悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

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最終章 希望を託されし女神

偽物の神が嗤う

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 ガイアノスはこちらを一度も見ずに歩いていく。
 特に話題もないので話すこともない。
 他の者から見れば本当に夫婦になるのか疑わしく思えるだろう。
 もうすぐドルヴィの間に到着するところでガイアノスが話題を振った。

「お前は死にたくないよな?」

 いきなりの質問だ。
 質問の意図が読めないので正直に答える。

「もちろんです。そのために足掻いたのですから」

 思えばもう一年が経ったのだ。
 死にたくない一心で進んできて、今日まで生きることが出来た。
 クロートがいなければわたしは死んでいたに違いない。
 わたしは彼に何か返すことは出来ただろうか。
 何故彼はわたしにあそこまで尽くしてくれたのだろう。
 色々なことが思い出のように浮かび上がってくる。
 ガイアノスはわたしの答えに何かを考えているようだ。

「もし仮にだが、俺との結婚がなければ一番結婚したかったのはウィリアノスか?」

 ガイアノスの弟であるウィリアノスはわたしの元婚約者だ。
 わたしと魔力が釣り合う人物として、本来禁止である五大貴族と王族の結婚が許された。
 しかし色々なことがあったせいで、わたしから婚約破棄した。
 もししなくても、わたしの魔力が上がりすぎて彼との結婚自体無理になっていた。
 今更彼と結婚したいとは思っていない。

「特にわたくしからは未練はありません。それに魔力が釣り合わないのですから、元から無理な結婚でしょう」

 率直な感想を伝える。
 ガイノアスは続けて質問した。

「なら他に好きな奴はいないのか?」
「そうですね……」

 わたしはふとクロートの顔が浮かび上がった。
 だがそれは恋心というよりも、彼への興味関心だろう。
 彼はわたしのために人生を棒に振った。
 一体どのような想いがあれば、あれほど哀しい顔で人のために生きられるのだろう。
 今から結婚するわたしがここで悩むのは外聞が悪いので、一瞬の思考ですぐさま答えた。

「残念ながら思いつきません」

 ガイノアス自体にも恋心はもちろん抱いていない。
 このような後継ぎのためだけの関係なのだから、わたしの意志は関係ない。
 彼も気にしていないのだろう。
 特に落ち込んだ様子もなく、少しばかり歩く速度が上がった。
 部屋の前に立っているのはわたしを捕らえにきて返り討ちにあった騎士団長だ。

「先日は世話になりましたな」

 根に持っているようでひと睨みされた。
 しかし、あれはあちら側が攻撃してきたので正当防衛だ。


「いいえ、あれぐらいの接待でしたらいくらでもさせていただきます」

 皮肉が効いたのか眉をピクピクと動かす。
 セルランと同レベルという噂があったが、おそらく王族側の権威を示すために少し高く見積もったのだろう。
 もしセルランが敵だったら、あの程度の罠で止められるとは思えない。

「ドルヴィからお二人だけ入れるように仰せつかっている。無礼な真似だけはしてくれるなよ」

 騎士団長はそれだけ言って扉の横にずれた。
 ガイアノスはドルヴィに入室の許可を求める。

「ドルヴィ、ガイアノスでございます。わたしの妻となるマリア・ジョセフィーヌをお連れしました。入室のご許可をいただけますでしょうか?」
「許す」

 扉が開けられて、その奥にある玉座にドルヴィが座っている。
 側近を近くに配置せずに、本当にわたしと直に話をしたいようだ。
 ガイアノスと共に部屋に入り、ドルヴィの目の前まで行って膝を付いて頭を垂れる。
 挨拶を述べた。

「この世に光が差し込み、常に前へ進もうとしたことで今日の出会いとなりました。万物の母であり、世界に初めて光をもたらした光の神デアハウザーと同じ感謝を貴方様に捧げることをお許しください」

 本物のデアハウザーは目の前にいる。
 相手はわたしが知っているとは思わないはずだから、当たり前のようにいつもの挨拶を告げた。
 わたしは光の神に魔力を送れないので、流れ的にはドルヴィだけが魔力を奉納する。
 しかしドルヴィはこちらに挨拶を返さずにただこちらを見ているだけだった。
 そしてやっと重い口を開いた。


「忌まわしき蒼の髪。やっとこれで我らの安寧がやってくる」

 ドルヴィは立ち上がり、ゆっくりと近づいて来る。
 殺気がこちらの心臓を鷲掴みしてくる。
 底知れない威圧がわたしの動きを許しはしない。
 体が無意識に震えて、ただ見ているしか出来なかった。
 ドルヴィの手がわたしの首を掴み持ち上げる。

「がぁぁあ!」

 どんどん力が強くなっていく。
 息が出来ずにただ体をジタバタさせて暴れるしかない。

「ち、父上! おやめください!」

 ガイアノスの制止の言葉を聞いて手を離してくれた。
 わたしは酸素を取り込み、呼吸を一生懸命整える。

「どうか一年だけ猶予を与えてください!その後は如何様にもして構いませんから。こちらの監視も強めて絶対に貴方様に危害を加えさせません」
「なら、アリア・シュトラレーセを生贄に出すんだな。今日中にあの娘を差し出せばこの者は助けてやる。どちらかが欠ければ、わたしの憂いも無くなる」
「それはご心配なく、ヨハネの臣下が捕獲に成功したと言っています」


 それを聞いて、ドルヴィは姿を変えていく。
 前に見た、金と黒が混ざり合った泥のような皮膚に、目が六つある化け物へと姿を変えた。

「お前の魔力があれば我の腹も満たされる。人間は全てわたしの餌だ。結婚式はわたしが祝ってやろう。永遠の呪いを持ってな」

 こちらを見下した態度は神だからこそできる傲慢だ。
 確かに恐ろしい存在だ。
 しかしそれでもわたしはまだ諦めない。
 本当の自由を手に入れるためならば。
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