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第五章 王のいない側近
導く者
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シュトラレーセからライヘンまでは馬車だとかなりの日数を使うことになる。
そんな悠長な時間はなく、わたしたちは当然のように騎獣での移動をしなければならない。
本来だと冬に空へ昇るのはあまりにも危険だ。
あまりにも寒く、しっかりした防寒具を着てもなお寒い。
そのため小さな杖の魔道具を握りしめる。
暖かな空間をわたしの周りにだけ作るものだ。
魔法で似たようなことはできるが、魔法効率は魔道具を使ったほうがいいので魔力の節約ができる。
わたしたちは、クロート、ヴェルダンディ、ルキノ、下僕を連れていく。
戦闘になる可能性もあるので、他の側近達は安全のため残ってもらう。
ガシャガシャと黒い鎧を着たアビ・グレイルヒューケンがやってくる。
「お待たせした。念のために持ってきて正解でした」
わたしたちのために付いてきてくれるらしく、すぐに着替えてきてくれた。
数人の私兵を連れており、立ち振る舞いからかなりの手練れなのがわかった。
わたしたちは早速ライヘンまで飛び立つ。
シュトラレーセの東側に隣接する領土のため、鐘一つ分も掛からずに到着するだろう。
境界線を越え、ライヘン領に辿り着く。
わたしたちは祭壇のある場所へ直進する。
城の近くに大神殿があり、わたしたちはすぐにそこが分かった。
何故なら大きな煙が上がっていたからだ。
「遅かったか!」
アビ・グレイルヒューケンは舌打ちをした。
相手の行動があまりにも早すぎてわたしたちは遅れを取っている。
襲撃者が何を思ってこのような行動をしているのか分からないが、このような蛮行を許すわけにはいかない。
大神殿の前に行くと、大多数の騎士たちが倒れ伏している中、入り口を守っている一人の仮面を付けた戦士がいた。
目が開いているのか閉じているのか分かりづらい顔をしたアビ・ライヘンは後ろで指揮をしているが、攻めあぐねているようだった。
「おお、マリアさまが来て下さったぞ!」
アビ・ライヘンがこちらに気付いて騎士たちの士気を上げる。
わたしたちはすぐさま降りて、アビ・グレイルヒューケンが話をする。
「遅れて申し訳ございません。あれが化け物戦士ですか」
「左様。マリアさまがこちらにおられるのなら、あれはやはり別物か。あの戦士の話なら聞いていたがもう一人いる女の魔力まで聞いていなかった」
「どれほどの魔力なんですか?」
わたしが聞くと、倒れている騎士たちを指差した。
「全員が一撃の魔法で倒れ伏した。あまりにも強い水の魔法で受けた者は気を失った」
耐魔力があるはずの鎧であっても防げない魔力となると、領主候補生以上が使える魔法くらいしかない。
だが倒れている騎士は五百を超える。
そんな魔法は領主にだって無理だ。
「その女は何処へ?」
「大聖堂の中へ入っていった。祭壇は我らの宝だ。あの戦士をすぐさま倒したいのに、何人で掛かろうともトライードで力任せに振り回されただけで防がれる。技量が全く違うのだ。遠距離から攻めても相手の持っている魔道具で防がれるので、このような馬鹿げた戦術しか取れん」
口惜しそうにアビ・ライヘンは舌打ちをした。
クロートを相手に不意打ちだが一発で倒したほどだ。
任せられる人物は一人しかいない。
「あの者の相手はわたしがしましょう」
クロートがトライードを出して自ら名乗り出てくれた。
正直彼で押さえられないのならどうにもならない。
「俺も戦う!」
ヴェルダンディも戦いたくてうずうずしているようで、クロートは特に何も言わない。
彼もずっと訓練を重ねているので、任すことのできる腕前になってきている。
「ええ、二人で抑えて。その間にわたくしが中へ入ります。ルキノと下僕はわたくに付いてきてください」
クロートたちが攻めている間にわたしはルキノの騎獣に乗って、隙が出来た時に大神殿の中へと入るのだ。
