214 / 259
第五章 王のいない側近
回復の差異
しおりを挟む
謎の襲撃犯がいたので、念のため他に隠れている者がいないか捜索が始まった。
わたしたちは安全だと分かるまで部屋で大人しくする。
次の日になって確認が全て終わったということで、わたしはアビたちと食事を摂りながら話をすることになった。
「こちらの警備が杜撰で大変申し訳ございません」
開口一番に謝罪をアビから言われた。
見る限りかなりの手練れだったので、敵の方が優れていたにすぎない。
わたしは彼の謝罪を受け入れた。
「気にしないでくださいませ。わたくしも無事ですし、クロートも今後の護衛には特に気を付けると、気を引き締めていましたから」
「そう言っていただけるとわたしも安心できます」
アビは真面目な男だ。
わたしは五大貴族だが、今は家を追い出されたので地位があってないようなものだ。
本来ならわたしを客として扱う必要すらない。
この男には一生の恩となる。
わたしはゆっくりとスープに口を運ぶと、ラナは思案顔を作っていたことに気付いた。
「一体どのような目的でマリアさまに接触したのでしょう。何か言っていましたか?」
「ええ、ノヴァルディオン領へ行くかどうかの話をしていた時に突然やってきて、スヴァルトアルフの玉座の後ろへ行けと言っていました」
「シルヴィの玉座に? 一体どういうことですか?」
ラナが聞いてくるがわたしもさっぱり分からない。
わたしの記憶が正しければ、壁しかなかった記憶がある。
そこでもう一つ言っていたことを思い出した。
「そういえばアリアの名前を出していました」
「わ、わたしですか!?」
アリアは突然名前を出されて慌てふためく。
アビとラナがお互いに目を一瞬見合わせたのに気付く。
何かがあると感じたがわたしは気付かないフリをして話を続ける。
「ええ、アリアを連れて行きなさいって。何か心当たりがある?」
「それはそのぉ、わたしには全くわかりません!」
思った以上に動揺するので彼女は表情を隠す訓練をあまりやっていないようだ。
これはいつか足元を掬われかねないという不安があった。
ラナが助け舟を出してくる。
「マリアさま、おそらくですがーー」
ドアをノックする音が聞こえた。
食事の間に報告するのだから緊急を要する内容だろう。
「アビ、お話中申し訳ございません。来客が来られております」
「来客? 一体誰だ」
「アビ・グレイルヒューケンが数人の私兵と共に御目通りをお願いしております」
わたしと決闘をした男だ。
こんな朝から一体どういう要件だろう。
すぐにこの部屋に通された。
「突然の訪問なのに招き入れてくださりありがとうございます。どうか朝早くから訪問するわたしの馬鹿さを許していただきたい」
アビ・グレイルヒューケンはアビ・シュトラレーセに謝罪をした。
真面目が取り柄のこの男が一体どうしてこれほど慌ててやってきたのだろう。
「そなたがそれほど急ぐのだから何か理由があってのことだろう」
だがアビ・グレイルヒューケンは首を横に振った。
どうやら急ぎではないのに急いで来たらしい。
わたしとラナは顔を見合わせた。
「そういうわけではありませんが、どうしてもお礼を言いたいお方がおりましたゆえ」
アビ・グレイルヒューケンはわたしを見ると同時に膝を突いた。
「先日の非礼のお詫びと土地の復活をしていただきありがとうございます」
「へ?」
わたしは突然のお礼に何と答えればいいのか分からなかった。
だがすぐにスヴァルトアルフの全領土の伝承を解放したことを思い出した。
……日にちがかなり経っているのにわざわざ律儀ですね。
わたしは満面の笑みを作った。
「それでしたら、別に気にしなくてよろしかったのに。わたくしは目的のために貴方たちを利用したようなものですから」
「それでも土地の恵みを頂いたことには変わりません。渇いた土地が潤い、誰もがこの話題で持ちきりです」
アビ・グレイルヒューケンは感極まった様子で深くお辞儀をする。
アビ・シュトラレーセから聞いた話だと、シュトラレーセの恵みの回復はわたしの想定より低かったため他も似たような状況だと思っていたが、場所によって差異があるようだ。
この回復の差も調べないといけないかもしれない。
「もしよろしければ我が領土でおもてなしをしたいと思っています。もちろん、アビ・シュトラレーセ方もお越し下さい」
わたし一人だと危ないが領主も呼ぶということは特に後ろめたいこともないのだろう。
わたしは特に問題無かったが、騒がしい足音が聞こえてくる。
「一体何事だ! 大事な話の最中だぞ!」
アビ・シュトラレーセが大きな声を出して走ってくる文官たちを叱った。
だが彼らも緊急のためかその声掛けを無視した。
「アビ! 今ノヴァルディオンから通信が来ております! 謎の襲撃者たちが祭壇を破壊して回っているらしいので、こちらが何かしたのではないかと大変激怒されています」
「なに!?」
アビがこちらをチラッと見たがわたしは首を振って否定する。
今このような微妙な立場にあるのに勝手なことなんてできない。
情報が全く足りない。
わたしは完全に後手に回っていることを強く実感した。
