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第四章 学術祭は無数にある一つの試練

勉強をしよう

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 王国院で側近が周りに危険を及ぼすほどの戦いをしたため、王国院長のムーサから呼び出された。


「マリアさま、この騒ぎは何ですか?」

 普段温厚なムーサさまがかなりの渋面になっていた。
 わたしはどう説明するか悩んだ。

「ウィリアノスさまが浮気したりとかですかね」

 ムーサはため息を吐いた。
 それは誰に対するものなのか。

「あの方はこれまで優等生でしたのに、一体どうしてこのようになったのやら。ただマリアさま……」

 彼女は一拍置いた。

「貴女の騎士は暴れすぎです」
「大変申し訳ございません」

 わたしは即座に頭を下げた。
 セルランとクロートの戦いはあまりにも激しく、止めに入った先生を吹き飛ばしたり、建物を一部破壊したりと結構な被害が出ていた。
 護衛騎士なので二人とも謹慎にするといった処置が取れないので、全てわたしが責任を負わなければならない。


「謝罪金はしっかり出します、どうか停学だけはお許しください」

 ここまで頑張って院に行けないなんていいものだろうか、いやない。
 わたしはチラッとムーサを見ると、少し微笑ましい顔だ。

「そんなことはしませんよ。学生たちも良い刺激になったでしょう。お手本となる騎士の戦いが見られたのですから。貴女の領土はこれからもどんどん成長するでしょう。どうか水の神に恥じないようこれからも全員をまとめてください。期待しています」
「はい!」


 ムーサのお部屋から出てわたしは通信の部屋へ向かった。
 お母さまとお話をするためだ。

「マリア、そちらでのことは聞いております。まさか婚姻を破談にするなんて」

 お母さまは話し始めた直後にもう頭を抱えていた。
 王族を迎えるために様々な派閥を説得したという。
 だがわたしはそれを簡単に破棄した。

「でも仕方ないではありませんか。あちらがわたくしをーー」

 少しばかり気持ちが暗くなり、下を向いてしまう。
 それを見て憐憫の気持ちが湧いたのか、お母さまは小さなため息だけ吐いた。

「貴女が辛いことは分かっております。ただシルヴィ不在時にこう悪いことが起きるせいでどこかに当たりたくなっているのです」

 お父さまが戻らない今はお母さまが代理として全権を握っている。
 その顔には疲労が強く残っていた。

「やはりそちらも大変なのですね」

 わたしが気遣いの言葉を掛けると、お母さまはすぐに笑った。

「そんな顔をしてはダメ。わたくしのことなんて気にしないで。もうすぐ学術祭でしょ? 季節祭で総合優勝したという報告が早く聞きたいものです」
「お母さま……必ずしてみせます!」

 わたしは元気良く答えると、笑ってわたしの健闘を祈った。
 それでわたしは一度部屋へと戻った。
 側近一同を集めて、学術祭へ向けての話を始める。

「ではこれより今後の話をしようと思うのですが……セルラン、傷が増えていませんか?」

 わたしが顔を殴ったせいでまだまだ腫れている。
 どうやら戒めとして治癒の魔法ではなく自然治癒で痛みを罰とするらしい。
 だが昨日以上にどこかしら痛々しい。
 どういうわけかディアーナが申し訳なさそうにしていた。

