきてくれ」

 オックス様に言われた通りに、二つの宝石を持ってきて、オックス様へ提示した。

「こちらはマグマから出来たとも言われるルビーでございます」
「おお、綺麗だな。サラサの熱意にぴったりだな」


 どうして私の名前が出てくるのだろうか。
 店主は機嫌良く、さらにもう一つの宝石を持ってきた。


「あとこちらも逸品です。海のように全てを包み込むアクアマリンも女性から人気も高い物です」
「ふむふむ、これもサラサの優しさにぴったりだな」

 だからなんで私が基準で言われるのだろう。
 満足した彼は私へとびきりの笑顔で尋ねてきた。

「サラサはどちらが好きだ?」
「確か市場調査のはずですが、私の意見では参考にならないと思います」
「あっ……そうだった、市場調査、市場調査……」

 まるで忘れていたことを思い出したように何度も復唱する。
 するとまた何か思いついたように顔が輝き出した。

「これはあれだ! まずは一人の意見として参考にするためだ。だから、サラサ。答えてくれ! どの宝石が貰ったら嬉しい?」
「はぁ……」

 私は改めて宝石をどちらとも見る。
 どちらも素晴らしいほど大きな宝石で、とても綺麗だとは思う。
 ただいかせん、私はただの平民。
 宝石の良し悪しなんぞ分からない。


「申し訳ございません。私では計りかねます。ただ、一人の女性の立場から言わせてもらいますと──」
「ふむふむ」
「高すぎる物は相手に遠慮させるのではないでしょうか?」
「そ、そうなのか!?」

 オックス様は心底驚いたようだ。
 ただ貴族の令嬢で高い物に慣れている方ならその限りではないのかもしれない。
 しかし今回は市場調査というところで、特別な一人を対象にしているのではなく、複数の人たちから統計を出すことが大事だ。


「それなら仮にだぞ、サラサは俺から貰って嬉しいのはどっちだ? 仮にだぞ!」


 何度も強調せずとも、私が懸想するわけがない。
 髪が目に掛かって邪魔だったので、耳に髪を掛けてから膝を軽く折って机の上にある宝石を見た。
 だがやはり綺麗なだけでどちらを貰っても気持ちは変わらない。
 私は正直に言うことにする。

「申し訳ございません。やはりどれを貰っても私では遠慮してしまうと思います」
「そ、そうか……」
「ただ、オックス様が一生懸命選んで下さった物でしたらどれでも一番嬉しいですよ」
「ん……ッ!」


 急にむせてしまって顔を背けられた。
 すると私は一度別室で待機するように言われて出されたお茶を飲む。
 何故か私の指の寸法を測られた。
 これも市場調査で必要らしいが、たまに私ではオックス様の考えが分からなかった。
 何故か写真を撮られた。
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