悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

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第五章 王のいない側近

新たな道

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 ノヴァルディオン領はどうしても行かなければならない領土だった。
 何故なら伝承を解くためにも、北西にあるジョセフィーヌ領と面しているリーベルビランとゼヌニムより、東南の逆側にあるノヴァルディオンの方がヨハネの妨害もされにくい。


「一度シルヴィに報告しなければならない。このことはマリアさまは無関係だとな。マリアさまとアビ・グレイルヒューケンもご同行お願いします」


 わたしたちは急いで通信の間に向かって、シルヴィ・スヴァルトアルフと話をすることになった。
 シルヴィもこのことで動いているみたいなのですぐに時間を取ってくれた。

「うむ、さて話を聞かせてくれるかマリア・ジョセフィーヌよ」


 重々しく口を開き、その眼光は鋭くわたしを突き刺した。
 疑いの目を向けているのは明らかだ。

「わたくしも分かりません。今後ノヴァルディオン領には行くつもりでしたが、それはシルヴィを通してからのつもりでした」
「なるほど、それは伝承を解くためにか?」
「はい、伝承を解くと他領にはしわ寄せがいくのがどうしても納得できないのです。行ったところは神の恩恵が多くなるなら全部したほうがいいに決まっています。ですがその前に十分な調査を行ないたいと思っております」
「なるほど。ただ一つ聞きたい。スヴァルトアルフの伝承を解いて以降は逆に他領の要求魔力が抑えられたと報告があった。これはどういった理由かな?」

 わたしは言葉が詰まった。
 三領土の伝承を解いた時には、他の領土に魔力の皺寄せが行ったと聞く。
 それなのに今回は他領に良い方向に恩恵が与えられたと言われた。
 わたしたちの仮定が全て覆される言葉だった。
 ジョセフィーヌ領以外でも同じような結果になれば、神を怒らせていないという結論を出そうと考えていたのに、それと真逆の結果が出たのだ。

「分からぬか。まあよい。それよりも襲撃者の目的はそなたの邪魔ではないか?」
「確かにそうかもしれません。このままだと……」

 今なにをするのが最善かをわたしは頭をフルに使って考える。
 アビ・グレイルヒューケンが発言を求めた。

「お聞きしたいのですが、どこの領土が襲われたのですか?」
「ライヘン以外の三領土はもうすでに祭壇を破壊されたと聞く。一人の戦士に甚大な被害を受けているらしい。どの領土も手酷くやられ、かつ死者を誰も出さないという手加減までされてな。どの領土も突然出現したと口を揃えているね」

 どんな化け物だ、とわたしたちは唖然とする。
 ノヴァルディオンも優秀な騎士は多い。
 それなのに一人の戦士に負けるなんて、セルランと同等以上の強さを持つということだ。
 そこでわたしが思う二つの候補者が現れる。
 一つは犯罪組織を追い詰める時に出てきた男。
 そしてもう一つは昨日突如現れて不思議な言葉を残す女を守っていた戦士だ。

「まさか……もうあそこまで移動したっていうの? どうやって……、いやそれよりも」


 一日で移動を終えて、三領土を襲撃するなんて普通ではない。
 組織で動いているのかもしれない。
 だがセルランクラスの騎士がそんなにいるわけがない。


「おい、何か分かったのなら話せ」


 シルヴィがわたしが何かに気付いたことを察して答えを急がせる。
 わたしはその人物たちの心当たりを告げた。


「なるほど、ノヴァルディオンには行くなと行って、自分は即日攻め入るのか。実に腹立たしいやつだ。なら次に攻めるのはライヘンだろう。しかし我々がマリア・ジョセフィーヌを匿っている以上は他領と微妙な関係となっている。おいそれと援軍を出すこともできんとはもどかしい」
「それでしたらわたしめが交渉しましょう」

 グレイル・ヒューケンが前に出て役目を買って出た。
 わたしはバレないように内心で舌打ちした。
 わたしが元々用意していた手札だったが、思わぬ形で使うことになった。
 彼はアビ・ライヘンとは仲が良い。
 ノヴァルディオンとの交渉の時には彼に活躍してもらおうと裏で考えていた。
 それなのに予想と違うところで彼の力を使うことに、まるで気持ち悪いほど動かされている気がする。


「そういえばお前はアビ・ライヘンとは懇意にしていたな」
「はい。今回のマリアさまの御姿のあるところに襲撃者が現れれば誤解だと分かってくれるでしょう」
「うむ、なら早急に動け。アビ両名は連絡係としてわたしに逐一報告しろ。あちらのシルヴィにはこちらから話をつけてやる」
「「畏まりました」」


 シルヴィとの通信が終わり、その後はアビたちで交渉するとわたしは部屋から出た。
 部屋の外にはラナとアリアがいた。
 今起こっていることにかなり心配している様子だ。
 わたしは二人を安心させようと笑顔で近付こうとしたら、突如として光の蝶が目の前を通り過ぎた。


「「きゃあぁ!」」

 わたしとアリアは突然の出来事で思わずお尻をついた。
 前にシュティレンツでも現れた謎の蝶たちだ。

「マリアさま大丈夫ですか!」

 ヴェルダンディがわたしに駆け寄ってくるのでわたしは大丈夫と答えた。
 もしかするとまたシュティレンツの城のように何かあるのかもしれない。

「一体二人してどうしたんですか? 急に倒れるからびっくりしましたよ」
「そういえばヴェルダンディには見えないのでしたわね。今そこに蝶がーー」

 わたしは自分の言った言葉の矛盾に気が付いた。
 同時にアリアも驚いて倒れたのだ。
 わたしの声に驚いたのではなく、明らかにわたしと同じ物を見て驚いたのだ。
 わたしはアリアを凝視した。

「ど、どうしました。マリア姉さま?」

 わたしは立ち上がってアリアの肩を掴んで確認する。

「アリア、正直に答えなさい」
「は、はい」

 わたしに圧されてアリアは少し震えている。
 だが今はそれを気にしている場合ではない。
 それよりも確認しないといけない。

「今目の前を横切った蝶が見えましたね?」
「蝶?」

 ラナは疑問の声が出た。
 ラナにはおそらく何も見えていない。
 だがアリアは頷いて、わたしと同じ物が見えたと肯定した。
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