「もしかしてディアーナが殴ったの!?」
「違います、エルトさまです!」

 即座に否定された。
 どうやら昨日の話を聞いたエルトがスヴァルトアルフから飛んできて、主人に剣を振るうなんて言語道断だとボッコボコにしたらしい。

「エルトの怒りはもっともです。これだけで済んで良かったと自覚するように」

 クロートはきつい言葉をセルランに投げかけた。

「ああ、お前にも感謝している。止めてくれてありがとう」

 いつも険のある態度だったセルランがクロートに初めてお礼を言った。
 だがそれが気に食わないのかクロートは口を歪ませた。


「それならばこれからの行動で示してください」
「ああ、もちろんだ」

 二人の仲もこれからどんどん良くなっていくだろう。
 わたしは本題へと移る。

「リムミント、ヨハネの所在は分かりますか?」

 今回の一連の流れは全てヨハネが絡んでいるはず。
 常に彼女の所在を把握していないとまた何かあるかもしれない。

「それが……もうすでに王国院を出ております」
「好きなだけして逃げるなんて……」

 一体何がしたいのか。
 わたしを弄ぶだけで満足したなんて可愛い性格なんてしていない。
 だがもう王国院を出たということなら、今は彼女に構っている暇はない。

「そう……、それならこれからの報告を期待しております」
「かしこまりました」

 ヨハネの件は気掛かりだが彼女の行動を先読みするのは不可能だ。
 それならわたしはわたしで情報を持っておかないといけない。

「ヨハネがいないのならこれで学術祭に集中できますね」

 学術祭は上位成績者の数で決まる。
 各学年十人まで選出されるので、わたしの領土から複数人出さないといけない。

「他の領土にも上位成績を出すように言いなさい。もし選出されれば褒賞を出します」
「それは学生たちも励みになるでしょう」

 クロートも同意してくれた。
 そしてそこで彼は口をにやりとした。

「もちろん、側近は全員選出されるのでしょうが」

 クロートの言葉に全員が笑顔を深めた。

「もちろんです。ヴェルダンディ、まさか訓練で忙しくて勉強が疎かになっていませんよね?」

 わたしが見ると顔を逸らした。
 やっぱりしていないのだ。

「まあ、いいでしょう。結果を出してくれさえすれば過程は問いません。わたくしも今回は一位を取りに行きます」

 側近全員からおおぉ、という声が出た。
 わたしの試験だけは少し特殊なのだ。
 普通各々の学年が同じ範囲を解く。
 しかし五大貴族の試験では学年という壁がない。
 言ってしまえば妹のレティアとも競うのだ。
 だがやはり最上級生が有利なのは変わらない。
 今回の一番の敵はウィリアノスさまだろう。

「姫さまなら大丈夫でしょう。わたしが保証します」

 ピエールが白い歯を見せて笑顔で答えた。
 正直、領地経営と比べると勉強なんて簡単だ。
 わたしも負ける気はしない。

「では各自最後の試験を頑張ってください!」

 わたしは側近との話し合いを終わらせて、ゴーステフラートへ向かった。

「ようこそお越しくださいました」

 ユリナナたちは学生たちの学力を底上げするために食堂で集まって勉強しているようだ。


「わたくしが来るまでもないくらい熱心ですね」
「もちろんです。赤点が出たらどうなるかしっかり教え込んでいますので」

 ユリナナの目が怪しく光った。
 その言葉を聞いて学生たちの背筋がピーんと張った。
 しっかり教え込まれているようだ。

「それよりもシュティレンツとパラストカーティをどうにかしたほうがいいですね。領主候補生が二人とも遊んでいるらしいので」


 わたしは心当たりがあった。
 すぐに魔法棟の研究所へと向かうと何やら騒がしく、学生たちが逃げるように外へ走っていく。

「痛い、痛い! 離してくれる、耳が取れる!」
「聞こえない耳なら無くなってもいいでしょう」

 一体何事かと研究所へ顔を出すと、ちょうど耳を引っ張られたカオディとそれを引っ張るラナが出てくるところだった。

「これはマリアさま、お恥ずかしいところをお見せしました」

 わたしに気付くとラナは耳から手を離した。
 なかなか強い力で引っ張られたようでカオディは耳をさすっていた。

「マリアさまから言ってやってくださいませ。このようなひどいことはやめていただくようにと」

 カオディはまるで泣きそうになりながらわたしに懇願する。
 しかし、エリーゼが先ほど掴まれた方と逆の耳を掴んだ。

「いでで! 何をする!」
「お兄さまこそ、もうすぐ学術祭なのに研究ばかりしてどうするのですか。それも学生全員を巻き込んだりして、誰も勉強出来ないじゃないですか!」

 どうならわたしが来る必要はなかったようだ。
 カオディに笑って答えた。

「ではカオディ、勉強頑張ってくださいませ。もし貴方が成績上位になれなければ分かっていますね?」
「は、はい……」


 ガクッと頭を垂らして、とぼとぼと寮へと戻っていった。

「ありがとう、ラナ。貴方のおかげでわたくしは何も言うことがありません」
「いいえ、お役に立てて何よりです」
「あと、この前のお茶会は申し訳ございません。主催者のわたくしが途中で抜け出すなんて」

 結局あの時のことは色々な人に迷惑をかけた。
 ラナは謝罪を聞いて慌てだした。

「とんでもございません! こちらこそアリアのせいで……そのぉ」

 そういえばわたしはアリアに恋をしたウィリアノスによって振られた。
 ラナも言いづらいようだ。

「気にしていません。この件が終わったらお茶会を開きますので、また来てくださいますか?」
「是非とも」

 わたしのお願いにラナは快諾した。
 その後おそらくマンネルハイムの試合をしているだろうパラストカーティを見に行く。
 しかし訓練場は誰もいなかった。

「あれ、マリアさま?」

 ちょうどどこかへ行こうとする元いじめられっ子のルージュと出会った。

「メルオープたちはどうしましたの?」
「メルオープさまならビルネンクルベとマンネルハイムをしたあと、どっちの領土が勉強で上か競うことになったので、寮に戻って行きましたよ」


 どうやらライバルがいることで上手い具合に熱量が勉強に移ったようだ。
 単純だが勉強するなら何も言うことはない。
 わたしは自分の勉強に集中するために部屋へ戻るのだった。
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