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最終章 希望を託されし女神
下僕視点5
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アクィエルはさも当たり前のように言う。
「どうしてわたしが貴方みたい小物に協力しないといけませんの?」
ネツキは口を開けて情けない顔をしていた。
だが次第に顔が紅潮し始めた。
「わたしはヨハネさまの一番の臣下です! それを侮辱するのですか!」
アクィエルが今度は目を見開いた。
「まあそうでしたの。これは失礼しました」
急にアクィエルの態度が変化する。
ネツキはそれを見て、やっと自分の肩書に気付いてもらったのかと錯覚したのだろう。
彼は五大貴族というものを甘く見ている。
「そういえばヨハネさんはまだ当主になったばかりでしたわね。可哀想にこんな男しか味方に付けられないなんて」
「な、なななっ!?」
相手の神経を逆撫でするのが上手いアクィエルに完全に場を支配されている。
だが彼も臣下としての忠誠に自信があったのだろう。
ヨハネさまを侮辱する発言には耐え切れなかったようだ。
「な、何を言うか! ヨハネさまはシルヴィを出し抜き、マリア・ジョセフィーヌを手の平で転がすほどの人物だ! わたしもその臣下として、この残党共をこうして追い詰めたのだぞ!」
どんどん熱を帯び始め、声も荒い口調になっていく。
しかしアクィエルは、そよ風のように聞き流していた。
「ふーん、そうなのですね。その割には貴方もマリアさんに転がされているではないですか?」
「……は?」
ネツキは意味が分からず、頭の中で分析をしているようだ。
しかしそれでも答えが見つからないだろう。
いつだって自分が優位に立っている時は足元が見えないものだ。
「どうしてわたしがここに来ているか分からないようね。無能は早く消えてくれまし」
アクィエルは本当にガッカリした様子だ。
ネツキなんぞに時間を掛けるのが惜しいとすら感じている。
「一体何を言っているのです。わたしがいつマリア・ジョセフィーヌに転がされていると言うのか」
アクィエルは本当に面倒くさそうに答える。
「芸術祭の前から定期的に貴方の行動についての報告が来てますわよ」
「ば、馬鹿な。自分の身辺はしっかり情報を集めていた。あのような小娘にそのような頭が回るわけがない!」
ネツキは顔色を悪くしながら、必死に別の可能性を考えていた。
マリアさまを侮辱した発言の時点でぼくたちは飛びかかりそうになったが、アクィエルさまが全てを代弁してくれた。
「それはそうですわよ。何度も言いますけど、貴方みたい小物にマリアさんが頭を回すわけないではありませんか。場外で踊っている惨めな男に構っていられるほどわたしたちは暇ではありませんの、それではご機嫌よう」
アクィエルはドレスの裾を上げて、華麗にその場を去ろうとした。
だがネツキは往生際が悪くもアクィエルを止めようと手を伸ばした。
「ーーっ!?」
ネツキの手を弾き飛ばして、護衛騎士のレイモンドはトライードを首元へ向けた。
「汚らわしい手をアクィエルさまに向けるな」
「ぐぬぬ、いいのですか! これはシルヴィ・ゼヌニムをも裏切る行為ですぞ! たとえ実の娘だろうとも裁いてもらいます!」
アクィエルは特に気にしていないようで、まるで鼻歌を歌いそうなほどご機嫌に部屋から出て行く。
どうやら彼女はぼくらとは格が違うらしい。
みんなで顔を見合わせてアクィエルに付いていく。
「少しお待ちを」
メルオープがクロートを呼び止めた。
彼らは領土を守らないといけないので一緒にはいけない。
しかしぼくたちに伝えたいことがあるようだ。
「情報感謝する」
それだけ言って、メルオープは兵に命令してネツキが外へ行こうとするのを遮る。
ぼくたちを無事に行かせるために。
「アリアさんと下僕だったかしら、貴方たちは一緒の馬車に乗りなさい」
アクィエルに命令されたのでそれに従う。
