悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

文字の大きさ
上 下
221 / 259
第五章 王のいない側近

託した願い

しおりを挟む
 あまりにも突然色々なことが起こりすぎて頭が付いていかない。
 わたしは急いで頭の中で現状を整理して大事なものから並べる。

 一、ドルヴィが光の神であり、わたしを殺そうと躍起になっている。
 二、ヨハネの夫であるアビ・フォアデルへがドルヴィの元へ行っていた。
 三、謎の仮面を付けた者たちが好き勝手動いているせいで、伝承の仮定が根本からどんどん否定されていく。
 四、伝承の力でスヴァルトアルフの信頼を得て、ヨハネから城を取り戻す。

 最優先すべきことがいつの間にか後回しになっていた。
 頭を精一杯動かして何をすべきかを一生懸命考えた。
 このままではわたしは状況に身を委ねて、偶然に全てを任せるしかない。

 ……一体どうすればいいの?

 わたしは頭の中で自問自答をする。
 これしか方法はない。
 全ての問いを自分で作り、自分で回答する。

 これは偶然今起きているのか、違う。
 前から計画的に行われたことなのか、はい。
 誰が計画の中心にいるのか思い付く限り出す、ドルヴィ、ガイアノス、ヨハネ、アビ・フォアデルへ、仮面の者たち。
 この者たちで共通点があるか、……。
 ドルヴィ、神、魔物、伝承。

 わたしはどんどん足りない部分を見つけ出して行く。
 そしてその答えが出てしまった。

「マリアさま?」

 下僕の心配そうな声が聞こえたが、わたしは彼に答えられない。
 一瞬で気分が悪くなってくる。
 わたしは全て思い違いをしていた。

「まずい……やられた。このままだとーー」

 わたしが階段の方へ顔を向けた時、階段を降りてくる複数人の足音が聞こえてきた。
 鎧の音が鳴って、騎士たちが迫っていることがわかる。
 わたしは失敗していたのだ。
 それは昨日、今日ではなくもっと前から。
 わたしが気付いたことを伝えたい。
 だがどうしようもない。
 誰に何を伝えればいいのだ。
 多くは伝えることはできない。
 そのような時間もない。
 わたしはこの中で一番気付きそうな人物に全てを任せる。

「下僕」
「はい?」

 どこか頼りなさそうな顔をしている彼はいずれクロートになるという。
 騎士としての力量も文官としての策略もまだまだだが、彼ならやってくれるはずだ。
 クロートでは絶対に分からない。
 これまで近くにいたのは側近たちの方だ。

「わたしの剣を任せます。錆を落としてーー」
「そこまでだ!」

 騎士たちが多数押し寄せてくる。
 スヴァルトアルフの騎士たちがこちらを逃すまいと圧を掛けてくる。
 そしてその代表として、セルランのライバルであり、側近であるディアーナの恋人でもあるエルトが勅命を持ってきて宣言する。


「マリア・ジョセフィーヌ、シルヴィ・スヴァルトアルフより命が降った。黙って付いてくればレティア・ジョセフィーヌは見逃してやる、だがシルヴィの命に従わぬのなら、全ての側近を生きたまま神へ奉納する」


 彼の表情は辛そうだ。
 わたしを裏切ること、そして恋人を裏切ることを必死に耐えている。

「動くな!」

 ヴェルダンディとルキノがトライードを抜こうとするよりも早くわたしは大声を張り上げた。
 わたしを捕まえるつもりなら、わたしの命なんて無くなっても構わないというのと同義だ。
 わたしは自殺用のネックレスを外して床に置く。
 そしてあちらに足を進める。
 わたしの命令によって誰も動かない。

「エルト、一言だけ喋っていいかしら?」
「こちらを向いたままならわたしの責任で許します」

 彼は最後の優しさを見せた。
 わたしにはこれしか方法はない。
 わたしが王となるのに最後の関門と言ってもいいだろう。

「下僕、わたくしをまた笑わせてくれますか?」
「えーー」


 その言葉と同時に騎士たちがわたしの元へ来てわたしを連行する。
 下僕の顔がどうなっているのか分からない。
 彼はわたしの言葉に気付いただろうか。
 階段を抜けていくと、玉座の間にシルヴィ・スヴァルトアルフが来ていた。

「しくじったな、マリア・ジョセフィーヌ」

 その顔は落胆だった。
 確かにわたしは大きな間違いを犯した。
 だがそれでも。

「やはりヨハネ・フォアデルへほどの才覚はなしか」
「さあ、それはどうでしょう?」

 わたしはとぼけた感じで返した。
 だがシルヴィは怒ったりはしない。
 わたしの表情をしっかり観察して、何を考えようとしているか読み取ろうとしている。

「お前はこれからガイアノスに引き渡す。あいつはお前を妻として迎え入れれば、お前の死は許してくれるそうだ」
「分かりました、お受けましょう」
「きっちり三十日後に結婚式を行うそうだ」
「そうですか」

 わたしは今後の予定をすんなりと受け入れる。
 彼ならこうするだろうと思っていた。

「そなたの側近たちだがーー」
「それはグレイルヒューケンの件で相殺してください。彼らには彼らの人生があるのですから」
「そういえばそのような報告があったな。いいだろう、これで貸し借り無しだ。他にわたしがすることはあるか?」
「ご心配なく」

 シルヴィの最後の助け舟をわたしは自ら断った。
 エルトはわたしに目で訴える。
 助けを乞えと。

「良さぬかぁぁぁあ!」

 シルヴィからエルトへ叱咤が飛んだ。
 あまりにも大きな声で、騎士の数人が震えてしまった。
 エルトも初めてシルヴィの本気の威圧を受けたのだろう。
 その目は戸惑いがあった。
 だがわたしに心配などない。
 わたしはただ王へとなる頂きから自分の歩んできた足跡を一度振り返るだけだ。
 役目は終わった。
 王のいない側近とは断じて違う。

「では行きましょうか」

 わたしはそのまま離宮に移され、王族へ引き渡されるだろう。
 退屈な日々だろうと思う。

「マリア・ジョセフィーヌよ」

 シルヴィから声を掛けられる。
 わたしは振り向き、彼の目をしっかりと見つめた。


「何かするつもりか?」

 彼の目は真剣にわたしを見ている。
 ただの小娘ではなく、一人の王として。
 ならわたしも王に倣おう。

「わたくしは待つだけです。いい女の条件は待てることですから」

 シルヴィ・スヴァルトアルフはニヤリと笑った。
 彼も待つつもりだろう。
 彼を動かす何かが来ることを信じて。
 その日、マリア・ジョセフィーヌガイアノス・デアハウザーの妻となる決定が国中へ駆け巡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...