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第五章 王のいない側近
下僕視点2
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目を覚ますと自室のベッドで横になっていた。
……気絶していたのか。
クロートから蹴り飛ばされてしまい、あまりの痛みに意識が飛んでいた。
喉が渇いたと思い、起き上がろうとすると身体中に痛みが走る。
「無理してはダメよ」
優しい声が聞こえてきた。
ディアーナがコップを渡して、手を添えてくれるので何とか飲むことができた。
「ありがとう、ディアーナが介抱してくれたの?」
「いいやわたしだ」
ディアーナの後ろにはエルトもおり、その頬は赤くなっていた。
優秀な騎士である彼が転けたりしたのだろうか。
「えっと、どうしたんですか?」
「わたくしが平手をしたのです」
ディアーナがきっぱりと言う。
僕は驚いた。
普段お淑やかな彼女がエルトに怒ったということだ。
王国院にいる間に二人が喧嘩したという話は聞かなかった。
一体何があったのだろう。
「これは儀式みたいなものだ。わたしはシルヴィの命を破るわけにはいかない。だが彼女の主人を捕まえた張本人でもあるのだから、これは受けないといけないものだ」
「カッコつけようともその件については本気で怒っていますので、マリアさまを救出するまでは絶対に許しません」
手厳しくディアーナはプイッと顔を背ける。
忠義を向ける相手が違うことによる喧嘩のようだ。
正直彼には同情している。
シルヴィを一番に考えないといけないのは、側近なら当たり前のことだ。
彼もなかなか苦労しているようだ。
ディアーナは再度ぼくの顔を見た。
「クロートと何があったのかは聞きませんが自分を一度見つめ直してみてはいかがですか?」
その言葉にショックを受けた。
普段誰よりも優しく肯定する彼女がぼくを否定するのだ。
自分の味方は誰もいないという事実に目の前が暗くなる。
「ディアーナもぼくは腑抜けだと思うんですね」
みんながマリアさまを救出するために動いている。
それなのにぼくだけが否定的なことを言うから、それを諭そうとしているのだろう。
「いいえ、ただ迷っている顔をしていたので提案しているだけです」
「迷っている?」
「はい。頭では誰もが分かっています。相手が強大でどうすることもできないと。取っ掛かりがない状態だと闇雲に動いてみるしかない。そこには衝突があると思います。でも闇があるのなら光だってあるはずです。それはもしかしたら足元かもしれませんね」
何か心に刺さる言葉だが、上手く表現ができない。
「皆さんにお目覚めを伝えてきますね」
ディアーナはそれだけ言ってエルトと共に部屋から出て行った。
何となく心に突っかかりを感じる。
そして再度来客が訪れた。
リムミント、アスカ、ラケシスだ。
入ってすぐアスカの大きな声が響き渡る。
「うわっ、クロートって結構弟には厳しいんだね」
「アスカ、病人の前なのであまり大きな声をあげないであげて」
リムミントがアスカを窘める。
全員が椅子に座った。
「一体どうしてこのようなことが起こったのですか?」
リムミントの質問に答えることはできない。
これはあまり公にしたくないことだ。
リムミントはこちらの話したくない意思を汲み取ってくれた。
リムミントはポツリと呟く。
「クロートは部屋にこもって一生懸命作戦を考えているそうよ」
「そうですか……」
他人事のような返事をしてしまった。
気分を害したかと思ったがそうではない。
「クロートに軽食を持って行ったけど、あそこまで余裕のなさそうな彼は初めて、本当に手がないようね」
やはり未来のぼくでも簡単に解決できることではない。
どうやっても不可能なのだ。
「やっぱり無理なんですかね」
アスカは暗い表情を浮かべた。
いつも明るい彼女でもこの絶望的な状況では作り笑いもできない。
だがラケシスだけはけろっとしている。
「そんなわけないじゃないですか」
ラケシスは涼しげに慌てることなく言い切った。
みんながラケシスを見て、その根拠を欲しがった。
ぼくは頭ではなく、心から言葉が勝手に出た。
「ラケシス、何か策があるの?」
「わたくしにはありません」
頭が垂れ下がった。
心が急激に沈み込むのがわかった。
あれだけ無理だと思っていたのに、それでも少しは期待している自分がいたのだ。
クロートでも分からないのに、誰が彼以上の智力を持っているのか。
「でも分かっている人物は知っています」
再度頭を上げる。
みんながラケシスの言葉を待っていた。
この危機的状況なのに希望があるかもしれないのだ。
「一体誰です? ぼくたちの知っている人ですか?」
「当たり前じゃないですか」
彼女は当然のような顔で答えた。
ぼくはリムミントとアスカの顔を見てみたが、どちらもラケシスの言葉に関心を持っていた。
「お願いです、その人物を教えてください!」
「マリアさまですよ」
ぼくたちは固まってその言葉をなかなか理解できなかった。
他の二人も全く分かっていない。
「どういうことです? 捕まっているマリアさまのお考えが分かるのですか?」
リムミントの疑問は誰もが持っていた。
たとえマリアさまが策を持っていたとしても、御目通りできない以上、策が無いのと変わらない。
「違います。でも姫さまはあの時、誰よりも騎士たちの動きに気付いていました。そして一瞬で判断を下して、託したではありませんか」
彼女の言っていることがさっぱり分からない。
あまりにもマリアさまが好きすぎて幻聴でも聴こえたのか。
だがそれでもぼくはその言葉を切って捨てることはできない。
「誰にですか?」