護衛騎士のレイモンドはアクィエルの隣に座ろうとしたが、叩かれてアリアと交代させられた。
どうやら隣はアリアがいいらしい。
ぼくの横にレイモンドが渋々と座った。
馬車が動き出してから、アクィエルはぼくたちに経緯を聞いてきた。
なのでぼくたちは分かったことを全て話した。
アクィエルは眉を顰める程度だったが、レイモンドはかなり動揺していた。
「馬鹿な……そうすると俺たちとジョセフィーヌの確執なんて意味がないではないか。それは本当に真実なのか?」
「うん、信じられないかもしれないけど、あの場で見たんだ。ドルヴィが異形の姿になるのを。そしてそこに現れたアビ・フォアデルヘを」
ぼくたちだって信じられない真実だった。
この目で見てなお信じらない。
それならば見てない者からしたら、まるで妄想の類いのようにしか聴こえてないだろう。
「アクィエルさま、一つ質問してもよろしいですか?」
アリアが恐る恐るアクィエルに尋ねた。
先ほどの脅しのせいで少し怖くなっているようだ。
「ええ、構いませんわよ」
「どうしてシルヴィ・ゼヌニムもマリア姉さまを捕まえようとしたのですか? アクィエルさまとは全く正反対の行動のようですが」
「分かりませんわ」
即答だった。
しかし、すぐに言葉を続けた。
「急にお父さまがおかしくなったのよ」
「おかしくなった?」
アリアの疑問に頷いた。
「ええ、王国院から城に帰ったらまるでジョセフィーヌを目の敵にするような言動が多くなっていましたの。今思えばアビ・フォアデルヘが数日前に来訪したと聞いているわね」
「そんな……」
シルヴィが操られるなんて、この国は本当に崖っぷちに立っているのかもしれない。
しかし、アクィエルは特に悲観してはいなかった。
「それならそれでいいですわ。元凶が分かっているのなら叩くのみ」
アクィエルは自信満々に言うが、何か当てはあるのか。
そこでさらなる疑問が出来た。
「そういえばこの馬車はどこへ向かっているのですか? ゼヌニムにはもう少し南を通らないと着きませんが?」
「当たり前です。今向かっているのはビルネンクルベですから」
……ビルネンクルベ!?
パラストカーティとの内乱を起こした領土だ。
「どうしてわたしが貴方みたい小物に協力しないといけませんの?」
ネツキは口を開けて情けない顔をしていた。
だが次第に顔が紅潮し始めた。
「わたしはヨハネさまの一番の臣下です! それを侮辱するのですか!」
アクィエルが今度は目を見開いた。
「まあそうでしたの。これは失礼しました」
急にアクィエルの態度が変化する。
ネツキはそれを見て、やっと自分の肩書に気付いてもらったのかと錯覚したのだろう。
彼は五大貴族というものを甘く見ている。
「そういえばヨハネさんはまだ当主になったばかりでしたわね。可哀想にこんな男しか味方に付けられないなんて」
「な、なななっ!?」
相手の神経を逆撫でするのが上手いアクィエルに完全に場を支配されている。
だが彼も臣下としての忠誠に自信があったのだろう。
ヨハネさまを侮辱する発言には耐え切れなかったようだ。
「な、何を言うか! ヨハネさまはシルヴィを出し抜き、マリア・ジョセフィーヌを手の平で転がすほどの人物だ! わたしもその臣下として、この残党共をこうして追い詰めたのだぞ!」
どんどん熱を帯び始め、声も荒い口調になっていく。
しかしアクィエルは、そよ風のように聞き流していた。
「ふーん、そうなのですね。その割には貴方もマリアさんに転がされているではないですか?」
「……は?」
ネツキは意味が分からず、頭の中で分析をしているようだ。
しかしそれでも答えが見つからないだろう。
いつだって自分が優位に立っている時は足元が見えないものだ。
「どうしてわたしがここに来ているか分からないようね。無能は早く消えてくれまし」
アクィエルは本当にガッカリした様子だ。
ネツキなんぞに時間を掛けるのが惜しいとすら感じている。
「一体何を言っているのです。わたしがいつマリア・ジョセフィーヌに転がされていると言うのか」
アクィエルは本当に面倒くさそうに答える。