まずはクロートとヴェルダンディが騎士たちが開けた道を通っていく。
「どこの誰かは分かりませんが、祭壇への道を開けてもらいましょうか」
「いいだろう。マリア・ジョセフィーヌだけは通す」
クロートの独白に近い言葉だったにも関わらず、謎の戦士はすんなりと許可を出した。
あまりに簡単に許可を出すので、わたしたちは耳を疑うしかない。
「姫さまは通していい?」
「ああ、あの方もお待ちだ。ただし他の者はダメだ。もし通るのなら、命の保証はできん。手加減できる相手でもないからな」
殺気が吹き荒れる。
他の騎士たちが恐怖で足が竦んでいる。
だがこれはチャンスかもしれない。
このような騎士と戦わなくてもいいのなら、それに越したことはない。
「分かりました。全員、ここで待機してなさい……合図が出たら飛び出しなさい」
わたしはコソッとクロートに命令した。
他の人を置いてわたしだけは先へと進む。
謎の戦士の元へ近付いていき、わたしは腰にあるトライードへとさり気なく手をやった。
その突如、空から大群の騎士たちがこちらに向かってきていた。
その見慣れたマントは金と黒が中央で分かれている、すなわちドルヴィの騎士団だ。
先頭にはヨハネがいる。
わたしを捕まえに来たのは明白だ。
「本当に来たか」
謎の戦士がぼやいていた。
そして謎の戦士が声を出さずに仮面を少しずらして口を動かした。
中へ急げ
わたしは大きな声を出した。
「クロート今よ!」
わたしの合図と共にクロートたち三人は騎獣を出して突進してくる。
分かりやすい演技で謎の戦士が倒れた。
だが進むしかない。
ここにいればヨハネに捕まる。
わたしはこの大神殿で待つ謎の女に会うしか方法はない。
そのままで大神殿に入り、大きな祭壇が奥にある。
大部屋しかないためこの大神殿全てが見通せる。
そして祭壇の上には、前に図書館で襲ってきた謎の女がこちらを待ち構えていた。
「よく来たわね。しっかり五人いるわね」
……五人?
わたしとクロート、ヴェルダンディ、ルキノしかいないはずだ。
後ろを振り向いて確認してみると、ヴェルダンディの騎獣にアビ・グレイルヒューケンがしがみついていた。
「何かすると思っていたら案の定だ。マリアさまだけ入ったら疑われるかもしれないから、何がなんでも付いていくつもりだった」
恐ろしい執念だが、彼がここまで付いてきてくれるのは助かる。
わたしは再度謎の女を見た。
「一体何が目的なの! 貴女たちのせいで伝承が潰えるのよ!」
「ここは伝承の場所ではない」
謎の女はきっぱり答える。
だがおかしな話だ。
しっかり祭壇もあるし、ここが伝承の場所ではないのならここはなんだ。
「貴女の幸運は何よりもかけがえのないもの。四つの領土でここだけだった。そしてライヘンと交流のあるアビと仲良くなっている。これほどの幸運はない」
「一体何を言っていますの?」
どこか不気味な女だ。
何だか鳥肌も立ってくる。
まるでヨハネを前にしているような威圧感がこの女からしてくる。
「真実はこの先にある。来なさい」
謎の女はいきなり踊りを始めた。
わたしのよく知る踊りだった。
わたしたちの魔力が自然と吸い上げられる。
わたしとクロートは何ともないが、他の者は膝を付いて魔力が失われる脱力に襲われていた。
そしてこれは伝承を解く時にも似たようなことがあった。
祭壇の横にある地面が吹き飛んだ。
突然不思議な柱が数本現れた。
まるでその柱を潜れといっているように真ん中だけ空いている。
「では行きましょう」
後ろから走ってくる誰かがいた。
わたしたちが振り向くと、謎の戦士が全速力でこちらに向かってきて、大きな跳躍でわたしたちを追い抜いていく。
謎の女を抱き抱えてその柱の中央に向かうと消え去った。
「一体どういうこと?」
この先に何があるのか。
わたしが迷っているとクロートが急かせる。
「後ろから大勢の足音が聞こえます。このままだと、ヨハネさまに捕まってしまいます。これはあの方たちを信じるしか逃げる術がありません」
どっちへ行こうが危険であることには変わりはない。
ならまだ可能性のある方へ向かうしかない。
「行きます!」
