悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

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第五章 王のいない側近

回復の差異

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 謎の襲撃犯がいたので、念のため他に隠れている者がいないか捜索が始まった。
 わたしたちは安全だと分かるまで部屋で大人しくする。
 次の日になって確認が全て終わったということで、わたしはアビたちと食事を摂りながら話をすることになった。

「こちらの警備が杜撰で大変申し訳ございません」

 開口一番に謝罪をアビから言われた。
 見る限りかなりの手練れだったので、敵の方が優れていたにすぎない。
 わたしは彼の謝罪を受け入れた。

「気にしないでくださいませ。わたくしも無事ですし、クロートも今後の護衛には特に気を付けると、気を引き締めていましたから」
「そう言っていただけるとわたしも安心できます」

 アビは真面目な男だ。
 わたしは五大貴族だが、今は家を追い出されたので地位があってないようなものだ。
 本来ならわたしを客として扱う必要すらない。
 この男には一生の恩となる。
 わたしはゆっくりとスープに口を運ぶと、ラナは思案顔を作っていたことに気付いた。

「一体どのような目的でマリアさまに接触したのでしょう。何か言っていましたか?」
「ええ、ノヴァルディオン領へ行くかどうかの話をしていた時に突然やってきて、スヴァルトアルフの玉座の後ろへ行けと言っていました」
「シルヴィの玉座に? 一体どういうことですか?」


 ラナが聞いてくるがわたしもさっぱり分からない。
 わたしの記憶が正しければ、壁しかなかった記憶がある。
 そこでもう一つ言っていたことを思い出した。

「そういえばアリアの名前を出していました」
「わ、わたしですか!?」


 アリアは突然名前を出されて慌てふためく。
 アビとラナがお互いに目を一瞬見合わせたのに気付く。
 何かがあると感じたがわたしは気付かないフリをして話を続ける。

「ええ、アリアを連れて行きなさいって。何か心当たりがある?」
「それはそのぉ、わたしには全くわかりません!」

 思った以上に動揺するので彼女は表情を隠す訓練をあまりやっていないようだ。
 これはいつか足元を掬われかねないという不安があった。
 ラナが助け舟を出してくる。

「マリアさま、おそらくですがーー」

 ドアをノックする音が聞こえた。
 食事の間に報告するのだから緊急を要する内容だろう。

「アビ、お話中申し訳ございません。来客が来られております」
「来客? 一体誰だ」
「アビ・グレイルヒューケンが数人の私兵と共に御目通りをお願いしております」


 わたしと決闘をした男だ。
 こんな朝から一体どういう要件だろう。
 すぐにこの部屋に通された。

「突然の訪問なのに招き入れてくださりありがとうございます。どうか朝早くから訪問するわたしの馬鹿さを許していただきたい」

 アビ・グレイルヒューケンはアビ・シュトラレーセに謝罪をした。
 真面目が取り柄のこの男が一体どうしてこれほど慌ててやってきたのだろう。

「そなたがそれほど急ぐのだから何か理由があってのことだろう」

 だがアビ・グレイルヒューケンは首を横に振った。
 どうやら急ぎではないのに急いで来たらしい。
 わたしとラナは顔を見合わせた。

「そういうわけではありませんが、どうしてもお礼を言いたいお方がおりましたゆえ」

 アビ・グレイルヒューケンはわたしを見ると同時に膝を突いた。

「先日の非礼のお詫びと土地の復活をしていただきありがとうございます」
「へ?」

 わたしは突然のお礼に何と答えればいいのか分からなかった。
 だがすぐにスヴァルトアルフの全領土の伝承を解放したことを思い出した。

 ……日にちがかなり経っているのにわざわざ律儀ですね。

 わたしは満面の笑みを作った。

「それでしたら、別に気にしなくてよろしかったのに。わたくしは目的のために貴方たちを利用したようなものですから」
「それでも土地の恵みを頂いたことには変わりません。渇いた土地が潤い、誰もがこの話題で持ちきりです」

 アビ・グレイルヒューケンは感極まった様子で深くお辞儀をする。
 アビ・シュトラレーセから聞いた話だと、シュトラレーセの恵みの回復はわたしの想定より低かったため他も似たような状況だと思っていたが、場所によって差異があるようだ。
 この回復の差も調べないといけないかもしれない。


「もしよろしければ我が領土でおもてなしをしたいと思っています。もちろん、アビ・シュトラレーセ方もお越し下さい」


 わたし一人だと危ないが領主も呼ぶということは特に後ろめたいこともないのだろう。
 わたしは特に問題無かったが、騒がしい足音が聞こえてくる。

「一体何事だ! 大事な話の最中だぞ!」

 アビ・シュトラレーセが大きな声を出して走ってくる文官たちを叱った。
 だが彼らも緊急のためかその声掛けを無視した。

「アビ! 今ノヴァルディオンから通信が来ております! 謎の襲撃者たちが祭壇を破壊して回っているらしいので、こちらが何かしたのではないかと大変激怒されています」
「なに!?」

 アビがこちらをチラッと見たがわたしは首を振って否定する。
 今このような微妙な立場にあるのに勝手なことなんてできない。
 情報が全く足りない。
 わたしは完全に後手に回っていることを強く実感した。
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