悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

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第五章 王のいない側近

過去の信仰

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 わたしたちは別の場所へと連れて行かれた。
 周りは城壁で囲まれて、中部屋ほどの大きさの部屋に全員が飛ばされた。


「なんだここは?」
「ヴェルダンディ、静かにしないと。ここは敵地かもしれないから」
「わ、わりぃ!」

 下僕がヴェルダンディに注意してくれた。
 慌てて口を塞いで、周りを何度も確認した。
 わたしも周りを見ると、テーブルの上に石板が多くあるが、掃除をしていないから少し埃が目立つ。

「あの方たちがいないですね」

 クロートの言葉を受けてハッとした。
 謎の仮面を付けた者たちの後を付けて行ったので、先に来ているはずだ。
 それなのにどこにもいない。

「少し調べてみましょう。何か分かるかも」

 わたしは部屋の中央まで移動すると、特に汚れた場所を見つける。
 クロートがその痕跡を調べてくれた。

「これは、かなり風化していますが誰かが亡くなった跡ですね。ですがここ最近ではないみたいですが……おや、何か書かれていますね」


 タイルに文字が彫ってあった。
 消えないようにしているようで、文字が昔すぎて読みづらい。
 クロートが読み上げてくれる。

「許せ、頼むと書いていますね」
「どういうことでしょう?」
「他にもありますね」

 決戦は敗北。
 聖書を絶やすな。
 血を絶やすな。

 書いてあるのはこれだけだ。
 あまりにも短く、一体何を残したいのかわからない。

「おそらく、死ぬ前に書いたのでしょう。一文を書く体力しかなく、そして息絶えた。この部屋をもう少し調べてみましょう」

 わたしたちは部屋にある一冊の本を見つける。
 全てが羊皮紙で出来ており、かなりのお金を使ったに違いない。
 中身を見ると、これもまた古語だ。
 わたしはゆっくり訳していく。

「歩みを……さかのぼるーー」
「それはわたしが使った方法ですね」

 ドキッと心臓が飛び出るかと思った。
 急に後ろからクロートが話しかけてくるので、びっくりしたのだ。

「いきなり声をかけないでください!」
「失礼しました!」


 本当にデリカシーのなさは下僕そのものだ。
 周りが注目したが気にせず調べるように言った。
 わたしは小声で彼に聞いた。

「それで、このページですけど。何をしたのですか?」
「過去へ戻る方法です」

 サラッと重要なことを言ってくる。

「ここに来たことがあるのですか?」
「いいえ、もうすでにホーキンス先生が見つけ出したのですが、弟子以外には秘匿するよう言われています」


 あのダメ教師の有能さは居ない時にこそわかる。
 そのような発見があったのに、わたしたちにすら報告しないのは少し良くないが、行方が分かっていないので、今回は不問としよう。

「これを使えばわたくしも戻れるのですか?」

 クロートは顔をしかめた。

「オススメしません。やれば術者に大きな反動があります。わたしは大きな魔力を得るのに半生を捨て、さらに姫さまには言えない後ろめたいことをしました。そして、過去に戻るためにわたしの存在を捧げております。いつわたし自身が消えるか分かりません。あと十年生きられればいい方でしょう」

 初めて伝えられた真実にわたしは思わず振り返りそうになってしまった。
 だがどうに平静を装い、他のみんなに悟られないように聞いた。

「わたくし……わたしのために一生を捧げたのですか?」

 わたしの言葉にクロートは答えず無言となる。
 一体どのような顔をしているのか前を向いているわたしには分からない。
 これは聞いてはいけないことだったか?

「わたし……ぼくはただマリアさまの生きている姿が見たかった。それだけのために戻ってきました。どうかぼくの死が貴女と別れさせるまではお側に置いてください」

 クロートの言葉は重く、一体これまでどのような人生を歩んできたのだろう。
 魔力を上げて、知識を上げて、理を捻じ曲げてこちらにやってきたのだ。
 その道中が平坦なわけがない。
 何度も道で躓いただろう、嵐が吹き荒れただろう、彼の心はもう傷付きそれでもわたしのために動いてくれる。
 わたしは彼の王になれているのだろうか。
 答えることができない。
 沈黙が流れて、たまらず別のページへと進んだ。
 そこには神々が一ページ毎に載っている。
 水の神オーツェガット、火の神シュベツーガット、風の神シェイソーナガット。
 そして、光の神ラムガットと闇の神ドウンケルガット。


「この光と闇の神はいつから間違っていたのでしょうね」

 百年前の内乱の原因となった、本物の聖典が見つかり光と闇の神が改められた。
 現在は光の神デアハウザーと闇の神アンラマンユだ。
 この二神に魔力を奉納するとやっと土地の魔力が回復した。
 それ以降は全ての領地に新しい聖典が配られたのだ。
 わたしが二人の神について考えていると、体の力が突然抜けた。

「姫さま!」

 クロートがどうにかわたしを受け止めてくれた。
 だがわたしの脱力は続く。
 これは魔力を吸われているのだ。

「一体どうしたんだ!」

 ヴェルダンディがわたしの不調に気付いてこちらに走ってくる。
 他の者たちもその声で気付いた。
 そして目の前の壁が突然玉座の間を映し出した。
 そこにいるのは、ドルヴィとガイアノスだった。
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