わたしは先頭で全員を率いて、柱の奥へと進んだのだった。
そして進んだ先は、辺り一帯が城壁で囲まれていた。
そんな悠長な時間はなく、わたしたちは当然のように騎獣での移動をしなければならない。
本来だと冬に空へ昇るのはあまりにも危険だ。
あまりにも寒く、しっかりした防寒具を着てもなお寒い。
そのため小さな杖の魔道具を握りしめる。
暖かな空間をわたしの周りにだけ作るものだ。
魔法で似たようなことはできるが、魔法効率は魔道具を使ったほうがいいので魔力の節約ができる。
わたしたちは、クロート、ヴェルダンディ、ルキノ、下僕を連れていく。
戦闘になる可能性もあるので、他の側近達は安全のため残ってもらう。
ガシャガシャと黒い鎧を着たアビ・グレイルヒューケンがやってくる。
「お待たせした。念のために持ってきて正解でした」
わたしたちのために付いてきてくれるらしく、すぐに着替えてきてくれた。
数人の私兵を連れており、立ち振る舞いからかなりの手練れなのがわかった。
わたしたちは早速ライヘンまで飛び立つ。
シュトラレーセの東側に隣接する領土のため、鐘一つ分も掛からずに到着するだろう。
境界線を越え、ライヘン領に辿り着く。
わたしたちは祭壇のある場所へ直進する。
城の近くに大神殿があり、わたしたちはすぐにそこが分かった。
何故なら大きな煙が上がっていたからだ。
「遅かったか!」
アビ・グレイルヒューケンは舌打ちをした。
相手の行動があまりにも早すぎてわたしたちは遅れを取っている。
襲撃者が何を思ってこのような行動をしているのか分からないが、このような蛮行を許すわけにはいかない。
大神殿の前に行くと、大多数の騎士たちが倒れ伏している中、入り口を守っている一人の仮面を付けた戦士がいた。
目が開いているのか閉じているのか分かりづらい顔をしたアビ・ライヘンは後ろで指揮をしているが、攻めあぐねているようだった。
「おお、マリアさまが来て下さったぞ!」
アビ・ライヘンがこちらに気付いて騎士たちの士気を上げる。
わたしたちはすぐさま降りて、アビ・グレイルヒューケンが話をする。
「遅れて申し訳ございません。あれが化け物戦士ですか」
「左様。マリアさまがこちらにおられるのなら、あれはやはり別物か。あの戦士の話なら聞いていたがもう一人いる女の魔力まで聞いていなかった」
「どれほどの魔力なんですか?」
わたしが聞くと、倒れている騎士たちを指差した。
「全員が一撃の魔法で倒れ伏した。あまりにも強い水の魔法で受けた者は気を失った」
耐魔力があるはずの鎧であっても防げない魔力となると、領主候補生以上が使える魔法くらいしかない。
だが倒れている騎士は五百を超える。
そんな魔法は領主にだって無理だ。
「その女は何処へ?」
「大聖堂の中へ入っていった。祭壇は我らの宝だ。あの戦士をすぐさま倒したいのに、何人で掛かろうともトライードで力任せに振り回されただけで防がれる。技量が全く違うのだ。遠距離から攻めても相手の持っている魔道具で防がれるので、このような馬鹿げた戦術しか取れん」
口惜しそうにアビ・ライヘンは舌打ちをした。
クロートを相手に不意打ちだが一発で倒したほどだ。
任せられる人物は一人しかいない。
「あの者の相手はわたしがしましょう」
クロートがトライードを出して自ら名乗り出てくれた。
正直彼で押さえられないのならどうにもならない。
「俺も戦う!」
ヴェルダンディも戦いたくてうずうずしているようで、クロートは特に何も言わない。
彼もずっと訓練を重ねているので、任すことのできる腕前になってきている。
「ええ、二人で抑えて。その間にわたくしが中へ入ります。ルキノと下僕はわたくに付いてきてください」
クロートたちが攻めている間にわたしはルキノの騎獣に乗って、隙が出来た時に大神殿の中へと入るのだ。
まずはクロートとヴェルダンディが騎士たちが開けた道を通っていく。
「どこの誰かは分かりませんが、祭壇への道を開けてもらいましょうか」
「いいだろう。マリア・ジョセフィーヌだけは通す」
クロートの独白に近い言葉だったにも関わらず、謎の戦士はすんなりと許可を出した。
