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最終章 希望を託されし女神

ヨハネの挑発

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 残されたわたしたちも行動を起こさないといけない。
 罠の可能性が高いが、このまま何もしないのも危険がある。

「ガーネフ、もしわたくしに敵対するなら分かっていますね?」

 ガーネフに脅しをかけると唾を飲み込んで大きく頷いた。
 警戒はするが味方として考える。
 わたしは彼と共にヨハネを追いかけた。
 その時に下僕たちがこれまで何をしていたかを教えてもらう。

「アビ・フォアデルヘは死んだのね。まさか魔物だったなんて。でもよくネツキたちを退けましたね」
「それはメルオープさまたちのおかげです。三領土で連携を取ってネツキを裏切る予定だったみたいです。しかしその時にアビ・パラストカーティは命を落とされたらしいですが……」

 どうやらアビの命を握っているという話は本当だったようだ。
 アビの命を捨ててまでわたしのために動いてくれたのならそれに報いないといけない。


「あと仮面の戦士ですが、その正体がーー」


 ガーネフの話の途中に魔物が廊下へ出現してくる。

「やっぱり罠ね。ガーネフ、今は急ぐわよ!」

 わたしは魔法で前に立ち塞がる魔物たちを蹴散らしていく。
 そしてシルヴィの間へ到着すると、そこにはお父さまとお母さま、そしてレティアが玉座に座っている。

「どういうこと……」

 両親はもうヨハネに殺されている。
 ならばこれはただの幻だ。
 そう思った直後に急に火が起こり城内が燃える。
 そして三人とも玉座から崩れて落ちて、胸に剣が突き刺さっていた。


「どう? 久々にご家族に会えた気分は?」

 こちらを馬鹿にしたような顔でヨハネは聞いてくる。
 わたしの神経を逆撫して楽しんでいるのだ。

「ヨハネぇ!」

 わたしの頭に血が昇ってくる。
 家族を殺したこの女が憎くて仕方がない。

「義姉上、さすがにこれは悪趣味ですよ」

 ガーネフもわたしの気持ちを察してくれた。
 しかしヨハネはただ微笑むのみ。

「ねえ、マリアちゃん。わたしたちを倒さない限り貴女の大事なレティアさまがこうなっちゃうわ」
「そんなことはさせない!」
「ならどうするのかしら?」

 決まっている。
 ヨハネを殺してここから出る。
 わたしは足を踏み出そうとしたが足が全く動かない。

 ……どうして!

 わたしだけおかしいのかと周りを見ると全員が時を止めている。
 この現象に大きく見覚えがある。
 眷族が助けてくれる時にわたしだけ時の流れから切り離されるのだ。
 そして目の前には、土人形の形をしたフォルセティがいた。
 わたしに何か伝えようとしているのがわかる。
 突如フォルセティは体を爆散させた。

「そんな……どうして!?」

 一体どうしてフォルセティは爆発したのか。
 しかしその体の破片は綺麗なガラスを作り出す。
 わたしの体も動くことが出来る様になったので、ガラスを拾い上げて覗き込んだ。
 そこではガーネフとヨハネが仲良く食事を摂っていた。
 食事の手を止めたガーネフがヨハネに話しかけた。

「義姉上、そういえば先日面白いことがありましたよ」
「面白いこと? ガーネフちゃんのことだからどうせマンネルハイムの話でしょ? そんなのつまらないから聞かないー」
「ははっ、僕の話っていつもそう思ってたんですね……」

 可哀想なガーネフ。
 少し怖い顔をしている彼が落ち込むと不憫だ。
 だがすぐに立ち直り話を続けた。

「今回はそうではなく、マリアさまとアクィエルさまがお茶会をするという話になりまして」
「ちょっと何よその面白い話!」

 ヨハネが身を乗り出して話を急かす。
 どうやらこれはジョセフィーヌとゼヌニムがやっと和解したお茶会の前日のようだ。
 どのドレスを着ていこうなどと陽気な発言が目立つ。
 わたしはまた別の鏡を拾う。
 そこにもヨハネがおり、臣下から何かの報告を聞いてニヤリとしていた。

「へえ、ジョセフィーヌが魔法祭優勝したんだ。ふふっ、マリアちゃんやるわね」

 また別の鏡ではカジノに行っているヨハネとガーネフの姿があった。

「義姉上、そろそろ帰りません?」
「待ちなさい、もう少しで当たる気がします」
「そう言ってずっと外れているじゃないですか。もうお金ないですよ」


 わたしの知らないヨハネが次々と映し出される。
 だがそれがどうした。
 わたしの家族を殺したこの女の日常なんてどうでもいい。
 世界の時が動き出す。
 わたしは動かず、ヨハネもまた動かないわたしを訝しむ。


「どうしたの? 来ないならもっと面白いことを見せるわよ」

 その言葉と共に倒れていた家族たちが死体のまま動き出す。

「まり……あ……」

 お父さまにそっくりだがもう死んだものだ。
 もう心を乱されはしない。
 わたしは冷静に分析をする。

 どうしてヨハネはこんな回りくどいことをするのか。
 思い返せばずっとわたしを叩くチャンスはあった。
 ヨハネ自身が夏に会った時に言っていたが、次は容赦しないと言っていた。
 それに手加減しているとも。
 もちろん、どれもあの頃のわたしには大変なことだらけだった。
 しかしギリギリで乗り越えられる困難ばかりだ。

「ヨハネ、どうして本気で来ないの」


 わたしの言葉に初めてヨハネが図星を突かれ、目を見開いていた。
 すぐに表情を戻して笑みを作るが、彼女の心に隙が出てきた。

「ならそろそろ本気でやるわね。お前たち、愛する家族をその手で殺しなさい!」

 ヨハネの命令で三人は手にトライードを出現させて、わたしを攻撃しようとゆっくり歩いてくる。

「家族を自分の手で殺せーー」

 ヨハネの言葉が終わる前にわたしは魔法で家族に扮した者たちを吹き飛ばした。
 もちろん気持ちは良くないが、今は優位を保つ。

「ずっと疑問だったのよ」

 次にわたしはヨハネに向けて足を進める。
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