「芸術祭の前から定期的に貴方の行動についての報告が来てますわよ」
「ば、馬鹿な。自分の身辺はしっかり情報を集めていた。あのような小娘にそのような頭が回るわけがない!」
ネツキは顔色を悪くしながら、必死に別の可能性を考えていた。
マリアさまを侮辱した発言の時点でぼくたちは飛びかかりそうになったが、アクィエルさまが全てを代弁してくれた。
「それはそうですわよ。何度も言いますけど、貴方みたい小物にマリアさんが頭を回すわけないではありませんか。場外で踊っている惨めな男に構っていられるほどわたしたちは暇ではありませんの、それではご機嫌よう」
アクィエルはドレスの裾を上げて、華麗にその場を去ろうとした。
だがネツキは往生際が悪くもアクィエルを止めようと手を伸ばした。
「ーーっ!?」
ネツキの手を弾き飛ばして、護衛騎士のレイモンドはトライードを首元へ向けた。
「汚らわしい手をアクィエルさまに向けるな」
「ぐぬぬ、いいのですか! これはシルヴィ・ゼヌニムをも裏切る行為ですぞ! たとえ実の娘だろうとも裁いてもらいます!」
アクィエルは特に気にしていないようで、まるで鼻歌を歌いそうなほどご機嫌に部屋から出て行く。
どうやら彼女はぼくらとは格が違うらしい。
みんなで顔を見合わせてアクィエルに付いていく。
「少しお待ちを」
メルオープがクロートを呼び止めた。
彼らは領土を守らないといけないので一緒にはいけない。
しかしぼくたちに伝えたいことがあるようだ。
「情報感謝する」
それだけ言って、メルオープは兵に命令してネツキが外へ行こうとするのを遮る。
ぼくたちを無事に行かせるために。
「アリアさんと下僕だったかしら、貴方たちは一緒の馬車に乗りなさい」
アクィエルに命令されたのでそれに従う。
護衛騎士のレイモンドはアクィエルの隣に座ろうとしたが、叩かれてアリアと交代させられた。
どうやら隣はアリアがいいらしい。
ぼくの横にレイモンドが渋々と座った。
馬車が動き出してから、アクィエルはぼくたちに経緯を聞いてきた。
なのでぼくたちは分かったことを全て話した。
アクィエルは眉を顰める程度だったが、レイモンドはかなり動揺していた。
「馬鹿な……そうすると俺たちとジョセフィーヌの確執なんて意味がないではないか。それは本当に真実なのか?」
「うん、信じられないかもしれないけど、あの場で見たんだ。ドルヴィが異形の姿になるのを。そしてそこに現れたアビ・フォアデルヘを」
ぼくたちだって信じられない真実だった。
この目で見てなお信じらない。
それならば見てない者からしたら、まるで妄想の類いのようにしか聴こえてないだろう。
「アクィエルさま、一つ質問してもよろしいですか?」
アリアが恐る恐るアクィエルに尋ねた。
先ほどの脅しのせいで少し怖くなっているようだ。
「ええ、構いませんわよ」
「どうしてシルヴィ・ゼヌニムもマリア姉さまを捕まえようとしたのですか? アクィエルさまとは全く正反対の行動のようですが」
「分かりませんわ」
即答だった。
しかし、すぐに言葉を続けた。
「急にお父さまがおかしくなったのよ」
「おかしくなった?」
アリアの疑問に頷いた。
「ええ、王国院から城に帰ったらまるでジョセフィーヌを目の敵にするような言動が多くなっていましたの。今思えばアビ・フォアデルヘが数日前に来訪したと聞いているわね」
「そんな……」
シルヴィが操られるなんて、この国は本当に崖っぷちに立っているのかもしれない。
しかし、アクィエルは特に悲観してはいなかった。
「それならそれでいいですわ。元凶が分かっているのなら叩くのみ」
アクィエルは自信満々に言うが、何か当てはあるのか。
そこでさらなる疑問が出来た。
「そういえばこの馬車はどこへ向かっているのですか? ゼヌニムにはもう少し南を通らないと着きませんが?」
「当たり前です。今向かっているのはビルネンクルベですから」
……ビルネンクルベ!?
パラストカーティとの内乱を起こした領土だ。
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