あまりに簡単に許可を出すので、わたしたちは耳を疑うしかない。
「姫さまは通していい?」
「ああ、あの方もお待ちだ。ただし他の者はダメだ。もし通るのなら、命の保証はできん。手加減できる相手でもないからな」
殺気が吹き荒れる。
他の騎士たちが恐怖で足が竦んでいる。
だがこれはチャンスかもしれない。
このような騎士と戦わなくてもいいのなら、それに越したことはない。
「分かりました。全員、ここで待機してなさい……合図が出たら飛び出しなさい」
わたしはコソッとクロートに命令した。
他の人を置いてわたしだけは先へと進む。
謎の戦士の元へ近付いていき、わたしは腰にあるトライードへとさり気なく手をやった。
その突如、空から大群の騎士たちがこちらに向かってきていた。
その見慣れたマントは金と黒が中央で分かれている、すなわちドルヴィの騎士団だ。
先頭にはヨハネがいる。
わたしを捕まえに来たのは明白だ。
「本当に来たか」
謎の戦士がぼやいていた。
そして謎の戦士が声を出さずに仮面を少しずらして口を動かした。
中へ急げ
わたしは大きな声を出した。
「クロート今よ!」
わたしの合図と共にクロートたち三人は騎獣を出して突進してくる。
分かりやすい演技で謎の戦士が倒れた。
だが進むしかない。
ここにいればヨハネに捕まる。
わたしはこの大神殿で待つ謎の女に会うしか方法はない。
そのままで大神殿に入り、大きな祭壇が奥にある。
大部屋しかないためこの大神殿全てが見通せる。
そして祭壇の上には、前に図書館で襲ってきた謎の女がこちらを待ち構えていた。
「よく来たわね。しっかり五人いるわね」
……五人?
わたしとクロート、ヴェルダンディ、ルキノしかいないはずだ。
後ろを振り向いて確認してみると、ヴェルダンディの騎獣にアビ・グレイルヒューケンがしがみついていた。
「何かすると思っていたら案の定だ。マリアさまだけ入ったら疑われるかもしれないから、何がなんでも付いていくつもりだった」
恐ろしい執念だが、彼がここまで付いてきてくれるのは助かる。
わたしは再度謎の女を見た。
「一体何が目的なの! 貴女たちのせいで伝承が潰えるのよ!」
「ここは伝承の場所ではない」
謎の女はきっぱり答える。
だがおかしな話だ。
しっかり祭壇もあるし、ここが伝承の場所ではないのならここはなんだ。
「貴女の幸運は何よりもかけがえのないもの。四つの領土でここだけだった。そしてライヘンと交流のあるアビと仲良くなっている。これほどの幸運はない」
「一体何を言っていますの?」
どこか不気味な女だ。
何だか鳥肌も立ってくる。
まるでヨハネを前にしているような威圧感がこの女からしてくる。
「真実はこの先にある。来なさい」
謎の女はいきなり踊りを始めた。
わたしのよく知る踊りだった。
わたしたちの魔力が自然と吸い上げられる。
わたしとクロートは何ともないが、他の者は膝を付いて魔力が失われる脱力に襲われていた。
そしてこれは伝承を解く時にも似たようなことがあった。
祭壇の横にある地面が吹き飛んだ。
突然不思議な柱が数本現れた。
まるでその柱を潜れといっているように真ん中だけ空いている。
「では行きましょう」
後ろから走ってくる誰かがいた。
わたしたちが振り向くと、謎の戦士が全速力でこちらに向かってきて、大きな跳躍でわたしたちを追い抜いていく。
謎の女を抱き抱えてその柱の中央に向かうと消え去った。
「一体どういうこと?」
この先に何があるのか。
わたしが迷っているとクロートが急かせる。
「後ろから大勢の足音が聞こえます。このままだと、ヨハネさまに捕まってしまいます。これはあの方たちを信じるしか逃げる術がありません」
どっちへ行こうが危険であることには変わりはない。
ならまだ可能性のある方へ向かうしかない。
「行きます!」
わたしは先頭で全員を率いて、柱の奥へと進んだのだった。
そして進んだ先は、辺り一帯が城壁で囲まれていた。
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