ラケシスは本当に面倒くさそうにしていた。
彼女からすると何故わからないのかわからないようだ。
……気絶していたのか。
クロートから蹴り飛ばされてしまい、あまりの痛みに意識が飛んでいた。
喉が渇いたと思い、起き上がろうとすると身体中に痛みが走る。
「無理してはダメよ」
優しい声が聞こえてきた。
ディアーナがコップを渡して、手を添えてくれるので何とか飲むことができた。
「ありがとう、ディアーナが介抱してくれたの?」
「いいやわたしだ」
ディアーナの後ろにはエルトもおり、その頬は赤くなっていた。
優秀な騎士である彼が転けたりしたのだろうか。
「えっと、どうしたんですか?」
「わたくしが平手をしたのです」
ディアーナがきっぱりと言う。
僕は驚いた。
普段お淑やかな彼女がエルトに怒ったということだ。
王国院にいる間に二人が喧嘩したという話は聞かなかった。
一体何があったのだろう。
「これは儀式みたいなものだ。わたしはシルヴィの命を破るわけにはいかない。だが彼女の主人を捕まえた張本人でもあるのだから、これは受けないといけないものだ」
「カッコつけようともその件については本気で怒っていますので、マリアさまを救出するまでは絶対に許しません」
手厳しくディアーナはプイッと顔を背ける。
忠義を向ける相手が違うことによる喧嘩のようだ。
正直彼には同情している。
シルヴィを一番に考えないといけないのは、側近なら当たり前のことだ。
彼もなかなか苦労しているようだ。
ディアーナは再度ぼくの顔を見た。
「クロートと何があったのかは聞きませんが自分を一度見つめ直してみてはいかがですか?」
その言葉にショックを受けた。
普段誰よりも優しく肯定する彼女がぼくを否定するのだ。
自分の味方は誰もいないという事実に目の前が暗くなる。
「ディアーナもぼくは腑抜けだと思うんですね」
みんながマリアさまを救出するために動いている。
それなのにぼくだけが否定的なことを言うから、それを諭そうとしているのだろう。
「いいえ、ただ迷っている顔をしていたので提案しているだけです」
「迷っている?」
「はい。頭では誰もが分かっています。相手が強大でどうすることもできないと。取っ掛かりがない状態だと闇雲に動いてみるしかない。そこには衝突があると思います。でも闇があるのなら光だってあるはずです。それはもしかしたら足元かもしれませんね」
何か心に刺さる言葉だが、上手く表現ができない。
「皆さんにお目覚めを伝えてきますね」
ディアーナはそれだけ言ってエルトと共に部屋から出て行った。
何となく心に突っかかりを感じる。
そして再度来客が訪れた。
リムミント、アスカ、ラケシスだ。
入ってすぐアスカの大きな声が響き渡る。
「うわっ、クロートって結構弟には厳しいんだね」
「アスカ、病人の前なのであまり大きな声をあげないであげて」
リムミントがアスカを窘める。
全員が椅子に座った。
「一体どうしてこのようなことが起こったのですか?」
リムミントの質問に答えることはできない。
これはあまり公にしたくないことだ。
リムミントはこちらの話したくない意思を汲み取ってくれた。
リムミントはポツリと呟く。
「クロートは部屋にこもって一生懸命作戦を考えているそうよ」
「そうですか……」
他人事のような返事をしてしまった。
気分を害したかと思ったがそうではない。
「クロートに軽食を持って行ったけど、あそこまで余裕のなさそうな彼は初めて、本当に手がないようね」
やはり未来のぼくでも簡単に解決できることではない。
どうやっても不可能なのだ。
「やっぱり無理なんですかね」
アスカは暗い表情を浮かべた。
いつも明るい彼女でもこの絶望的な状況では作り笑いもできない。
だがラケシスだけはけろっとしている。
「そんなわけないじゃないですか」
ラケシスは涼しげに慌てることなく言い切った。
みんながラケシスを見て、その根拠を欲しがった。
ぼくは頭ではなく、心から言葉が勝手に出た。
「ラケシス、何か策があるの?」
「わたくしにはありません」
頭が垂れ下がった。
心が急激に沈み込むのがわかった。
あれだけ無理だと思っていたのに、それでも少しは期待している自分がいたのだ。
クロートでも分からないのに、誰が彼以上の智力を持っているのか。
「でも分かっている人物は知っています」
再度頭を上げる。
みんながラケシスの言葉を待っていた。
この危機的状況なのに希望があるかもしれないのだ。
「一体誰です? ぼくたちの知っている人ですか?」
「当たり前じゃないですか」
彼女は当然のような顔で答えた。
ぼくはリムミントとアスカの顔を見てみたが、どちらもラケシスの言葉に関心を持っていた。
「お願いです、その人物を教えてください!」
「マリアさまですよ」
ぼくたちは固まってその言葉をなかなか理解できなかった。
他の二人も全く分かっていない。
「どういうことです? 捕まっているマリアさまのお考えが分かるのですか?」
リムミントの疑問は誰もが持っていた。
たとえマリアさまが策を持っていたとしても、御目通りできない以上、策が無いのと変わらない。
「違います。でも姫さまはあの時、誰よりも騎士たちの動きに気付いていました。そして一瞬で判断を下して、託したではありませんか」
彼女の言っていることがさっぱり分からない。
あまりにもマリアさまが好きすぎて幻聴でも聴こえたのか。
だがそれでもぼくはその言葉を切って捨てることはできない。
「誰にですか?」
ラケシスは本当に面倒くさそうにしていた。
彼女からすると何故わからないのかわからないようだ。
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