悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

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最終章 希望を託されし女神

救出劇

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 ガイアノスがこちらを見つめる。
 熱を帯びた視線から上から聞こえるひび割れた音に気付いていない。

「マリア、お前はもう俺のものだ」

 目を閉じてゆっくり唇をこちらに近づけてくる。
 その時、空から水がガイアノス目掛けて降ってくる。

「ガババババ!」

 フヴェズルングが空から水を落としてくれた。
 珍しく役に立ついたずら狼だ。
 その時間で彼らは間に合った。

「マリアさま!」
「下僕!」

 空から飛来してきているのは、クロートとアリア、そして下僕だ。

 ……髪が蒼くなってる!?

 下僕の髪が変色しているのに驚いた。
 変色するということは、魔力が五大貴族よりも上の証だ。
 一体何をすればそのようなことができるのか分からない。
 しかしだからこそ、三人の高魔力によって防衛の魔道具を抜けてきたのだ。

「この女を追ってきたか。だがちょうどいい、光の髪ごと始末する!」

 デアハウザーは手を下僕たちに向ける。
 手の前に黒い玉が出現して、バチバチと雷を溜め込んでいる。

「くらえ!」

 神の一撃が三人を襲う。
 その攻撃を予期していたかのように三人は同時に魔力を込めて目の前にドーム状の守りを作る。
 雷撃が炸裂するが、三人の魔力がデアハウザーの攻撃を上回った。
 全てのエネルギーが放電されても無傷に切り抜けて、クロートだけは騎獣を加速させて一人デアハウザーへと向かう。

「そう何度も食らいませんよ!」

 トライードが振り抜かれた。
 デアハウザーは床から手を離して、目の前に魔法の障壁を作り一撃を防いだ。

「ぐぬぬ! 偽物の蒼の髪がいい気になるな!」
「それはこちらの台詞です。偽物の神が姫様を好きに出来ると思うな!」

 クロートの剣技がデアハウザーの行動を制限する。
 そしてそのおかげで防衛の魔道具への供給が止まり、王都を覆った結界が消え去った。
 しかしデアハウザーは一瞬の隙を突いて、わたしへ雷撃を放つ。
 わたしは自分の魔力で防ぐが、足元にも雷撃が飛んで吹き飛ばされる。

「きゃあああ!」
「マリア!」

 ガイアノスもいきなりのことでわたしを守れない。
 その時、誰かがわたしを受け止める。
 ゆっくり目を開けるとそこには下僕の顔があった。

「お待たせしました」
「下僕……」

 いつも覇気のない顔をしていたのに、髪色が変わったせいか男前な顔になった気がする。
 色々言いたいことはあるがーー。

「遅いのよ!」

 わたしは下僕の頬を捻った。
 痛みに悶えるが気にしない。

「いたぁひです!」
「どれだけ……どれだけわたしは」

 デアハウザーから殺されかけて、もう少しで結婚も成立するところだった。
 一人で立ち向かうのがどれほど心細いか。
 これまでの我慢が切れて、決壊したように涙が溢れてくる。
 下僕はわたしを抱きしめて、力強く答えた。

「マリアさま、あとは任せてください」


「おまえ……その髪をどこで手に入れた!」

 ガイアノスは下僕の髪を見て激怒した。
 黄黒竜に乗って、わたしたちを追いかけてきた。

「その女を返せ!」
「返すわけないだろ!」

 トライードを手に持って下僕と切り結ぶ。

「いい気になるなよ人間共! ここがお前らの墓場だ!」

 デアハウザーの怒号と一緒に魔物が多数出現してくる。
 デビルやデビルキング、そしてシュティレンツで現れた牛の魔物やパラストカーティに現れた土人形等を一斉に召喚してみせた。

 ……これって何かの罠?

 確かに魔物を多数召喚されるのはこちらとしてもあまり良い状況ではない。
 しかしこの状況に、混乱している各領主たちの行動が決まることになる。


「エルト! 騎士団をこちらに呼びすぐさま魔物を殲滅せよ!」
「はっ!」

 ジョセフィーヌとゼヌニムを除くシルヴィたちは自分たちの安全のために、まずは魔物を殲滅させるために騎士たちを動かす。

「下僕さん、マリアさまはこちらへ」

 戦いに集中するために、わたしは一時的にアリアの騎獣に預けられるーーはずだった。

「きゃあああ!」

 腰に光の格子で絡みとられてわたしは空へと上げられる。
 一瞬の隙をついてやったのはヨハネだった。

「あらあら、油断しちゃ駄目じゃない」

 憎たらしい女だ。
 せっかくもう少しでこちらに形勢が変わるところだったのに。

「マリアさまを返せ!」

 下僕たちがすぐさま追いかけようとしたが、ガイアノスが立ちはだかる。

「よくやったヨハネ! それにアリア・シュトラレーセ! よく来たな、お前がくればマリアの命は助かる。俺の女のために死んでくれや!」

 わたしと下僕たちとの距離がどんどん離れていく。
 せっかくもう少しでわたしは自由の身だったのに。

「ヨハネ、その女を始末しろ」
「もちろんです、デアハウザーさま」

 ヨハネはわたしをどこかへ連れて行こうとする。
 しかしわたしもずっとやられっぱなしでいるつもりはない。

「いい加減にしなさい! 水の神オーツェガットは踊り手なり。大海に軌跡を作り給いて、大神に祈りを捧げるものなり。我らの敵に鉄槌あれ!」

 水の刃がヨハネの作った格子をズタボロに破壊する。

「っち!」

 ヨハネの舌打ちで思い通りにいかないことへの苛立ちを感じた。
 一矢報いたが差し迫った問題に慌てる。

 ……やばい、騎獣が出せないのに!

 わたしは空を飛ぶ手段がないため、打開策を考える。
 その時フワッと体が浮いて、ゆっくりと風に乗って下される。
 魔法で助けてくれたのはアスカだった。


「マリアさま、魔導アーマーをお持ちしました!」

 アスカの言葉と共にカオディの姿が見えた。
 マリアーマーを持ってきてくれたようで、これならわたしも前線に出られる。

「ありがとう!」

 わたしは即座にマリアーマーに乗った。
 ヨハネを倒せる千載一遇のチャンス。
 この混乱に乗じないと機会は巡ってこないだろう。


「カオディ、わたしの領土の騎士たちに指示を飛ばしなさい! 戦える者たちは魔物を抑えること。でも決して無理はしないように」
「は、はい!」

 わたしはカオディに指示を出してすぐに空へと上る。

「あら可愛らしい鎧ね」
「ええ、やっと自由になったわ。それにしても神なんて言われて警戒したけど、お粗末な考えね」


 このように魔物を出してまでわたしを捕まえようとするなんて、悪手にもほどがある。
 ヨハネはこの現状にどう思うのか。


「わたしもそう思うわ。でも全て予想済みよ」

 ヨハネは水の刃を作り出して、わたしへ放ってくる。
 とうとうヨハネもわたしを殺そうと動き出した。
 しかしわたしには疑問がある。

 ……どうして予想出来たのにこの状況を許すの?

 ヨハネに夢中になってて気付かなかった。

「お覚悟!」

 横からトライードの一閃がわたしを狙って振り抜かれた。
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