わたしたちは安全だと分かるまで部屋で大人しくする。
次の日になって確認が全て終わったということで、わたしはアビたちと食事を摂りながら話をすることになった。
「こちらの警備が杜撰で大変申し訳ございません」
開口一番に謝罪をアビから言われた。
見る限りかなりの手練れだったので、敵の方が優れていたにすぎない。
わたしは彼の謝罪を受け入れた。
「気にしないでくださいませ。わたくしも無事ですし、クロートも今後の護衛には特に気を付けると、気を引き締めていましたから」
「そう言っていただけるとわたしも安心できます」
アビは真面目な男だ。
わたしは五大貴族だが、今は家を追い出されたので地位があってないようなものだ。
本来ならわたしを客として扱う必要すらない。
この男には一生の恩となる。
わたしはゆっくりとスープに口を運ぶと、ラナは思案顔を作っていたことに気付いた。
「一体どのような目的でマリアさまに接触したのでしょう。何か言っていましたか?」
「ええ、ノヴァルディオン領へ行くかどうかの話をしていた時に突然やってきて、スヴァルトアルフの玉座の後ろへ行けと言っていました」
「シルヴィの玉座に? 一体どういうことですか?」
ラナが聞いてくるがわたしもさっぱり分からない。
わたしの記憶が正しければ、壁しかなかった記憶がある。
そこでもう一つ言っていたことを思い出した。
「そういえばアリアの名前を出していました」
「わ、わたしですか!?」
アリアは突然名前を出されて慌てふためく。
アビとラナがお互いに目を一瞬見合わせたのに気付く。
何かがあると感じたがわたしは気付かないフリをして話を続ける。
「ええ、アリアを連れて行きなさいって。何か心当たりがある?」
「それはそのぉ、わたしには全くわかりません!」
思った以上に動揺するので彼女は表情を隠す訓練をあまりやっていないようだ。
これはいつか足元を掬われかねないという不安があった。
ラナが助け舟を出してくる。
「マリアさま、おそらくですがーー」
ドアをノックする音が聞こえた。
食事の間に報告するのだから緊急を要する内容だろう。
「アビ、お話中申し訳ございません。来客が来られております」
「来客? 一体誰だ」
「アビ・グレイルヒューケンが数人の私兵と共に御目通りをお願いしております」
わたしと決闘をした男だ。
こんな朝から一体どういう要件だろう。
すぐにこの部屋に通された。
「突然の訪問なのに招き入れてくださりありがとうございます。どうか朝早くから訪問するわたしの馬鹿さを許していただきたい」
アビ・グレイルヒューケンはアビ・シュトラレーセに謝罪をした。
真面目が取り柄のこの男が一体どうしてこれほど慌ててやってきたのだろう。
「そなたがそれほど急ぐのだから何か理由があってのことだろう」
だがアビ・グレイルヒューケンは首を横に振った。
どうやら急ぎではないのに急いで来たらしい。
わたしとラナは顔を見合わせた。
「そういうわけではありませんが、どうしてもお礼を言いたいお方がおりましたゆえ」
アビ・グレイルヒューケンはわたしを見ると同時に膝を突いた。
「先日の非礼のお詫びと土地の復活をしていただきありがとうございます」
「へ?」
わたしは突然のお礼に何と答えればいいのか分からなかった。
だがすぐにスヴァルトアルフの全領土の伝承を解放したことを思い出した。
……日にちがかなり経っているのにわざわざ律儀ですね。
わたしは満面の笑みを作った。
「それでしたら、別に気にしなくてよろしかったのに。わたくしは目的のために貴方たちを利用したようなものですから」
「それでも土地の恵みを頂いたことには変わりません。渇いた土地が潤い、誰もがこの話題で持ちきりです」
アビ・グレイルヒューケンは感極まった様子で深くお辞儀をする。
アビ・シュトラレーセから聞いた話だと、シュトラレーセの恵みの回復はわたしの想定より低かったため他も似たような状況だと思っていたが、場所によって差異があるようだ。
この回復の差も調べないといけないかもしれない。
「もしよろしければ我が領土でおもてなしをしたいと思っています。もちろん、アビ・シュトラレーセ方もお越し下さい」
わたし一人だと危ないが領主も呼ぶということは特に後ろめたいこともないのだろう。
わたしは特に問題無かったが、騒がしい足音が聞こえてくる。
「一体何事だ! 大事な話の最中だぞ!」
アビ・シュトラレーセが大きな声を出して走ってくる文官たちを叱った。
だが彼らも緊急のためかその声掛けを無視した。
「アビ! 今ノヴァルディオンから通信が来ております! 謎の襲撃者たちが祭壇を破壊して回っているらしいので、こちらが何かしたのではないかと大変激怒されています」
「なに!?」
アビがこちらをチラッと見たがわたしは首を振って否定する。
今このような微妙な立場にあるのに勝手なことなんてできない。
情報が全く足りない。
わたしは完全に後手に回っていることを強く実感した。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる